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2023 第16節 横浜FC 対 サガン鳥栖

横浜FC戦の振り返りです。
ここ5試合で3勝2敗の横浜FC、ここ5試合で2勝2分け1敗のサガン鳥栖。
共に序盤の低迷期を抜け出して徐々に勝ち点を積み上げてきました。
さて、スタメンはこちら。

戦術とは

今回は、開幕でぼこぼこにやられた湘南戦との違いも少し交えつつ、簡単に振り返ります。

その前に前段のお話を。
この試合は、非常に戦術的に整理されていて、そして選手たちがそれをしっかりと具現化して表現できた試合だと思います。

では、戦術とは何かというと…

チームの目標(勝利)を達成するために、選手の配置、プレーの仕方、ボールの動かし方などを組み合わせて計画されるものであり、相手チームのポジショニングや選手の特徴をくみ取った上で、あらかじめ戦い方を決めておくことによって試合を優位に進めるための手段。

と私は捉えています。

この戦術を決めておくことは、選手が迷いなく動けるというところにメリットがあると思ってて、迷いなく動けるということは、判断のスピードが速くなり、この判断のスピードが速くなることによって、相手のプレッシングやパス交換に備えた配置を整える間も与えず、こちらが相手の動きを察知して先に動き出し、あらゆる局面でイニシアチブを握れる事に繋がります。

サッカーという目まぐるしく変わる環境の中で、例えばボールを受けて
「考える1秒」
を費やすことによって、戦況はガラッと変わります。
戦い方をあらかじめ定めておくことで、この1秒をなくしたうえで、時間を効果的に使い、そしてそれが想定通りの効果を生み出すと、試合を優位に進めることが可能となります。

戦術として、あらかじめ戦い方を決めておくということは、その動き方を何度も実践するので
「同じようなプレイ(シーン)が繰り返し発生する」
ということにもなります。
この試合では同じようなプレイ(シーン)非常に良く表れていたので、今回の振り返りとしてまとめました。

右サイドにおけるボールの動かし方とハーフスペースの使い方

この試合の戦術的要素は、これだけで終わってしまうのではというくらい、何度も頻出しておりました。

選手の動きとしては、鳥栖が最終ラインでボールを回して自分たちが攻撃を仕掛ける状態(ビルドアップ)を始めたとき、右サイドバックの原田がライン際に大きく幅を取ります。
パギ、山崎、田代+1名(主に河原、手塚)でボール回しをしつつ相手のプレスをすこしおびき寄せることができたら、右サイドからの崩しの機会が生まれます。

まず、田代が右サイドのタッチライン際に大きく幅を取っている原田へパス。原田はボールを受けるとそこから時間をかけずに、まず、相手ストッパーの前にいる選手(ディフェンスラインの前のハーフスペースにいる選手)に斜めにボールを送ります。
この位置(青い●の位置)には、森谷がベースとなりつつも、選手のローテーションによって長沼や河原も入ってきておりました。特に、河原は少しカウンター気味の運びになったときには、必ずと言っていいくらい、このスペースにはいって前への展開を引き出していました。

ハーフスペースで受けた選手も間髪入れずに、並行に入ってくる小野や斜め後ろの位置にサポートにはいる河原、(時々手塚)につなぎます。前を向ければ当然向きますし、キープが難しい場合は無理せずに最終ラインまで戻してやり直します。
このテンポの良いパス交換によって

・ 横浜FCの中央からのプレスを回避してサイドからボールを前進させる
・ 横浜FCのボランチの脇のスペースを効果的に使う
・ つなぎを受けた選手が1列前で前を向いた状態でボールを受けられる
・ 横浜FCの守備陣形をずらしつつ整える時間を与えない
・ この位置で奪われてのショートカウンターを防ぐ

などの効果がありました。

この動かした方で一番良かったのは、この戦術を定めておくことによって
「原田に考えさせない」
事だったと感じます。
彼のところで止まっていまったら、すぐに横浜FCのプレスが寄ってきてサイドで窮屈になり、奪われたらピンチになるので、むしろ、何も考えずに、ボールの経由地として、ハーフスペースへのボール配球係と割り切ったことがこのテンポを生み出しました。

また、ハーフスペースで受けた選手は、横浜FCのプレスが来る前に、ほぼ、ワンタッチで次の選手へつないでいました。
湘南戦は、この位置で受けた西川がことごとく杉岡につぶされて、ショートカウンターを受けてピンチを招いていたので、ここは今シーズンの試合を経たうえで改善された部分だといえるでしょう。

また、この位置でつぶされることの改善点として、田代は、ほとんどと言っていいくらい、ハーフスペースに入っている選手への直接のパスは出していません。横浜FCの縦の網にひっかかることなく、サイドの原田をうまく使って、カウンターに対する備えも含めた良いパス交換だったかと思います。

で、この章は終わりではなく。
実は、非常に面白いシーンがありまして。

24分のシーンですが、戦術通りに田代がサイドの原田にボールを渡し、原田が前を向いていつも通りに長沼もしくは森谷に渡すかと思いきや、
武田の虚を突いてサイドの裏のスペースへのパス!
長沼が武田の背後を取る動き出しもファインプレイですし、
その背後への動きを見てパスを送り込む原田もファインプレイでした。
武田やモラエスにとっては、この試合の鳥栖の動きを見ていると、必ずハーフスペースにいる長沼、もしくは森谷にそのままボールを出してきそうなのですが、それを逆手に取った素晴らしいプレイ。

クロスは惜しくもシュートにはつながらなったのですが、このシーンはまさに、基本のプレイを見せつけながらの応用編ということで、相手にどうしてくるのかの迷いを見せつけるにはもってこいのプレイでした。

ちなみに、この後は、このサイドの裏へのパスはほぼでていません。
26分50秒くらいのシーンでは、原田は平然と、基本通りにハーフスペースにいる森谷に渡していますし、森谷もいったん受けて三田に捕まる前にワンタッチで河原に返しています。(まさに戦術通りの基本のプレイ)

ひとつ、違うことを見せると基本のプレイが更に生きてくるというよい相乗効果だったかと思います。

逆サイドのサイドハーフはゴール前に入る


先ほどの24分の崩しのシーンでは、長沼がクロスを上げて飛び込んできたのは岩崎。惜しくもシュートにはいたりませんでしたが、小野も森谷もペナルティエリアにいましたし、菊地もセカンドボールフォローのためにペナルティアーク付近に入ってきていました。

このシーンでも見て取れるように、最近では、比較的早めにクロスを上げるシーンが多く、特にペナルティエリアの角の位置くらいからでも、手塚や原田がクロスをあげるというシーンが多くみられてきています。崩しきるというよりは、相手の陣形が整う前に速めにゴール前に入ってシュートチャンスを作るという形も活用するという感じでしょうか。攻撃が以前よりもましてスピード感がでてきて、攻め方としては鳥栖らしい感じになってきました。

今回は、サイドハーフの動きをピックアップしたのですが、攻守の切り替えで攻めに転じたときの中盤の上がりのスピードも見ごたえがあって、これまでは自陣でいったん整える時間を作ることが多かったのですが、ここのところは、奪ったら中盤の選手が即座に裏に走って相手の守備陣形を下げさせた上で、早い攻撃で人数をかけるシーンもあって、それが早めのクロスも有効に働いていたのかなと。

当然、クロスを上げる際には人がいないといけないということで、監督のインタビューにもありましたが、サイドハーフがゴール前に入ることは約束事だったかと思います。

この試合では、長沼が2得点をあげたことによってインタビューにもあるようにフューチャーされていますが、実は岩崎も非常に多くの機会に、(右サイドからの崩しが入った際には)何度もゴール前にはいってきていました。
おそらく、逆サイドのサイドハーフはゴール前に入ってクロスをシュートに成就させるという指示がでていたのでしょう。

今回は岩崎にはゴールがなかったのですが、繰り返すことによって、今度は岩崎が2得点というシーンが訪れるかもしれません。そのためにはクロスの質と入り方の質ですね。森谷、長沼、原田がクロスが上げる際の入りかたとタイミング合えば同じようなゴールも生まれる事でしょう。

では、その岩崎が陣取っていた左サイドを見てみましょう。

左サイドにおけるボールの運び方と突破チャレンジ


左サイドの動きとしては、いかに岩崎に良い形でボールを受けさせてアクションを起こさせるか…に尽きる動きだったかと思います。

配置として特徴的だったのは菊地。
右サイドバックの原田は自らが大きく外に張って経由地点を作っていたのですが、左サイドバックの菊地は、岩崎にボールを渡す経由地点として、一つ内側の列にポジションをおいて、大きく外に張りだす岩崎への配給の役割を果たしてしました。菊地のそばには手塚や河原が必ずフォローに入り、森谷がワンタッチでとられないようにカウンターを未然に防ぐケアをしていたのと同様のサポートをしていました。菊地はこの位置からインナーラップで岩崎を内側から追い越す動きを見せるなど、横浜FCのマークを乱す動きも行っていました。

また、岩崎は足元でボールを受けて1対1を仕掛けるのみではなく、もう一つの形として林の背後を取る動き出しでボールを引き出していました。
いや、ボールを引き出すというよりは、ボールが来ることがわかっていての走り出しだったかもしれません。
それくらい、手塚、菊地、河原、そしてちょっと遠いところからの森谷も岩崎が裏に抜けるボールを配給を繰り返していました。
成功せずとも何度も見せることによって、横浜FCの林くんが、岩崎も見ないといけないし、かといって前ばかり向いていたら裏を取られるということで、かなり対処には頭をつかったのではないかと思います。

ちなみに、林くん、非常にインテリジェンスかつ素晴らしい運動量豊富なプレイで横浜FCのレギュラーをがっちりとつかみ取って、サガン鳥栖アカデミー出身として非常に頼もしいですし、今後の躍進が楽しみですね。
ところで、快征くん、お元気でしょうか()

中盤3人のトライアングルを維持した連動

この試合の基盤を作ったのは、まぎれもなく河原、手塚、森谷の適切なポジショニングと確実なパスのつなぎ。
それが安全なところでのボール回しでななく、危険な位置で受けての立ち回りを上手に演じてくれていました。
・ 相手を背後に背負って受ける
・ 相手のライン間(ディフェンスラインと中盤のラインの間)で受ける
・ 相手のプレスのターゲット位置(フォワードと中盤の間)で受ける
こういったところでボールを受けてくれると、相手もブロックポジションを崩してもプレッシングに入るので、そこをいなすことができれば相手の陣形を崩した上で、攻撃をしかけることができます。
右サイドの配置、左サイドの配置とともに、この3人の関係性もまた、試合を優位に進める要因となりました。

その配置ですが、基本形としてはビルドアップで最終ラインのフォローに戻るのは必ずひとり。最終ラインを3人にすることによって、数的に圧迫を受けるケースを排除します。

そして、のこりの二人は必ずパスコースを作る動きを見せます。こうやって、最終ラインから、中央へのパスコースを複数相手に見せることによって、どうしてもケアをしなければならない状況が生まれ、そうなってくると前述のサイド攻撃の経由地点となる原田、菊地に対する制限も薄れてパスが出しやすくなっていきます。
中盤のトライアングルは、当然パスを受けて前を向ける機会ができれば良いのですが、そうならなくともこの位置にパスが来ることを見せるだけで相手を引き寄せることができるのです。
手塚や森谷が下がってきて(でも、下がりすぎて最終ラインには吸収されないように)小気味よく、相手フォワードの前や背後でボールを受けて回していたのは、サイド攻撃の布石となるおとりの効果もありました。

8分過ぎのシーンが、戦術が凝縮されたビール3杯もののシーンがあるのですが、このトライアングルの3人は、トライアングル基本陣形(河原が底、森谷が右、手塚が左)でスタートしているのですが、パス交換を重ねていくうちに、少しずつ相手の陣形を寄せつつ、味方の陣形も移動を繰り返して、最終的には、トライアングルが一つずつローテーションして、手塚が底、河原が右、森谷が左という陣形になっていました。

さらに、そこからが戦術として刷り込まれている部分なのですが、このとき、最終ラインは田代と山崎が入れ替わっていたのですが、山崎は田代が行っているビルドアップと同様に、原田へパスを展開、原田も河原がハーフスペースに入ってくることを察知して彼に受け渡します。

さらに、さらに、河原はボールを受けると前を向いて、ゴール前に侵入していく小野に対して低い位置から早めのクロスを送り、小野のダイビングヘッドによるシュートにつなげます。そのゴール前のシーンをよくよく見ると、岩崎もしっかりとペナルティエリアに侵入しており、クロスの待ち受けと共にディフレクション対応もしっかりとれる位置をとってきています。

この一連の流れは、まさにこの試合での戦い方…戦術をそれぞれの選手がしっかりと全うしてシュートチャンスまでつなげることができた、素晴らしい連動だといえるでしょう。
こういった、チームとして定められた計画的な動き、全員の意思統一の下でのプレイを繰り返し行うことによって、組織としてのほころびをなくし、ゴールの確率を高め、そして、実際に勝利につなげることができた素晴らしい試合だったかと思います。

ブローダーセンに対するプレッシングで蹴らせる

ちょっとおまけみたいな感じですが。
試合中、何度も繰り返されるようなシーンを見ていて、ふと、この動き方も戦術のひとつではないかと思いました。

開幕からの序盤戦は(特にガンバ大阪戦など)は、ゴールキーパーに対するアタックはあまりしかけずに、そこから出てきたボールに対してのプレッシングが多かったような気がしていました。(谷が足元強いというのもあるでしょうが)

この試合ではゴールキーパーに対して鋭いプレッシングをすることで長いボールを蹴らせて回収するというシーンが多くみられました。
それも、左足で蹴らせるという印象が強く。
おそらく、ブローダーセンのキック精度(成功率)を見て取ってのあらかじめ定められた動きだったかと思いますが、本当にそうだったのかと、実際に回数を数えてみると…

サガン鳥栖のプレスによってブローダーセンに蹴らせた回数
右・・・4回
左・・・12回

ということで、やはり、左に蹴らせるプレッシングが多かったです。
とはいえ、戦術的な計画性があったかというと、確信度合い的には70%くらい(笑)
集計していく中で、試合中に気が付かなかったことがあったのですが、前半、ブローダーセンにボールを蹴らせるプレッシングを主に敢行したのは主に森谷でその回数は5回。小野は序盤に少し行っただけで、あとは森谷がその役割を担っていました。ビルドアップのフォローや最前線でのプレッシングなど、なかなかのハードワークでしたね。

また、ブローダーセンにボールを蹴らせるためにプレッシングに行った回数が一番多かったのはなんと河田の6回。河田は交代で入ってきてから、前線でのプレッシャーをしつこくかけ続けていましたね。途中交代のメンバーとして、1点差を守り切る貢献をしっかりと果たしました。(というか、2点目はナイスアシストでした)

まあ、褒めてばかりでもいられずということで、失点シーンはホントいただけなくて、ブローダーセンに左足で蹴らせて田代が回収してからのボールの裁きに連続でミスが発生しました。

相手ゴール前でのヒールプレイはローリスクハイリターンなのですが、自陣深いところでのヒールプレイはミスがすぐに失点に繋がってしまうハイリスクローリターン的な側面があるので、ここは味方を信じて安全にクリアして相手スローインでの守備陣形を整えることが正しい判断であったのかなと思いました。

まとめ

ボール保持とスピード感のバランスですよね、そのあたりがここにきて少しずつ上向いてきた印象です。
サガン鳥栖のハードワークと堅い守備、そのうえで、攻撃に転じた際には、選手の動きとボールの回し方で、スピードの緩急をつけながらイニシアチブを持つ戦いを目指すという、バランスのとれた戦い方がここのところできているのではないかと思います。

その戦い方も、浦和戦のように、ほぼほぼやられながらも固く守って最後はワンチャンスをものにした試合もありますし、新潟戦のように、オールコートマンツーではいって相手の動きを封じた上で試合を優位に進める戦い方もありましたし、この試合のようにボールを支配しつつ再現される連動によってボールを前進させるという戦い方もありました。

相手を見つつ、自分たちのやれることをしっかりと果たす。その根源には味方との連動性と献身的なハードワークという、サガン鳥栖らしい戦い方になってきたのではないかと思います。

今回は、戦術がうまくはまりましたが、相手ありきのものなので、はまらなったら悲惨なことにもなりかねるので(笑)
ただ、湘南戦での失敗をここにきてしっかりと修正してきたのもまぎれもない事実です。
試合ごとに、どういった成長と戦術を見せるのか、今シーズンも見守っていきましょう。

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