2020 第3節 : サガン鳥栖 VS ヴィッセル神戸

2020シーズン第3節、ヴィッセル神戸戦のレビューです。過密日程ですので、レビューも省エネで対応します(笑)

結果
 

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(サガン鳥栖公式Webサイトより引用)

スタメン

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過密日程でもあり、どの程度選手を入れ替えるのか注目でしたが、スタメンは高丘、金森、原の3人が替わってスタメンとなりました。ゴールキーパーは高丘も守田もまだ絶対的な守護神の座を得られていないのでないかという推測。原は怪我明けで前節に途中出場でそつなくこなせたので、今節はスタートからの起用。前節、小屋松が鳥栖の伝統芸であるストッパーとウイングとの二人を相手に守備をするダブルロールで疲労したので、今節はフレッシュな金森をというところでしょうか。相手選手が疲れて途中から出てくる小屋松というのも相手にとっては嫌なものかもしれません。

神戸のビルドアップと鳥栖の守備

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神戸はセットアップは4-3-3ですが、攻撃時には主にサンペールが最終ラインに下がってボール保持に参画。後ろを3人で保持しつつ、サイドバックを高い位置に上げる形に変化します。3-4-3のような形でしょうか。

これに対して鳥栖の守備は、比較的前からプレッシング。守備のセットアップは4-5-1から本田を上げて4-4-2のような形。神戸の3人の最終ラインに対して、レンゾロペス、本田がプレッシャーを仕掛けます。では、残りのあとひとりは誰が見るのかという所ですが、サイドハーフにそのタスクを与えて人数を合わせに行き、左サイドは金森、右サイドはチアゴがボール保持の阻止に向かいます。

今回も、最終ラインからサイドバックにボールが出されたときには、鳥栖の伝統芸である「最終ラインへのプレッシング」と「サイドのスペースのケア」のダブルロールでの守備を遂行。前節は大分の右サイドからの攻撃が目立ったので小屋松がこのダブルロールを頻繁に行っていたのですが、今節はビルドアップの出口となるのが酒井のエリアが目立ったので、チアゴが頑張ってサイドスペースに戻る守備を見せていました。この試合でのチアゴは攻撃に守備に大活躍。チアゴが頑張って戻る動きを見せていたので、酒井が運んで縦に突破するシーンはほとんど見られませんでした。

神戸は、固定的な選手配置と流動的な選手配置のハイブリッド型とでもいうのでしょうか。ある程度定められた配置でボールを待ち受けるフォワードとサイドバックに対して、センターバックとセントラルハーフの3人は、守備側にプレッシングの基準を作らせないようにポジションを移動しつつ、ボールの保持からの前進を図ります。

守備側にとっては、相手が固定的な配置で「僕はこの人を見る!」って決める事ができれば、あとは約束事に従ってプレッシングを仕掛けるだけです。しかしながら、神戸の中盤のようにフレキシブルに上下の関係になったり、左右を反転したり、センターバックからのつなぎの位置を変えたりと、頻繁のポジションを移されてしまうと、プレッシングのタイミングやトリガーをどこに置いたら良いのかというところの判断が難しくなり、その都度考えなければならず、非常に高度な守備連携を求められます。

こういったフレキシブルな配置によるビルドアップは、当然、神戸の中盤のボール保持力とポジショニング力の高さによって実現するのですが、ポジショニングが流動的であるがゆえに、個人の判断ミスによって、局所的に人数が増えたり、減ったりするエリアもでてきます。試合の中で、配置的な優位を作れる事もあれば、自分たちの動きで配置的な不利に追い込まれること可能性もあるという事です。鳥栖が一生懸命プレッシングを仕掛けても、相手の動きに対して対処できずにあっさりと簡単にかわされることもあれば、思いのほか高い位置でボールを奪えることもあればという、両極端な場面が見られました。

神戸のゴール前の局面

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神戸にボールをミドルサードより深く運ばれた場合は、鳥栖はブロックの位置を下げます。そうなってくると、最終ラインにプレッシングに出ていた本田もややポジションを下げて、松岡、原川とともに中央を守る布陣となります。

ビルドアップからの前進を図れた神戸は、両ウイングである小川と古橋のポジションをハーフスペースに寄せて、鳥栖の最終ラインと3センターが作る間のスペースに入り込みます。これが非常に厄介で、彼らがこのポジションにいるために、原と内田がアウトサイドで待ち受ける酒井と西に対して外に出ていきづらくなります。かといってチアゴと金森を下げてしまうと、攻撃に出ていくときの距離が長くなってしまう。結果的には、金森とチアゴが主にみる事になるのですが、完全に引いてしまわないように、ボールが出てくるまでぎりぎりのところでポジションを取って、なんとか攻撃への転換をより良いものにしようという動きは見えました。

また、小川、古橋、ドウグラスがライン間で待ち受けて最終ラインからの上下動でボールの引き出しを狙うため、鳥栖の最終ラインも持ち場を離れて明確にマーキングには着くことができず、どうしても彼らにボールが入ってからの動きとなってしまい、流動的に動く中盤と、ファジーな位置にポジションをとる前線を捕まえるのに苦労していました。

神戸は、このように中盤の3人でボールを回しながら、隙を見てライン間で待ち受ける3人を使い、狭い中をワンタッチで抜け出せれば即座に得点という攻撃を何度も何度も繰り返していました。鳥栖はその攻撃に対して、中央を4-3のブロックで固める守備組織を見せ、守備密度を高くして最後のところは通さないという集中力のある守備でした。神戸(フィンク)が老獪だなと思ったところは、鳥栖が中央をしっかりと守っていて厳しくなると、次はサイドに大きく展開というBプランを準備しているところです。25分のシーンの中央からワンタッチで入ってきたかと思いきや、鳥栖の中央のブロックが堅いので簡単に酒井にはたいてサイドからのクロスでシュートチャンスを作るという感じですね。ビルドアップの場面でも、西のサイドへの大きな展開で打開を図ろうとするボールの動きは比較的多かったかなと思います。


鳥栖の攻撃

鳥栖のボール保持の局面では大分戦と変わらず最終ラインを4人でボール保持し、4-1-2-3のような形でのビルドアップとなりました。前半から神戸は思いのほか前から鳥栖のビルドアップの制限をかけてきました。ドウグラスがセンターバック2人に対してチェイシングを行い、イニエスタ、山口、サンペールがビルドアップの出口である松岡、原川、本田を捕まえにかかります。両サイドバックにボールが回ったら小川と古橋がプレッシャー。神戸としてはドウグラスさえがんばってもらえれば、あとは目の前に捕まえる選手が明確になるので、プレッシングの軸としては難しくはなかったかと思います。

こういった時は、ビルドアップの刺客となりうる高丘(ゴールキーパー)の存在、そして困って長いボールを蹴った時に競り勝てるフォワードの存在というのが大きな打開策となるのですが、高丘はまだ本調子でないのか、神戸のプレッシャーによるキックミスが多く発生し、また、ターゲットとして狙ったレンゾロペスもなかなか効果的な落としを出来ず、ボールポゼションも次第に失っていくこととなり、神戸のポゼション率は60%を超えるというかなり高い数値をマークすることになりました。

守備の局面が多くなるという事は、カウンターのチャンスに活路を見出すこととなるのですが、先ほどの配置を見てもらえればわかるように、中央に人が寄っていてボールを奪ってからのルートが主に中央となるので、人が密集しているところを抜けなければならず、なかなかスピードのある攻撃に転じる事が出来ませんでした。レンゾロペスがサイドのスペースを狙って飛び出すような動きがあまりなく、中央では神戸のセンターバックに抑えられているので経由地点になり難い状態。うまく前を向いたタイミングで松岡と本田のコンビネーションで抜けようとする形も見えましたが、ちょっとのズレでパスが繋がらなかったりと、大分戦と同様にチアゴの頑張り次第という展開になってしまいました。鳥栖に限らず神戸もそうなのですが、ほんの少しのパスのズレでチャンスを逸するケースが多く見えましたね。人が密集しているところを通そうとするので、厳しいところを狙わなければならず、仕方ないと言えば仕方ないのですが。

後半の鳥栖の変化

後半に入ってから、大分戦と同様にレンゾロペスに代わって林を投入します。林は今回もディフェンスラインの裏を狙う動きで鳥栖の攻撃に深さを作り、効果的にチャンスを作り出していました。神戸は両サイドバックを高い位置に上げる攻撃を仕掛けるので、両サイドの裏のスペースはカウンターでは狙いどころだったのですが、早速、50分には酒井が空けたスペースを突いて飛び出した林がチアゴからのパスを引き出し、トップスピードに乗ってからのシュート。可能性を感じる攻撃でした。

このころから、徐々に神戸のプレス強度が落ちてきます。前半は鳥栖の動きについていく形でプレッシングを継続して仕掛けていたのですが、後半に入ると鳥栖の選手が外す動きに対して追いつききれずにスペースを空けてしまうシーンが少しずつ見え始め、鳥栖がはがしながらの前進という形を作れるようになりました。プレッシングを剥して前進の機会を作れると、前線に3人配置している効果が出てきます。ここも林が入った効果でもあるのですが、鳥栖が両サイドに選手をおいているので、サイドバックの選手が両サイドの選手を見なければなりません。そこでセンターバックとの間のスペース(チャンネル)ができたのを見逃さずにボールを送り込み、林や金森が飛び出していくような攻撃も徐々に見れるようになりました。

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神戸のボール保持からの崩し、鳥栖の早い仕掛けからの崩し、どちらが先に得点をとってもおかしくないような状況だったのですが、鳥栖にとって悔やまれるのは63分のカウンターのシーン。小屋松が持ち運んで右サイドにエドゥアルド、左サイドに金森、相手はダンクレーのみという場面を作り出します。このシーンで小屋松が早めにエドゥアルドにパスを出しますが、これが残念ながら悪手。結果的にシュートすら打つことができませんでした。

このシーンの一番の問題は小屋松のパスのタイミングとスピードです。ダンクレーがまだ下がっている状態で小屋松にとってはボールを持ち運びできる状態であったのですが、早めにボールを出してしまった事で、また、しかもそのパスのボールスピードが弱かったため、ダンクレーがエドゥアルドに対してプレッシャーに行くことができ、サンペールも戻しのパスコースに入れるくらいリトリートすることができてしまいました。小屋松がもう少しダンクレーを引き寄せ、そしてゴールに少しでも近い地点でパスを出すことができれば、金森もエドゥアルドもフリーでダイレクトのシュートを打てる事ができましたし、ダンクレーが下がるままの状態であったら自分で持ち運びきってシュートまで打ち切ってしまう事もでき、今回のプレーの選択としては、あまり良い判断ではなかったですね。

パスはセンスが非常に重要ですよね。もって生まれたセンスが備わっていれば、間違いなく前線の選手がシュートを打てるようなタイミングや位置にパスを送り込むことができたでしょう。みなさんの記憶には鎌田大地がすぐに目に浮かんだかもしれません。ただし、センスがなくても、経験で補う事は可能です。失敗した経験を積むことによって、次に同じような場面が現れたときに最適な判断を行う事ができますし、そうしなければならないですね。サイドアタッカーの印象が強い小屋松ですが、こういった経験を積んで、さらなる成長を見せ、インサイドハーフやセカンドトップとしてプレイの幅を広げてほしいですね。

さて、チャンスの後にはピンチあり。絶好の得点の好機を逸してしまったその先にやってきてしまったのは神戸の先制点でした。前半から繰り返し狙っていた、鳥栖の最終ライン前でのダイレクトプレイがこの先制のシーンではぴったりと合ってしまって、ドウグラスに華麗なボレーシュートを叩き込まれてしましました。その後、鳥栖は攻撃に転じようとしますが、得点をとって無理する必要のなくなった神戸に対してなかなか効果的な崩しはできず。秀人を入れて3バックにし、豊田を入れて高さのある攻撃を狙いますが、得点を取るまでには至らずにそのまま試合終了となりました。

おわりに

すべての試合を無失点に終える事はできません。試合の中ではミスも生じますし、相手のスーパーなプレイも生まれます。スキルのある神戸のパス回しに対してぎりぎりのところで耐え忍んで1失点で終えた守備は非常に上出来だと思われます。問題は攻撃の方で、何度もあった崩しの場面やシュートチャンスを生かすことができず、ゴールを奪う事が出来なかったのは、悔いが残りますよね。早く今シーズンの初ゴールが欲しいところです。

レンゾロペスの前半での交代はどの程度織り込み済みなのかというのは気になりますね。5人という交代枠があるので試合開始当初から前半終了での交代が決まっていたのならば、もう少し相手の最終ラインをかき乱して体力を奪うような動きを見せてほしいところではあります。ディフェンスラインの裏に飛び出して、ゴールキーパーよりも先にボールに触れたシーンもあったのですが、あのような形ができた時にシュートまで結びつけられないというのはやや物足りなさを感じます。

今シーズンは非常に特異な年です。
通常のシーズンであれば、結果も育成も求められている中、シーズンが進むにつれて、比重的には段々と結果の方が優先となる状況になります。
今シーズンも同様に、現段階では当然結果も育成も求められるのですが、シーズンが進むにつれてある程度の順位が見えてきて、芳しくない状態になったら、例年と違って育成の方に比重を置くようになります。

そうなった時に、レンゾロペスがまだ20%ならば、今後の活躍の幅を期待して起用していきたいのですが、これで彼が80%ならば外国人枠を活用してまで起用しなければならない理由というのが希薄になります。見ている方としても、来年以降を見据えて、石井、兒玉、林、相良といった若い選手たちを試合に出して経験を積ませて育てる方にシフトしてほしいなと思ってしまいます。

それはベテラン勢にとっても同じことで、例年であれば、シーズン終了間際で残留がきわどい順位にいるときは、ベテランの経験と技に頼ることもあるのですが、今シーズンは結果がでなかったら早々に若手に切り替える策を取りやすいシーズンです。降格がないというのは選手たちにとっては違った意味で生き残りをかけたシビアなシーズンであることは間違いないですよね。

まずは早くゴールを決め、そして勝利を挙げて、現在のチームの中で勝てる編成を行って、ある程度の自信をもって来年に備えたいですよね。このまま結果が出なかったら、早々に来年を見据えた上での選手の取捨選択が始まりそうで、非常にシュールレアリズムな一年になりかねないので、何とか早く勝利を挙げてほしいところです。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

・ チャンネル
センターバックとサイドバックの間のスペースの事


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