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財布をなくしたら喜べ

罰が当たるような悪行を働いたかもしれない。

財布をなくすと最初にそう考える。

これは天罰に違いない。あれがまずかったか。それともあの件か。

そんな思いを巡らせながら、銀行の電話番号を順に調べていく地獄の作業。免許証、健康保険証、マイナンバーカード。地獄は続く。

なにかをなくすと人は自己嫌悪に陥り、猛省し、やがてどこかで踏ん切りをつける。

確かに財布はなくしたが、牢屋に入ることも、怪我したわけでもない。

金は消えた。どうせたいして入ってない。

カード類も全部消えた。

手間だが、一から全部作り直せばいい。

悪用されるかもしれない。

しかし、悪用されて困るほどの資産も預金もない。

そんな単純なことではないが、そうでも思わなければ立ち上がれない。

財布に限らず、家の鍵にしても高価なアクセサリーにしても、大事なものをなくしたとき、強制的に精神がリセットされる。

パソコンやスマホは固まったとき再起動すると正常に戻ることが多いが、人間はそうはいかない。煮詰まれば煮詰まるほど小さな問題が大きく見えてきて、実態のないプレッシャーに押し潰されそうになる。

大事なものをなくすときは、なにかを一度リセットした方がいいときなのかもしれない。

悪行を働いたからではなく、「一度リセットせよ」という神の啓示かもしれない。

神は乗り越えられない試練は与えないという。

「どん底に落ちたら掘れ」、というイタリアの諺がある。

財布をなくしたら、喜べ。

8割の流儀・鷺谷政明

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