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時機に後れた”バーチャルオンリー株主総会”こと「場所の定めのない株主総会」の始まり

 いわゆる「バーチャルオンリー株主総会」を可能とする改正産業競争力強化法が2021年6月16日に公布され,同時に施行された。
 当初の予定では,今年6月の総会シーズンに向けて制度開始の予定だったが,審理が遅延,これに間に合わず,何とも間の抜けたタイミングでの施行となった。
 ただ,必ずしも感染症対策に限らない恒久的なルールでもあるので,来期はもちろん,これから株主総会を開催する上場企業などにとっては,暫定的に定款変更することなく導入できることもあって,検討に値する制度ではある。

 現行の会社法は,株主総会を招集する場合には,株主総会の「場所」を定めなければならないとしている(会社法298条1項1号)。 また, 株主総会の「場所」は,株主が質問し説明を聴く機会を確保するため,物理的に入場することができる場所でなければならないと解されている。
 そのため,物理的な会場を設けた上で,株主は,物理的な会場に赴き出席するほか,インターネット等の手段により参加・出席することが可能とする「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は,現行の会社法でも可能と解されている。これに対し,物理的な会場を設けずに,インターネット等の手段により株主が出席する「バーチャルオンリー株主総会」は,現行の会社法下では違法と解されている。

 バーチャルオンリー株主総会は,①遠隔地の株主を含む多くの株主が出席しやすく, ②物理的な会場の確保が不要で運営コストの低減を図ることができ,また,③株主や取締役等が一堂に会する必要がなく感染症等のリスクの低減を図ることができる。
 このように,株主総会の活性化・効率化・円滑化につながることから,株主の利益の確保に配慮しつつ,産業競争力を強化する観点から,本制度において,バーチャルオンリー株主総会の開催を可能としている。

 本制度の概要は,次のようなものである。なお,本制度において,株主からの質問や動議を受け付けない取扱いを許容する規定はなく,場所の定めのない株主総会においては,会社法の原則どおり,株主からの質問や動議を受け付ける必要がある。
① 上場会社は,経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合に限り,株主総会を「場所の 定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定めることができ,この定款の定めのある 上場会社については,バーチャルオンリー株主総会の開催を可能としている。
② 某感染症拡大の影響を踏まえ,施行(2021年6月16日)後2年間 は,上記①の確認を受けた上場会社については,上記①の定款の定めがあるものとみなすことができることとしている。この場合,定款変更の株主総会決議を経ることなく,バーチャルオンリー株主総会の開催が可能となる。なお,当該みなしの定款の定めに基づく場所の定めのない株主総会においては,上記①の定款の定めを設ける定款変更の決議を行うことはできない。 

1 場所の定めのない株主総会の開催の要件(産競法66条1項・2項,省令1条・2条)
①「上場会社」であること 
 「上場会社」とは,金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社。 

② 経産大臣及び法務大臣の「確認」を受けること
 次の③の前提として,以下の「省令要件」の該当性に対する確認。
(i) 通信方法に関する事務((ii)(iii)の方針に基づく対応に係る事務を含む。)の責任者の設置
(ii) 通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の策定
(iii) 通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある 株主の利益の確保に配慮することについての方針の策定 
(iv) 株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上 であること

③「定款の定め」があること
 「定款の定め」とは,株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定めをいう。「定款の定め」を設けるためには,株主総会の特別決議による定款変更が必要。 ただし,施行後2年間は,②の「確認」を受けた上場会社については,「定款の定め」があるものとみなすことができる(附則3条)。 

④ 招集決定時に「省令要件」に該当していること 
 上記②の「確認」時に加えて,場所の定めのない株主総会の招集決定時に,②の「省令要件」に該当している必要がある。 この時点での「省令要件」該当性については,招集決定者において確認することとなる。

2 招集の決定事項(読替後の会社法298条1項,省令3条)
 株主総会の「場所」に代えて,「株主総会を場所の定めのない株主総会とする旨」を決定することになる。 
 会社法上の決定事項に加えて,以下の事項を決定する。
(i) 書面による事前の議決権行使を認めること(ただし,全株主に金融商品取引法に基づき委任状勧誘をしている場合を除く。)
(ii) 通信の方法
(iii) 事前の議決権行使をした株主が(株主総会当日に)通信の方法を使用した場合における事前の議決権行使の効力の取扱いの内容 

3 招集通知の記載事項(読替後の会社法299条4項,省令4条)
 会社法上の記載事項(「場所」を除く。)に加えて, 以下の事項の記載を要する。
(i) 前記2の招集の決定事項 
(ii) 株主総会の議事における情報の送受信のために必要な事項(例:URL,ID・パスワード等)
(iii) 招集決定時における前記1②(ii)(iii)の方針の内容の概要

4 延期・続行(読替後の会社法317条)
 株主総会決議で延期・続行を決定する通常の手続に加えて,以下の手続が可能。 
 すなわち,場所の定めのない株主総会において,通信の方 法に係る障害により議事に著しい支障が生じる場合に議 長が延期・続行を決定することができる旨の議長一任決議 があるときには,実際に当該支障が生じた場合には,別途 の株主総会決議を経ることなく,議長の決定により延期・ 続行が可能。

5 議事録の記載事項(読替後の会社法318条1項,省令5条)
 株主総会の日時・場所等(会社法施行規則72条3項1号)に代えて,以下の事項を記載する。
(i) 株主総会の日時
(ii) 株主総会を場所の定めのない株主総会とした旨 
(iii) 通信の方法(前記1②(ii)(iii)の方針に基づく対 応の概要を含む。)

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。