夫の余命宣告
夫婦2人で医師の説明を受けるために、消化器外科へ行く。
主治医は、いつになく暗い顔をしている。
私の顔もまともに見ない。
「下咽頭癌ですね。手術すると声が出なくなる人が多いです。そして、予後が非常に悪いです」
夫の顔を見たら、真っ青だった。
「以前、放射線をかけているので、
基準値以上はかけてはいけない決まりがあるので、手術をおすすめします」
そして、
夫は「手術はしません」ときっぱり言った。
医師はなぜですか?と訊いていたし、夫も何か答えていたようだが、
私は、頭が真っ白になってしまって覚えてない。
「このあと耳鼻咽喉科の予約を入れてあるので、医師に相談してください」と言われ、
私は立ち上がったが、よろけてしまった。
耳鼻咽喉科の先生は、
「余命は半年から一年です」と言い
手術をすすめてきたが、
夫は頑なに「手術はもうしません。少しでもいいので、放射線をかけてください」と言った。
私は納得がいかなくて
「以前から喉が痛くて、検査していたのに、どういうことですか」と言ったら
半年前に撮った(内視鏡の)写真と、今回撮った写真を見せてくれた。
たしかに見た目は、ガンはないように見える。
いつからこんなに大きく広がったのかを訊いても
「うーん。この半年で広がったのかもしれないですね」
と曖昧なことしか言わない。
廊下に出たら、私は泣けてきた。看護師が来て、背中をさすってくれたが、
夫は「泣きたいのは、こっちなんだから」と言った。
「たとえ声が出なくなっても、手術したほうがいいのに」と何度も夫に訴えたが、
きいてくれなかった。
つづく