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和食チェーン「五穀」にクレームを言う

一人一泊1万円くらいの旅館の宿代を調べると、その半分近くが食費代だということに気づく。

自分はスノーボードをやるため素泊まりで宿を取ることがあるが、すると値段が半値近く下がる。相場としては、一食5,000円前後かかっているとみていいはずだ。今思い返せば「あれが5,000円?」と思う料理は、何度かあった。

「五穀」という和食チェーン店がある。

ここは、肉、魚、一通り揃った定食が1,000円ちょっとで頂けるレストランで、全国に64店舗ある。

和食チェーンというと大戸屋が競合になるのかもしれないが、値段・味・サービス全てを考慮すると、僅かに五穀の方が一枚上手のように感じる。料理の見た目もさることながら味も良く、ご飯もおかわり自由。これが玄米ならなお良かったが、看板である五穀米があればいい。

五穀の1,000円ちょっとの定食は、例え旅先で出てきても不満に思わないレベルなのだ。これは結構すごいこと。

ただ、一点だけクレームがある。

コロナが明け、人と直接対話しながら飲む酒の美味さに改めて酔いしれる日々が続き、慢性的な胃酸過多の症状が出た。

これはいかん、ときっぱり断酒し、胃酸の分泌を促す刺激性の香辛料や嗜好品を含むカレーやコーヒーなども一切断った。消化に良いものだけでしばらく生活し、漢方も飲んだ。

体調が元に戻りつつある週末、ふと訪れたショッピングモールで夕食にしようと飲食店に目をやると、五穀という店名が目に入った。

和食の基本は一汁三菜にあり。一汁五穀という店名は、そんな健康思想びとを導くいい店名だ。

週末には必ず酒を飲むがこの日はもちろん禁酒。その代わり、今日はいつも以上に多めに食べてもいいかなと考えたため、「ご飯おかわり自由」という言葉にも惹かれた。ここまで摂生してきたし、五穀米ならおかわりしてもいいだろう。

21時を少し過ぎたあたり、入り口付近で会計するカップルを横目に中に入ると、22時閉店のため客が引き始めるタイミングであったため、週末のわりには空いていた。

随分腹を空かしていたし、肉もしばらく食べてないから唐揚げ定食のような肉中心のメニューを頼みたかったが、胃酸過多の治りかけのためそれもグッと堪え、魚中心の定食にした。これでいい。五穀米をおかわりするのだから、これくらいの不摂生なら許容範囲だ。

丁寧に釜で炊かれたお米は、素人でもはっきりと違いが分かる美味しさだった。噛めば噛むほど味が広がる絶品の五穀米。おかずを存分に残し、さっそく注文の呼び出しボタンを押す。

愛想のいい20代そこそこの女性店員におかわりと伝えると、

「あ、もう五穀米ないんです。白米でいいですか?」

えっ。

こっちは胃酸過多で一週間摂生して本当は今頃こんなとこにもいなくて、酒飲んでご機嫌な週末を送ってるところを胃に問題ありだからここにいて、五穀米ならいいかと思って肉も控えたのにと湧き出る言葉をグッと飲み込み、

「はい。じゃあ白米で」

と返した。

五穀、という店名で閉店50分前に五穀米が切れていてもいい。

だがせめて、表の看板なのかどこかに、「五穀米おかわり終了」と手書きでもなんでもいいから、出しておいてほしかった。それが面倒なら入店時に「五穀米のおかわりはもうないんですが」と一言いってほしかった。いや、注文前でもいい。

むしろさっき、「五穀米をおかわりするときはセルフ(ドリンクバー的に自分で)でしたっけ?」「いや、そちらのボタンでお呼びください」というやり取りもしたわけだから、そのとき言えたはずだ。

また、そういうときに限って店員の子が可愛い。マスクをしていたから顔立ちまでは分からなかったが、雰囲気や話し方、もし断り美人大会があれば埼玉1位、いや、この逸材なら全国行ってもいい勝負するだろうと思わせる断り美人であった。

若干の笑みと申し訳なさが入り混じった、恥じらいにも似た無垢な微笑み。五穀米はもうないのか、という残念感を2秒くらいでスピード払拭させるいじらしさ。

品切れ断り方マニュアルがもし五穀にあるなら、それを入手して高値で転売できるのではないかと思うほど嫌味がなかった。

治りかけてきたからといって食いすぎるな、という神の啓示かとも思ったが十分すぎるほど残ったおかずに目をやり、白米を待った。

その白米も美味しかったのは言うまでもない。

8割の流儀・鷺谷政明

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