産業翻訳のトライアルを受けられるのは、どのレベルになったときか

翻訳について自習している人から聞かれて、うーんって思ったので、私見をまとめた。

まず、言語、言語方向、分野によってかなり差があること、また人によって背景知識や語学レベル(原文言語と訳文言語)に差があるので、何とも言い難いところを、ざっくり丸めていることをご了承ください。

おススメの方法は、ほんやく検定やTQE、アメリアの定例トライアル、通翻ジャーナルの紙上トライアルなど、原文、訳文、解説がある教材を見つけてマイルストーンとして使うこと。分野により、技術英検、知財翻訳検定なども使える。

なぜ検定かというと、分野別になっていること、翻訳で注意すべきことが解説してあること、訳例があることがやはり便利。対訳の素材はあっても解説は得られないけど、検定ならだいたいついているので。

自分の進みたい分野に関連する教材を使って、自分の段階を確かめる

レベル1:原文を読んでもわからない段階
原文言語の知識不足と分野の知識不足が原因。このレベルはもちろん受験できない。
→原文の言語の理解力を上げることがまず大切。

レベル2:原文はだいたい理解できるが、訳出できない段階
訳文言語での背景知識不足と翻訳スキル不足
→自学自習と添削(できれば通学)を並行で。背景知識を身につける方法も考える。

レベル3:原文を理解できて訳出できるが、遅いレベル
時間当たりのスループットが、プロの4倍以上かかっているなら、練習不足と訳文言語の知識不足。PC作業が遅く、辞書が足りない
→このあたりが一番つらいところ。写経や訳出練習を増やし、スピードを計測。訳文言語の知識補強。PC周りの整備、辞書の整備。目的別の単発セミナーも有効。

レベル4:訳出した後チェックしてもミスを見つけられないレベル
自分の訳文を客観的に見られず、ミスを検出する能力もない
→単発でもいいので添削を受けたほうがいい。プロの目を知ることができる。商品として訳文を見る目が大切。ミスを見つけられて出さないようになるには、『トライアル現場主義!―売れる翻訳者へのショートカット』(近藤 哲史、丸善出版)もお勧め。ただし絶版になっている。Amelia会員なら元記事の『伝・近藤のトライアル現場主義!』が無料で読める。
多くの人はレベル4で「また落ちた」「評価が厳しすぎる」って言ってる気がする(というか自分がそうだった)。この辺がプロとの境目なので、気合を入れてがんばったほうがいい。

レベル5:ミスが検出できるようになったレベル
→まだまだ安心せず、ミスを出さない工夫をする。ミス一覧を作って、訳すときから注意する。訳出後のチェックにも利用。
この辺で一度スピードが落ちるはず(注意する項目が増えるから)。あと一息!

レベル6:プロのスピードの3倍以内に収まるようになったレベル
♪多分この辺からトライアル受けたらいい♪
「やるべきことがきちんとできるようになった」レベル。もちろんまだまだ磨けるところはあるし、スピードは速くないけど、時間をかければ仕事ができるようになる。トライアルに合格しても新人にはすぐに仕事回ってこないので、その間に沢山練習したらいいし。

プロのスピードって分野や言語、翻訳者のレベルによっても違うので何とも言えない。原文が英語なら、英語200ワードを1枚として、1時間1枚を基準にすると分かりやすいし計算しやすい(実際にはもっと速い人がたくさんいる)。

あと、訳例は例であって定訳ではないので、やみくもに信じるのではなく裏取りをすることが大切。分野ごとのルールや作法、都市伝説もあるしねぇ…

文芸で翻訳を学ぶ書籍も出ているけど、産業翻訳の「分野の学習」にはならない。並行して学習するのは大切だし、文芸の考え方はとても役に立つけど、文芸の勉強だけして産業翻訳のトライアルを受けると大やけどをする。背景知識がないとダメなのは、どの分野も同じ。やりたい分野の教材をがんばって探してください。

分野によっては、検定以外にもたくさん教材がある(特許明細書など)ということもあるけど、全く見つからないという分野もある(契約書など)。 その辺は背景知識の学習の時に調べてほしい。
全く資料が見つからない分野は、現場で働くか、翻訳学校に行った方がいい。

あくまで自分や翻訳学校のクラスメート、アドバイスをした学習中の人を見ていて考えた私見なので、もっと早く受けたらいいという考えもあると思う。ただし、レベル1や2でやみくもにトライアルを受けまくるのは、翻訳会社に迷惑(採点にもコストがかかることをお忘れなく)。
また、慎重すぎて、インハウスの実績がありしっかり学習しているのに、「TOEIC満点を取るまでトライアルは受けない」などという謎のこだわりでトライアル受験をためらうのはもったいない。

1つの考え方として参考にしてもらえれば嬉しい。質問があれば、Twitter:ぶみにゃんご まで。


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