2020 ルヴァン第2節 : サガン鳥栖 VS 横浜FC

2020シーズン YBCルヴァンカップ第2節、横浜FC戦のレビューです。

結果

画像1

(サガン鳥栖公式Webサイトより引用)

試合

契約上の問題で試合映像が使えないので(スカパー契約していないだけです(笑))、記憶を頼りに振り返ります。間違っている箇所があったらすみません。あと、文字だけですので根気強く読んでください(笑)

鳥栖は、立ち上がりから積極的に横浜FCの最終ラインに対してアクションをかけます。3人の最終ライン+ボールサイドのワイドの選手に対して、2フォワード+2サイドハーフでプレッシングを敢行していました。横浜FCのボールの配球はおもにヨンアピンが担っていたように見えました。鳥栖もヨンアピンに対して積極的にプレッシングをかけることによって、長いボールを蹴らせたり、つなぎのボールのミスを誘うように仕向けますが、ヨンアピンもサイドにドリブルで逃げたりしながらなんとか鳥栖のプレスを剥す工夫を見せていました。

横浜FCのビルドアップは、ブロックの外(サイド)からの侵入よりは、中央経由の前進を優先的な選択として構築していました。ワイドの選手がフリーで待ち構えているのですが、鳥栖の選手のプレスを分散させるような役割として使うようなケースは少なく、あくまでも中央のボランチからの展開を狙っていたように思えます。

その際、プレッシャーを受けて全体が下がりすぎるのを防ぐために、なるべくボランチを下げないような形で対応しようとしていたのかもしれませんが、その影響で最終ラインと2列目の間に若干の距離があいてしまう状況がありました。横浜FCが中央ルートを基本としていたため、鳥栖は前線にプレッシングをかけさせて中央にボールが入ってきたところに、梁さんと義希のエリアがボールの狩りどころになるケースが多くあり、2列目との微妙な距離が、義希と梁さんのプレスが間に合う時間を作ってしまいました。彼らのプレスがファウルになるケースも多かったのですが、中央の位置でボールを取ってショートカウンターという機会も何度か作ることができました。

前半、横浜FCのビルドアップにおけるボランチのパスを義希がカットし、こぼれ球を梁さんが素早く兒玉へ。兒玉が相手を引きつけて左サイドの相良に渡し、相良はトラップだけで横浜FCのプレッシャーを一つ外してファーサイドから巻くシュートを放ったシーンがあったのですが、こういったシーンは、義希と梁さんを中央においていた効果が目に見えるものでしたね。義希がボールを狩って、梁さんがパスをだす。それぞれの得意分野を生かしたプレイだと思います。(逆に言えば、梁さんがボールを狩ろうとするシーンはファウルになったりしていましたし、義希がこの位置でボールを預かってもうまく前にパスが出なかったりもありました。相互補完がうまく働いたときに攻撃が機能していましたね。)

選手の配置、特に攻撃時のポジショニングに関しては、サガン鳥栖がトップもユースも共通した理念の下で取り組んでいるものなので、位置取りやポジション交換は、初出場の選手が多い中でも、違和感もなく監督の描いたデザインを試合で表現できていたと思います。あくまで配置の部分ですね。そこからの攻撃の手段や崩しのプロセスは、様々なパターンが見られ、なかなか興味深い試合でした。

鳥栖の攻撃のルートとしては、ショートカウンターでは中央、ビルドアップからの攻撃はサイドという2系統。自陣ゴール前で奪ってからのカウンターから、ゴール前に到達するような場面はそこまでなかったかなという記憶です。

サイドからの攻撃では、右と左とで攻略方法が異なっていました。右サイドはやはりヨンウのドリブルでの剥がしによる突破がメイン。初お目見えの王からのパスを受けて、横浜FCのウイングとヨンウがデュエル勝負というシーンが良く見られました。王は判断素早く次のプレイに移行できていたのはよかったですね。

彼が個人で縦に突破するようなシーンはなかなか作れませんでしたが、ヨンウが勝負できるシーンは作り上げていて、ヨンウの特性を把握して上手に使っていたかと思います。こぼれ球のボールを右足のアウトサイドでゴール前に鋭いクロスをあげたプレイもありましたが、基礎能力の高さも見せてくれました。怪我で交代となったので心配ですが、今シーズンも過密日程ですので、早く治してもらってまた活躍の機会が見てみたいですね。

「グループ戦術」という意味では、右サイドに比べると左サイドの方が機能していた印象を受けました。相良と大畑のコンビネーション、そして岩下のフォローですね。相良と大畑の二人が、互いの動き出しを察知した上で、裏への抜け出しへのパス、縦に走って味方を引き付けた上でのカットインなど、昨年度共に戦ってきた関係性が垣間見えました。

岩下は若い二人のポジショニングをコントロールした上で、攻撃のスイッチを入れるパスを幾度となく送り込んでいました。特に、印象的だったのは、ボールを欲しがろうとする相良のポジションを(手の動きで)前に押し出し、相手の最終ラインと同列に並ばせた上でミドルレンジのボールを配球したシーンですね。

相良も大畑も下がってくると、エリアが狭くなってしまうので、横浜FCのウイングとセカンドトップも密集してくるので、岩下としてもそこへのパスは出しづらい状況となります。相良がいつでも裏を狙える状況を作り、大畑がいつでも経由地点となる中間のポジションを取ることで、横浜FCのウイングバックの的が絞りづらくなる効果が出ます。

ちょうど、FC東京戦で右サイドに味方も敵も寄せ、その動きに伴って空いてしまうバイタルを使って森下がゴールを挙げたシーンがありましたが、今回は横浜FCの斎藤と安永がしっかりと中央をつぶしていたのでサイドで密集するとそのまま狩場になってしまう可能性の方が高く、相手のディフェンスラインを押し下げるという意味でも、相良のポジションを上げさせて何度か裏に抜けるパスを送り込むという岩下の選択は良かったかなと思います。

岩下と言えば、この試合で印象的だったのが、大畑に対しての要求です。
「早く!」
「よこせ!」
などなど、岩下兄貴の印象通りの言葉が飛びまくっていました(笑)

あまりの言葉の強さに、バックスタンドでは笑いが起きたりもしていたのですが、この強い言葉の裏には、岩下の「時間」に対する考え方が伺えます。おそらく、岩下には、左サイドの立て直しだけではなく、右サイドへの展開や中央への縦パスも踏まえた次の展開が見えているのでしょう。だからこそ、横浜FCの陣形が変わる前に、横浜FCに守備を整える時間を与えないうちに、ボールを受けとりたかったのだと思います。

実際のプレイでも、岩下のパスは鋭く早いです。このパスが早い事によって、受けとる側としては時間を作ることができます。パスがでてトラップするまでのほんの僅かな時間ですが、このパスのスピードの違いによって、相手との距離が1mのところで受けとるのか、2mのところで受けとるのかが変わってきます。

特に、この試合の両サイドハーフである相良やヨンウのようなアジリティとテクニックがあってトラップだけで相手を剥せるテクニックを持っている選手ならば、パススピードと受け取った時の相手との間によって次のプレイの選択の幅が大きく変わるので、極端に言えば、彼らのテクニックを生かすも殺すもパスの出し手次第という事が言えます。岩下のパスは、サガン鳥栖の若手はもちろん、ベテラン選手たちにもよい手本になったのではないかと思います。

さらに細かいことを言うと、パスをどの位置に、到達地点でどの程度のスピードで受け取らせる事ができるのかという技術も大事ですよね。パスの受け手がちょうどトップスピードに乗れる状況で受け取れるのか、少しスピードを緩めないと受け取れないようなパスなのか、はたまた受けとるために後ろ向きになってしまうパスなのか。

この試合は、パスのほんの少しのスピード、方向の違いによって、相手の守備に隙がある状態を生かして突破できる形だったのに、その状況をみすみす逃してしまうようなシーンがいろいろとみられました。
「とめる」
「蹴る」
の技術の大事さですね。組織としての機能は、個人としての技術が備わってこそ発揮されるものです。

ヨンウの突破の右サイド、相良と大畑のコンビによる崩しの左サイドという意味では、前半にヨンウがボールを受けて自分の間合いで前進しながらひとりはがしてクロスを上げ、ファーサイドに流れましたがそのボールをうまくトラップした相良が相手を引き連れて大畑に預けてからのクロスというシーンは、左サイドと右サイドの攻撃の仕組みを現していてなかなか面白いシーンでした。この大畑のクロスからの兒玉のヘッドは惜しくもヒットせずに薄く当たって枠を外しましたが、こういったのを枠に飛ばせる技術が身に着けば、兒玉ももっともっとユースの試合でも得点が取れるようになってくれるでしょう。

そして、後半は相良に代わって湯澤が入りますが、彼はさらに強い意志で縦に向かう突破力を見せてくれて、相良を柔とすれば、湯澤は剛。相手をかき分けてでも突破を試みる姿勢は、特に、後半から出てきたので相手にとっては非常に怖い存在だったかもしれませんね。彼も、王とともに、また見てみたい選手の一人です。

終盤、レンゾが登場してから、周りが監督の意思を理解したプレイを見せてくれたシーンがあって、中野のレンゾに対するスピードを緩めたハイボール、そしてそのこぼれ球を大畑が再びレンゾを狙ってクロスというプレイは、林や兒玉が出ているときには見せなかった攻撃手法です。出てきた選手の特徴を把握して、しっかりと使おうとしたプレイは、個人と組織の融合を感じさせるものでした。

ちなみに、中野は、体の入れ方、守備ブロックの作り方、すごくよかったですね。最後のクロスでの相手との間合いが課題と言っていましたが、攻撃に出ようとしていたところでボールを取られたため、大畑の戻りが遅れて逆サイドのスペースが空いていたというのもあるので、彼だけの原因ではないですよね。ただ、その課題意識をもって次のステップに取り組んでくれたらいいなと思います。

明輝監督のやろうとしているサッカーがリーグのスターティングメンバー以外にも浸透しており、そこがこの試合でひとつ安心するものでした。特に、両サイドの幅の取り方と、ハーフスペースに入り込む選手の存在、そして、セットプレイなどで流動的に代わってもバランスを保ったままセカンドチャンスを作り出そうとするポジショニング。そこのセットアップは鳥栖のサッカーとしてベースとなるところであり、選手が代わってバランスが大きく崩れるような事もなかったので、組織としての意思と意図、もっというならば哲学を表現しようとする意識が見えたことは良かったです。

組織として定められたセットアップを基準として、そしてその中でいかに個の力を発揮するのか。選手のポジショニングは同じであっても、ヨンウ、チアゴが右サイドにいるときと、原川、樋口が右サイドにいるときはゴール前までのプロセスは異なります。個人の突破を周りの選手たちが助けるのも組織力であり、味方が作ったスペースをうまく使うのも組織力です。全体の配置を定めるチーム戦術と、ボール周りの数人で相手を突破するグループ戦術。選手の組み合わせによって攻撃の組み立ては異なりますが、そこに至るまでのおぜん立ては、チームとしての共通意識の下です。明輝監督のチョイスする選手の組み合わせも含め、今後どのように仕上がっていくのか楽しみです。

今シーズンもリーグとルヴァンで10試合に到達しましたが、明輝さんのサッカーで必要となる要素がおぼろげながら明らかになってきました。チームとしてのセットアップポジションを保つための視野の広さ、奪ってから攻撃への転換(ポジティブトランジション)での判断力、そして止める、蹴るの技術。配置で優位に立てている状態を自分たちでその優位性を消してしまうことにならないような力を持った選手たちがスタメンを獲得していくでしょうね。

チーム戦術と配置と言えば、この試合は明輝監督、下平監督のシステムの変更がおもしろかったですね。横浜FCの3センターバックが攻略できなかったため、鳥栖がワントップ気味にしてフォワードを縦の関係にして(石井を中央において)最終ラインの前での崩しを狙ったり、そうなったら後ろが余るので、横浜FCはセンターバック2枚にして(後ろ4枚にして)トップの枚数を増やしたり。それを見て鳥栖は前線に5人を並べて4バックに対してハーフスペースを使った攻撃をしかけようとしたり。互いの監督の選手交代を駆使したシステム変更は、なかなか面白い展開ではありました。組織対組織の応酬ですね。

そういったシステム変更と配置換えの中で、後半、石井が中盤でボールを保持してゲームメイクをして、前を向いてさばいてゴール前に突入というプレイがありましたが、彼はユース時代にもこういったポジションをとって対応することもありました。トップでもこの形が通用するとしたら、ひとつのオプションとして、攻撃の幅、選手選択の幅が広がりますね。

試合は残念ながら負けてしまったのですが、リーグの試合では見られないような選手たちが、チーム戦術を基にそれぞれの個人としての特徴を生かそうとしてくれていて、よいプレイをいくつも見る事ができました。ただ、明輝監督のインタビューでもあったように、勝つために送り込んだ選手たちですので、勝利という結果をもたらして欲しかったのは事実です。次のルヴァンの広島戦で、次こそはゴール、勝利という結果をもたらせてくれる事を期待しましょう。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

・ チャンネル
センターバックとサイドバックの間のスペースの事


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