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最高裁令和3年7月5日判決~株式買取請求を行った者による株主総会議事録閲覧等の可否

【株式併合に伴う株式買取請求】
 甲社では,平成28年7月4日,臨時株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会を開催され,同月26日を効力発生日として,甲社の普通株式及びA種種類株式のそれぞれを125万株を1株に併合する旨の決議がなされた。 
 乙は,甲社の株式4万4400株(以下「本件株式」という。)を保有している。
 甲社の株式併合では125万株が(ようやく)1株となるのであるから,4万4400株しか保有していない乙は,「1株」を保有するに至らず,1株に満たない端数(0.035株)の持主となって,肝心の議決権が行使できなくなってしまう。
 株式併合により乙のように端数しか持たなくなる者を保護するため,会社法182条の4第1項は,株式併合によって株式の数に1株に満たない端数が生じる場合において,株式併合の議案に反対する株主に対し,当該端数を会社が公正な価格で買取るよう請求する権利(反対株主の株式買取請求権)を認めているのである。
 実際,乙は,上記各株主総会に先立ち,上記各決議に係る議案に反対する旨を甲社に通知した上,上記各株主総会において上記議案に反対し,同月25日までに,会社法182条の4第1項に基づき,甲社に対し,本件株式を公正な価格で買い取ることを請求した。 

【「公正な価格」の決定手続と会社による前払い】
 この「公正な価格」の決定手続について,会社法182条の5は次のように規定している。

1.株式買取請求があった場合において,株式の価格の決定について,株主と株式会社との間に協議が調ったときは,株式会社は,効力発生日から60日以内にその支払いをしなければならない。
2.株式の価格の決定について,効力発生日から30日以内に協議が調わないときは,株主又は株式会社は,その期間の満了の日後30日以内に,裁判所に対し,価格の決定の申立てをすることができる。
(3及び4項略)
5.株式会社は,株式の価格の決定があるまでは,株主に対し,当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができる。

 乙は,本件株式の価格の決定について上告人との間で協議が調わないことから,同法182条の5第2項所定の期間内に,東京地方裁判所に対し,本件株式の価格の決定の申立てをした。 
 他方,甲社は,同年10月21日,同条5項に基づき,乙に対し,自らが公正な価格と認める額として1332万円を支払った。 

【株主総会議事録閲覧及び謄写請求を巡る争い】
 ここに至り,乙は,会社法318条4項に基づいて,甲社に対し,その株主総会議事録の閲覧と謄写を求めたのである。
 会社法318条4項に基づいて株主総会議事録の閲覧及び謄写を請求できるのは,会社の株主と債権者である。
 実は,もはや乙は株主としてこれを請求することはできない。前記の株式買取請求権は,いわゆる形成権とされ,当該請求権を行使すると会社との間で対象株式の売買契約が成立したのと同様の効果が生じ,対象株式は会社に移転し,株主は株主でなくなるのである。乙も,保有していた4万4000株について,その買取を請求したために,当該4万4000株は会社に移転し,株主ではなくなっていたのである。
 そこで,乙は「債権者」として株主総会議事録の閲覧及び謄写を請求した。乙は,本件株式の価格の支払請求権を有しており,甲社の債権者に当たるなどと主張したのである。
 これに対し,甲社は,乙は,既に甲社から会社法182条の5第5項に基づく1332万円の支払を受けているから,本件株式の価格が当該1332万円を上回らない限り,同法318条4項にいう「債権者」には当たらないとして,乙による株主総会議事録の閲覧を拒否したのである。

【最高裁の判断】
 最高裁は,まず次のように,株式買取請求権を行使した場合には,株主ではなくなるが,「公正な価格の支払を求めることのできる権利」を取得し,株主総会議事録の閲覧及び謄写を請求できる「債権者」に当ることになるとしている。

 会社法318条4項は,株式会社の株主及び債権者は株主総会議事録の閲覧等を請求できる旨を定めている。そして,同法182条の4第2項各号に掲げる株主(反対株主)は,株式併合により1株に満たない端数となる株式につき,同条1項に基づく買取請求をした場合,会社との間で法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることにより上記株式につき公正な価格の支払を求めることのできる権利を取得し,同法318条4項にいう債権者に当たることとなると解される。

 次に問題になるのが,会社法182条の5第5項により「会社が公正な価格と認める額」を支払った場合にも,未だ「債権者」と言えるかである。最高裁は,この論点について,まず以下のように,仮に会社法182条の5第5項に基づいて会社が自らが公正な価格と認める価額を支払ったとしても,両者間で協議調うか,裁判による確定されるまでは,「価格は未形成」であり,会社による支払いによって価格支払請求権が全て消滅したとは言えないとしている。

 ところで,会社は,上記株式の価格の決定があるまでは,上記買取請求をした者に対し,自らが公正な価格と認める額を支払うことができる(同法182条の5第5項)。もっとも,上記株式の価格は上記の者と会社との間の協議により又は裁判によって決定されるところ(同条1項,2項),同法182条の4第1項の趣旨が,反対株主に株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保することで上記株式についての反対株主の利益の保護を図ることにあることからすれば,上記裁判は,裁判所の合理的な裁量によってその価格を形成するものであると解される(前掲最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定参照)。そうすると, 上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは,この価格は未形成というほかなく,上記の支払によって上記価格の支払請求権が全て消滅したということはできない。

 その上で最高裁は,株式買取請求を行った“元”株主にも株主総会議事録閲覧及び謄写を認める必要はあると判示し,結論,「会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう債権者に当たるというべきである」としている。

 また,同法318条4項の趣旨は,株主及び債権者において,権利を適切に行使し,その利益を確保するために会社の業務ないし財産の状況等に関する情報を入手することを可能とし,もってその保護を図ることにあると解される。そして,上記買取請求をした者は,会社から上記支払を受けたとしても,少なくとも上記株式の価格につき上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは,株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保するため会社の業務ないし財産の状況等を踏まえた合理的な検討を行う必要がある点においては上記支払前と変わるところがなく,上記情報の入手の必要性は失われないというべきである。したがって,同法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう債権者に当たるというべきである。


東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。