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2023 第28節 FC東京 対 サガン鳥栖

はじめに


FC東京戦の振り返りです。
前半は理想的な形で2点リードで折り返し、逆に後半は3失点を喫して敗戦してしまった展開は、どういうところに起因しているのかを見てみました。

スタメンと配置はこちら。

前半


まずは前半、鳥栖の攻めと東京の守備から。
鳥栖のビルドアップは菊地と長沼の位置取りがひとつのポイントでした。

菊地はインサイドに一つはいってハーフスペース付近でボールの受け取りを実施。
仲川は菊地の配置もありましたし、ボランチやインサイドハーフへのパスもケアするために中央に守備陣形を取ります。
菊地、仲川が絞った事で作られたスペースを利用して、岩崎へのパスコースが生まれるので、ボランチ、インサイドハーフから岩崎への配球のシーンは良く見られたかと思います。

長沼はインサイドに入ってハーフスペースあたりでボールを引き受ける役割を担います。
バングーナガンデが長沼を気にして絞り込むと、原田がサイドから前にでるスペースも得られることにもなりますし、バングーナガンデが大きく前にでた原田を見ると、長沼に対するマークが曖昧になる瞬間が生まれたりもします。
特に、アダイウトンは前半は原田、長沼、ボランチ(河原)が入り込んで来た時にどこをどう見たらよいのか少しふわっとする瞬間があり、東京としては選手を(全体を)寄せているので奪いどころにしたかったのでしょうが、裏腹に右サイドを抜けるルートはあまり規制がうまくいっていなかった感じです。

最終ラインの山﨑、ソッコに関しては、ディエゴがひとりで見ていたのですが、彼が死なばもろともプレスを敢行するタイプでもなく、鳥栖としてはこの位置である程度自由にボールを持たせてもらったことが、優位に立てるトリガーとなります。
この持たせてもらう時間はすごく大事で、この時間があることで、出口となる河原、手塚、堀米、菊地(赤くしている人達)がそれぞれのポジションを変えながら、FC東京の網の目をくぐるポジションを探し、前を向いてボールを受けれるポジションを見つけて引き出します。
基本的には、見て構える守備を取り、入ってきたボールを処理する形のFC東京もそうはさせじと密集しては来るのですが、良い形ができた段階での配球となるのでなかなか思うように奪えず、また、鳥栖としても苦しくなったらワイドの場所で構えている岩崎に簡単にはたいてサイドからの前進を試みる仕組みづくりがうまくいっていました。

図で見てもわかるように、鳥栖は最終ラインでは2人でボールをもってプレスは相手のひとり。FC東京は富樫ひとりに対してついているディフェンスは2人という形になり、守備側としてはいわゆる「はまっていない」配置になります。
その分、鳥栖は直接的に富樫にボールを入れて、前線で起点を作るいわゆる「ポストプレイ」的な攻撃はあまりなかったのですが、前線に直接出さなくても、ボールを持っていてサイドに散らしたら自然と前進できる仕組みが出来上がっていたのでそこは重要なファクターとはならなかったです。

こういった感じで、FC東京の守備の強度、配置、そして鳥栖のポジションチェンジによるボールの引き出し、これが保持率にも繋がり、保持率があがるということは攻撃を受ける回数の減にも繋がって、前半はおもいがけずかなり優位な展開となりました。

また、オフェンシブサードに入ってからの鳥栖は、ゴール前での狙いがはっきりとしていて、それはセンターバックとサイドバックの間のスペース(いわゆるチャンネル)のエリア。
ここに、二列目、三列目から次々と選手が入り込んできて、そのエリアに手塚と河原が執拗にボールを配球していました。
おそらくではあるのですが、長友とバングーナガンデのポジションが原田と岩崎を警戒するためにセンターバックのラインよりも少し高い位置にいがちなので、スペースケアが追いつかないケースが生まれることや、そもそもバングーナガンデが背後の守備に弱いかもというところで狙いどころの一つにしたのではないかと。
先制点も、PKのシーンも、なんなら前半開始早々にあった富樫のヘディングシュートがバーに当たったシーンも、このエリアに侵入しての配球でチャンスをものにしていますので、鳥栖の狙いは奏功したことになります。

あとは岩崎のしかけですね。前述の通り、菊地の配置と仲川の絞りによって、岩崎へのパスコースはスルーで空いています。
配球は特に難なく行われるため、岩崎と長友はずっとマッチアップしていて、この試合のひとつの見どころだったかと思います。
ただ、惜しむらくは、岩崎の精度がちょっとなかったこと。これは逆に長友が上がった際にもゴール前でのクロスの精度にかけていて、前半は彼ら二人の精度が上がっていたらもう少し点数が動いていてかもしれないとは思いました。

FC東京のビルドアップ(鳥栖の守備)なんですが、ここは簡単に。
鳥栖は堀米を1列あげて、センターバック2人に対して人数を合わせての守備組織を敷きました。
ポイントになるのは長沼と岩崎のポジション。サイドバックを片目で見つつも、原川、松木、下りてくる渡邊へのパスコースを限定しながら、サイドバックに配給されたらサイドに出ていく形を取りました。
明確に人を当て込んで、はめ込み型で前線から奪いきる形ではなかったのですが、運動量を生かして長沼と岩崎がボールの流れに応じて規制をかけていた感じです。
これをやってくれたので、菊地は仲川、アダイウトンは原田が見れることになり、ディエゴに入ってきたボールもセンターバックふたりで何とかできていたので(なんともできずに理不尽に突破されてシュートを打たれたケースもあったのですが(笑))、カウンター以外に関しては、思ったよりも襲撃を受ける回数は減らせたかなというところです。

前半も終わりころになると、前線4人のこの運動量でカバーしていた点がやや薄くなり、プラス長友がポジションを中央に絞る動きを見せて岩崎を引き連れて行ったりしていたため、菊地の背後のスペースを何度か狙われてピンチになるケースもありましたが、なんとか前半は無失点で終わらせることができました。

後半

後半になって、FC東京の守備陣形が大きく変わります。
まず、前線に対するプレッシングは、ディエゴひとりだったのが、渡邊も参入してきて、センターバック2人に自由にボールを持たせないように規制しました。
これに伴い、鳥栖がボールをまわせるエリアが低くなったので、バイタルエリアで奪われる危険の回避、そして前を向ける広いエリアで受けるため、菊地がサイドで受ける形が多くなります。
前半は中央に絞っていた仲川が、サイドに降りる菊地をマーク。逆サイドも同様にアダイウトンが明確に原田を見るようになります。
こうなってくると、山崎とファンソッコの自由(時間)が奪われ、鳥栖の中盤に良い形で受け取れるためにポジションチェンジをさせたりスペースを見つける時間も与えず、また、前線の人数が合ってくるのでおのずと共連れで中盤以降も見るべき人が明確になってきます。

また、最終ラインですが、2点ビハインドからか、少しリスクを負った守備を開始して、ボールを受けるために落ちてくる堀米や富樫に対しても積極的に最終ラインからセンターバックがアタックに出ていきます。
鳥栖にとっては、時間も空間もつぶされ、そしてリスクを負って最終ラインから迎撃に出ていく守備網に屈してしまって、後半開始からは劣勢が続きました。

特に森重が堀米に出向いていくケースが多かったのですが、これは当然のことながら鳥栖にとってのメリットもあったわけで、これによって最終ラインはエンリケひとりで富樫を向かえなければならない状況ができ、そして背後のスペースにボールが配給されるケースも幾度か作ることができました。
ここで富樫がエンリケとのマッチアップを制することができれば追加点という意味で展開が大きく変わっていたかもしれませんが、抜け出したとしてもなかなかチャンスメイクや押し込むまでには至らず。
そこは「個の質」の部分であり、鳥栖が常に悩まされるシーンなのかもしれません。

次に、FC東京の攻撃面ですが、前線からのプレッシングという守備での良化にあいまって、サイドバックを高い位置に置くことが可能になりました。
これによって、右サイドは仲川+長友、左サイドはアダイウトン+バングーナガンデというメンツがそれぞれサイドバックの背後をつく攻撃の回数を増やしてきました。特に菊地の裏のスペースは何度となく突破されることになり、これをケアするために岩崎(長沼)が列を下げて降りるケースが多くなってきます。そうなると、ボールを奪っても、前線で受けてくれる人がいなくなり、セカンドボールを拾える確率も低くなってきます。

また、細かい話ですが、後半に入ってから長友のクロスの質が良くなりまして、これも攻勢に影響を与えたかと。
まあ、質が良くなったというか、前半は、キーパーとディフェンスラインの間を狙うボールを意識するあまりに、きわどいところを狙ってボールがゴールラインを割ってしまったり、逆サイドに流れて行ってしまって攻撃が終わってしまうケースが多くありましたが、後半は割り切って、逆にパギさんの届かない位置であるディフェンスラインの位置(つまりはフォワードがいる位置)への配球が多くなりました。これによってたとえ跳ね返されたとしても、ボールが生きているので、セカンドボールを拾ってからの二次攻撃、三次攻撃につなぐことができますし、そもそも、FC東京のフォワードは強力なので、そんなに際どいところを狙わなくてもいつかは勝ってくれるだろうという思想に基づいた結果、アダイウトンの反撃のゴールが生まれることに繋がりました。

前半は渡邊がゲームメイクしようかという動きもありましたが、後半は松木と原川にそこは任せて渡邊は高い位置へ。
そして圧巻だったのは、松木の動き。
松木は、前後左右に動いてボールを引き出して、それらを空いている味方に配球してはまたスペースを埋めるランニングをし、味方のミスがあったらそのカバーに奔走し、時には鳥栖ゴール前でクロスを受けてシュートを放ったかと思いきや、自陣ゴール前で体をはってシュートブロックを敢行するなど、後半はまさに松木のチームと言っても過言ではないくらいの働きをしていました。まさにハードワーク。

そうこうするうちに、二次攻撃、三次攻撃、そして高い位置から奪いきってまた攻撃を繰り返すFC東京が同点に追いついて、試合は振り出しに。
高い位置を取ってゴールエリア内に入っていた渡邊が押し込めたのも位置取りの効果ですね。

鳥栖は、河田と横山をいれて前線からの守備が活性化。FC東京の最終ラインに対して強いプレッシャーを仕掛ける機会が復活してきます。
FC東京も強度の高いプレスを受けて前線に無造作に蹴る形か、サイドを経由してウイングに渡す形の2択が多くなり、後半開始から圧倒的に支配していた時間が消えて得点経過と同様に展開もイーブンな状態に。

後半の終盤になってありがちなのが、疲れてしまってプレイが雑になってしまってのボールロスト。互いに、運動量が少なくなることによるロストがピンチになるという、どっちに転がってもおかしくない展開となりますが、鳥栖としての課題はこういったところで決めきれない点、そしてFC東京はこういったところで決めきるタレント(メイキング出来るタレント)がいたという事実。

3点目はFC東京だったのですが、鳥栖のミスによるボールロストを見逃さずに、
「FC東京U-15むさし」「FC東京U-18 」で育った寺山がスルーパスでチャンスを演出し、
「FC東京U-15むさし」「FC東京U-18 」で育った俵積田がJ1初ゴールを決める
という、FC東京サポーターにとっては胸熱の展開で決着。
鳥栖は8試合勝ちなし、J1での失点は10試合連続という記録を残して終戦となってしまいました。

おわりに


鳥栖は、悪いサッカーをしているわけではなく、前半開始早々からのイーブンの状態であったり、運動量がある状態だとゲームモデル的にも互角もしくはそれ以上の試合を演出できます。仕組みづくりがしっかりとしていることは去年からも明確でありますし、選手たちにある程度の自由と裁量を与えつつの戦いなので楽しくサッカーできていると思います。

それにしても、このような展開で勝ち切れないという課題は今シーズン続いていて、前節の後にこういったつぶやきもしていたところ、改善できないまま、また繰り返してしまいました。

当然のことながら、90分の試合を戦う中では、得点の経過によって配置がカオスになる展開もありますし、選手交代によってゲームモデルを実現できなくなる展開も生まれます。
複数得点を取るというコンセプトからか、リードを丁寧に守るという形にはシフトしないのですが、かといってこのカオスな状態で複数得点をとりきるためのパワーも質も乏しく。(そもそもが8試合ぶりの複数得点)

ボール保持やビルドアップなど得点を奪って優位に立つためのプレイスタイルが、得点や時間の経過のなかで戦局が変化し、そして勝ち切るためへの戦術へシフトするという現実的に勝利を得るためのパターン作りが果たせずに、結果が出ず成績に結びつけられていないなというのを感じます。

まさに、規律の部分で解決できることがあるのではないかとも思うのですが、もしかしたら、選手のストロングを伸ばす、楽しくサッカーをするという原則論もあり、いかにボールを持ち倒して試合を殺してしまうか、はたまた、いかに人員を掛けて守り切るか、という形にシフトするという思想そのものがいまのサガン鳥栖にはないのかもしれません。

去年とは違って、今年はある程度選手が残留した上で、監督が自信をもって迎えた2シーズン目であり、大卒生え抜きやユース選手などの積極的な登用(育成や種まき)よりは、経験も実力もあってその試合を勝ち切るための選手を起用しているのもありますので、試合展開、データ(数字)、ましてや成績までも昨年度よりも成績が沈んでしまうのはなかなか受け止め難いものがあります。ここまで結果がでないならば、育成や種まきに対するリソースを削った意味がなくなるなとも思ってしまいます。

鳥栖はそもそもが負け越すことが多いチームなので、勝つことオンリーに価値を求めてはいません。この現時点に至るまでの背景やプロセスが、将来のための実になっているのかということを考えると、いまのサガン鳥栖に対して明確にYESと言えない現状です。

当然、サガン鳥栖が好きなので応援はします。ただ、今を応援するのではなく、少し先を見据えた上での応援をしたいなというところです。


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