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実話怪談 第二十三話 「伝染する穢れ」

こちらの怪談は今夏ニコニコ動画で行われました配信イベントにて投稿した動画の原作です。
土地にまつわる厭なお話に仕上がっております。
投稿動画も埋め込んでおきますので、合わせてお楽しみいただけたらありがたいです。



羽柴さんの家は戦後に祖父の代で地元の不動産や土地の売買で財を成した。
明治時代から代々銘家として繋がっていた縁から、なんと政府からも直々に土地の買取り依頼が来るほどであったという。
しかし、そんな祖父が政府関係者からいくら金を積まれても何を言われようと絶対に買わない土地があった。
理由はその土地が付近の寺院を数軒一直線上に結んだ位置にある事とその土地周辺で過去に伝染病が大流行した際、その区画一帯が遺体置き場になったかららしく祖父は「あの土地は立地も良くないし、何より『穢れている』から買わないんじゃない。買ってはいけないんだ」と常々言っていたらしい。

そんな曰くつきの土地だが、船井家がそこを買い取って家を構えている。
ただ、そのような過去がある土地が影響しているのか、船井家では何度か配偶者を迎えようとしたことはあったものの結婚前に婚約者が身辺調査をしたことでおじいさんの代での犯罪が発覚して縁談が破談になってしまったり、結婚したとしても死産が続いたりと様々な理由で跡継ぎが出来なかった。
そのような事情から船井家は年老いた老夫婦だけが暮らすのみとなってしまったとのこと。

羽柴さんがまだ三十歳の頃。
彼女は自宅からほど近いリサイクルショップに勤務していた。
当時はピアスをたくさんつけていたことから、ファッションの知識があると認識されて古着部門の貴金属・時計などの担当を任されていた。
とは言え買取カウンター担当になった日は漫画やおもちゃ、トレーディングカード、家電、楽器類などの査定も、マニュアルを見てしなくてはならなかった。
その店舗ではどんな品物でも最低100円は付けるというルールがあり、大して価値のないトレーディングカードであっても100円の査定を付けていた。
そのせいか一見するとゴミとも取れるような物が持ち込まれることもあったが、それに反比例して「人の思いがこもった物」も持ち込まれることが多々あった。
羽柴さんの記憶に残っているのは、定職に付かない息子が音楽で成功すると言って親に買わせたもののコードさえ押さえられず持って来られた高価なギター、妊娠していると思しき女性に強制的に連れて来られたと思わしき男性が泣きながら査定に持ち込んだ人気漫画の歴代ガチャのコンプリートセットだったり、嫁入りするはずだった娘が亡くなってしまい着る人を失った花嫁衣装などであった。

そんなリサイクルショップにある日異質な物が持ち込まれた。

それは大量にお札が貼られた木箱だった。

一目して明らかに不気味だったが、買取査定をする為には箱を開けて中を確認しなくてはならない。この時ほど、買取カウンター担当に回ったのが嫌だったことはなかった。
蝋か何かでカチカチに固められお札が大量に貼られた木箱に、カッターナイフで切れ目を入れて蓋を開けると、出てきたのは着物を着た人形だった。
薄汚れており所々何かでついた染みもついていたため正直素手で触るのすらも躊躇われた。
羽柴さんはこの人形に気持ち悪さ以外にも異様なまでの不気味さと息の詰まるような威圧感を感じた。

中身の人形を見てから羽柴さんは買取依頼の書類を確認ところ、その人形はあの船井家から持ち込まれた物だった。
隣近所であるため住所は知っていたので間違いないという。
その店ではそのような類の人形を扱うことはなかったこともあり、最低金額の100円を付けて店内放送で番号を呼んだ。
持ち込んだ船井家の老夫婦は異論を唱える事なく寧ろうれしそうに査定シートを受け取り、満足そうにレジで換金して足早に帰って行ったそうだ。

船井夫妻が帰ってすぐに羽柴さんはその人形を木箱に納め直し、外に置かれた廃棄物用のコンテナのなるべく奥の方へと放り込んだ。

一時でもその人形を側に置いておきたくなかった。

店に戻り作業をしていると、その日の夜勤の担当者が出勤して買取カウンターに入ってくるなり、挨拶もなしに「倉庫に気味の悪い人形置いたの羽柴さん?!」と迷惑そうな表情で問い詰めて来た。
すぐに船井夫妻が持ち込んだ人形が頭に浮かんだ羽柴さんは、

「人形?今日入った人形なら、コンテナに捨てたよ」
そう言ったが
「そんな筈はない、倉庫のドア開けてすぐのところに置いてあった!」
そう怒った口調で返された。

この店は店舗とは別に季節外の衣類を保管したり、おもちゃ担当のパートがおもちゃを消毒したりする作業場のような倉庫があるのだが、その従業員が出勤して倉庫を開けると人形がドアの前に置いてあったと言うのだ。
羽柴さんは別の夜勤の担当者と買取カウンターを交代し、一緒に倉庫に観に行った。
すると羽柴さんが木箱に納め直してコンテナに投げ入れた筈の人形が、木箱から出された状態で倉庫に入ってすぐのところに置かれ、人形を入れていた木箱は傍に投げ捨てられていた。

誰かの悪戯なのだろうか?
いや、あまりの気持ち悪さに外に置かれたコンテナのなるべく奥の方に投げ入れたはずだ。
それをわざわざコンテナの中に入って倉庫まで持ってくるとは到底考えられない。
羽柴さんは人形を再び木箱に入れて今度は布ガムテープでぐるぐる巻きにしてまたコンテナの奥に投げ入れ、その件はその日のうちに終わった。

かに思われた。

そのたった一体の人形の一件を皮切りに倉庫で作業する多くの従業員が「倉庫で見られている気がする」「倉庫が怖い」と言い出し次々に退職していった。
たしかにあの日以降、倉庫の雰囲気が変わった。
倉庫だけでなく店全体が淀んだような空気が漂っていた。
気のせいなどではない。
羽柴さんも倉庫で作業をしていると、誰かに横から覗き込まれたり、棚と棚の間の通路を誰かが歩く音がしたりする体験をした。
店舗内でも商品がひとりでに落ちたり呼び出し用の音響機器が原因不明の不調をきたすなどといったことが立て続けに起こった。
そんなことが続くので、補填のために入ったアルバイトたちもすぐに辞めてしまう。
それからこのリサイクルショップ自体も移転した。
その後に居抜きで入る店も殆どがなぜか長く続かなかった。
駅が近く好立地でもあるにも関わらずにである。
数年すると、

「あそこには幽霊が出る」

そんな噂がまことしやかに囁かれるようになり、そのリサイクルショップがあった場所は今では更地になっているという。
コンビニでも建てられそうなほど広いものの、未だに何かができるという話すら聞かないとのこと。

リサイクルショップのあった土地は船井家にまつわるなんらかの穢れにたった一体の人形で汚染されてしまったのだろうか。
未だに真相ははっきりしない出来事だったものの、リサイクルショップのあった土地は未だに更地のまま放置されているという。

あとがき
かなり大きな配信イベントのトップバッターで紹介していただいた動画の原作です。
リサイクルショップ巡り好きなんですが、もしかしたらこういった因縁物は日々持ち込まれており、人知れず処分されているなんてこともあるかもしれませんね。
余談になるんですが、この動画を流してもらった配信で「その人形田中俊行さんにあげればいい」というコメントが流れたので少し笑ってしまいました。

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