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2023 第1節 サガン鳥栖 対 湘南ベルマーレ

雨中の開幕戦となってしまったサガン鳥栖対湘南ベルマーレ。
ボールをしっかりと回していきたい鳥栖にとってはピッチコンディション的には味方になってくれず。
冷たい雨が降りしきる中、試合展開自体も天候同様どしゃぶりの開幕となってしまいました。

湘南の先制点

湘南の選択は当然のことながら前から行く、
鳥栖の選択も当然のように前から行く、
お互いにシーズン開幕に対する意気込み、そして有り余っている体力によって生み出されたトランジション合戦だったのですが、早々に結果を示したのは湘南でした。

前半3分、湘南が先制。
攻め⇒守り⇒攻め⇒守りの繰り返されるトランジションの中、カウンターを受けて戻り、ボールを奪って前線に預けた矢先にボールロストが発生してしまったことは、鳥栖にとってはきつい展開。
守備が整いきれないままに湘南のショートカウンターに晒されます。

西川が杉岡の強襲を受けて奪われてしまったのは仕方がないとしても、奪われた矢先に一瞬取り返そうとしますが、その後に動きを止めてしまい(西川の体の向き的に着いていくのは難しいかもなのですが)サイドに出ていく杉岡をフリーにさせてしまったのは一つのポイントでした。

これにより、鳥栖の守備がひとつずれることになってしまうのですが、杉岡が外のエリアでボールを受けたことによって、原田が外に出ていくことに。
本来なら、ボールサイドに寄せた原田に対して、山崎のセオリーとしての動きは、原田に対応して山崎もニアサイドにしぼる動きを取ることで、ひとまずは原田が抜かれたときのケアとニアサイドのスペースのケアをするところですが、山崎はバックステップを踏んで中央のケアというプレイを選択しました。

ここがひとつの論点なのですが、山崎がバックステップの選択をしたのは、

 ・ ニアサイドは河原もしくは西川が埋めてくれると思った
 ・ ファーサイドの町野のケアを優先したかった
 
のだと推測されます。
そして、その山崎の判断を、結果的に悪い判断に仕立て上げてしまったのが、チーム全体の動き。
ファーサイドの中野の戻りが少し遅かったのも気になったかもしれませんし、西川も河原も、湘南の出足の速さと人数に対してゴール前のスペースを埋めるという動きが取れず、結果的に大橋が使えるニアサイドのスペースを空けてしまうことになりました。
原田がクロスをブロックできていれば事なきを得ていたのかもしれないですが、それが出来なかった時の備えが「守備組織」というものです。

自陣でも、相手陣でも、ゴールに近づくにつれてどれだけギアを上げることができるのかというのが、得点と失点を生み出す(防ぐ)肝となりえるのですが、トランジションの混乱の中でギアを上げきれずに、人はいるけれどもいるべき場所にいれないという状況を生み出してしまったのがこの勝負の決着のポイントでしょう。

ちなみに、このひとつ前のシーンで湘南のカウンターの際に、全力ダッシュで戻ってきたのが岩崎。
そして、ボールを奪った瞬間、攻撃に転ずるために西川を追い越してサイドのスペースへいち早く戻ったのも岩崎。
3失点目の際も、わずかに及ばなかったのですが、味方がボールを奪われてすぐに前線から最終ラインまで全力で帰陣。
昨年と同様、岩崎の走って死んでの役割は、今年もかなり重宝しそうです。

鳥栖が準備していたビルドアップ

湘南は速い時間に先制したものの、プレッシングの手は緩めず、鳥栖がボールを奪うと同時に前線の出撃部隊が襲い掛かり、鳥栖の最終ラインに対して、小野瀬、大橋、町野、平岡が出撃。
特に、ボールが原田に入った際には平岡、中野に入った際には小野瀬が強度の高いプレッシングを仕掛けてサイドからの展開を抑制します。
それに対して、最終ラインの5人は、鳥栖の前線の5人にぴったりと張り付いて、前線のプレッシングが抜かれてしまったらボールの受けどころを定めて迎撃するスタイル。
永木は出撃部隊と迎撃部隊のバランスをとる、さしずめ「中隊長殿」と言った感じでしょうか。

鳥栖としては、前身のパターンは大きく2パターン(細かく3パターン)

ひとつは、長沼と岩崎が高い位置を取って、石原と畑という迎撃部隊を高い位置に抑え込むことによって生まれたスペースを利用するもの。
右サイドは福田が移動してきてその位置でボールを受け、そこからインサイドハーフを利用して前進する形。この仕掛けがたびたび成功。
左サイドは、そのまま中野がボールを運んでドリブルで前進。そこからシンプルに長沼につないで1対1を仕掛けさせたり、本田とのコンビネーションを狙ったりするもの。この仕掛けもたびたび成功。
狙いと形としてはおおよそ悪いものではありませんでした。

もうひとつは昨年と同様に、パギさんを中心とする最終ラインから岩崎を狙った長いボール。
岩崎は無双とまではいきませんが、比較的相手のサイドバックやウイングバックに負けない強さを持っているので、うまく競り勝ったときには高い位置でのマイボールでのスローインも含めて前進のきっかけとなりえるものでした。

ここまでビルドアップの場面で登場してこない小野。小野はどちらかというとボックスストライカーよろしく前線で待機。去年のように積極的に降りていってボールを引き出すゼロトップ的な動きよりは、単純にシンプルにストライカー的な動きをみせていました……このときまでは(笑)
湘南としては、出撃部隊と迎撃部隊が、鳥栖の最後方と最前線を抑え込むことを優先したので、鳥栖はその合間のスペースを使うことを狙った感じですね。

湘南の方はというと、ボールを奪った場面においても、地上戦でのビルドアップで前進というシーンはほとんど見られず。
鳥栖をある程度おびき寄せてからは、無理をせずに長いボールを前線に送り込み、町野を利用しての前進を探ります。
この湘南の攻撃スタイルは、鳥栖にとっては、鋭いプレッシングで高い位置でボールを奪いきってのショートカウンターという武器が消されることにもなります。
よって、早い時間帯の先制点ということもあり、サガン鳥栖のビルドアップと湘南のカウンターという試合展開になっていきました。

迎撃スタイルにシフトする湘南

VARによるゴール取り消しなどがあるなか、20分頃くらいに湘南の出撃部隊が少しずつプレス強度を調整し始めます。
町野、大橋の位置を落としてミドルサードで構える形に仕組みを変更し、鳥栖が試合序盤から使っていた、前線と最終ラインの間のスペースを小野瀬と平岡が消しにかかります。
構える位置が変わったとしても、プレッシングのきっかけとしては変わらずに原田と中野を狙い撃ちにするもの。原田と中野は引き続きボールを受けてからすぐの展開を求められます。

鳥栖は序盤は、ボランチ(特に福田)がサイドに出て行ってボールを受けていたのですが、湘南がやり方を変えてからはこのエリアに西川と本田が降りるようになりました。
それに対して、福田と河原は、湘南の迎撃部隊に囲まれた中央で引き出そうとするものの、スペースの狭さからから少しずつ動きが乏しくなって停滞気味に。
河原は何とかしようと、最終ラインにおりて山崎と原田をよりサイドに押し出す形をつくろうとしますが、湘南の迎撃、追撃部隊を揺るがすような形までにはいたらず。

西川と本田が降りて受けて、機能していたかというと、ボール保持のためには良かったかもしれませんが、前線の選択肢が減った状態にもなるので、個の力でうまく前を向いて前進させるか、それとも舘と杉岡に潰されてしまうかという二者択一の状態。再現性はあるけれども、やってみないとわからないという、ややギャンブル的なビルドアップとなってしまいました。

ひとつ、打開するヒントがあったとするならば、杉岡と舘は本田と西川の追撃部隊であったため、本田と西川が受ける先には原則潰しに動き掛かるという点。
誰かが動けば、誰かが動く。そして、誰かが動けばそこにスペースができる。
鳥栖としては、本田と西川が動くことによって、杉岡と舘を動かしたスペースを使えそうだったのですが、そこに飛び出していくような動きはあまり見られず。
見れなかったとしても最終ラインからボールを配球することで狙うぞというメッセージにもなりえるのですが、そのメッセージも発せられず。
川井監督はミドルパス禁止令などは出していないはずです。たぶん。
空いたところがあればミドルレンジでも積極的に狙っていき、パスが通らずともそれを見せることによって杉岡と舘へのジャブパンチにもなるのですが、そういった駆け引きが見られなかったことで、杉岡と舘が躊躇なく迎撃に出られたのかもしれません。

そうこうするうちに、序盤は高い位置で待っていた小野が待ちきれずにポジションを落としてボールの引き出しを狙い始めます。
中盤が固定化し、そして前線からつぎつぎに人間が下りてくるという、ボール保持を目的とするならば問題ないのですが、中盤の流動性がないまま、自分たちで少しずつゴール前に迫る選択肢を減らしていくような形に変化していってしまいました。

湘南のスペース圧縮によって、味方の位置を探りながらの前進となってしまった鳥栖。
象徴的だったのは、29分の河原からのパスを原田が逸してしまって湘南のカウンターを受けてしまったシーン。
受けてから早い展開をせねばならないことで、受ける前からプレッシャーを感じてしまい、肝心のボールを見失うという状況に。
そういった状態であったので、ミスを狙われてからのカウンターによる失点を重ねてしまったのは、この試合の展開としては妥当なものであったかもしれません。

ちなみに、3失点目も、自陣で奪われてからのショートカウンターではあったのですが、最終ラインのスペースを誰が下がって埋めるかというところが疎通できておらず、近くにいた福田は最終ラインまで下がる気配はなく平岡をフリーに。
しっかりとセットして守っている時は、岩崎も長沼もいるので良いのですが、カウンターを受けたときには、両サイドに加えて原田もしくは中野が行方不明になるような攻撃シフトを考えると、スペースケアの連係は早急に対応せねばなところかもしれません。
もしくはビルドアップミスを大幅に減らすか。

点差がつき、時間も進んで、湘南が少しずつプレス強度が落ちてきたころ、鳥栖としては本意ではないかもしれませんが、チャンスを作ったのはショートカウンターとロングボールによる前進からでした。
41分には相手ゴール前で奪い、人数も前残りしていて絶好のチャンスを得たのですが、パスが合わずにシュートすら打てず。
同じようなシーンを作ってそれを得点につなげるか、それともミスからチャンスを逸してしまうのか、このあたりの差が、湘南との得点差だったような気もします。

前半に鳥栖が1点返すのですが、鳥栖の初ゴールは、小野をめがけたロングボールを拾ってからの素早い展開。小野のヘディングの強さは今年も折り紙つき。
苦し紛れのロングボールから得点を奪ったのは、やや皮肉ではありましたが、それでも後半に希望をつなげるものとしては十分なゴールとなりました。

後半

前半のキックオフは展開ミスからのボールロストで始まった鳥栖に対して、湘南のキックオフは素早く前線にボールを送って町野がシュートを放つという対照的なスタート。
勢いと自信の差がそのまま試合開始に如実にでてしまった格好です。

後半にはいってからは明確に修正してきたサガン鳥栖。
サイドのスペースで受ける役割を右サイドは福田、左サイドは本田にと明確にしてビルドアップルートを確立します。
また、湘南のカウンターを受けたときに河原が最終ラインに入るケースも見え、前半の課題は早速対応してきているのが見えました。並びを変えた鳥栖と同様、湘南もやや微調整。サイドのスペースケアにウイングバックが前に出てくる守備も見え、互いに後半に対する備えをしてきたのが伺えます。

そして、前半に、ミドルパス禁止令は出ていないはずと書いていたのですが、後半になって解禁されていたことが早速判明(笑)
鳥栖は後半から、最終ラインから小野へ直接フィードしたり、畑の裏のスペースめがけて岩崎を走らせてフィードという、前半にはあまり見られなかった長いパスを使った展開を活用。
中野がフィードした際に、ウイングハーフが猛然とセカンドボールを狙ってフォローに行っていたので、ここはベンチからの指示もあったのでしょう。
地上戦では強かった湘南も、空中戦では完全に掌握とまではいかず、出撃部隊を飛び越すパスを用いてたびたび裏を突く攻撃が成功してクロスのシーンまで作り、あとは、ゴール前でのセンスと精度というところだったのですが、惜しいチャンスはあったものの決まらず。

ただ、ボールの前進の形は整えたものの、メリハリの効いた湘南のプレス強度に屈する状況が発生するのは前半と同様変わらずということで、湘南にもたびたびチャンスが。
町野、小野瀬、畑と次々とチャンスを得た湘南ですが、気合いの入ったパギのセーブによって、追加点とはならず。
だいたい、こういった展開のときは、サガン鳥栖に風が向くはずですが、先に得点を奪ったのはまたしても湘南。
山崎の西川へのフィードを再び杉岡が奪い取り、そのまま町野に渡して裏へ抜ける大橋へと渡し、見事なショートカウンターによるゴール。
西川へのパスが湘南の狙いどころであることがわかっていながら、再び同じような失点シーンを作ってしまいました。
鳥栖としては、昨年の終盤はハーフスペースで待ち構える西川がビルドアップの出口の王道パターンだっただけに、湘南に取ってはスカウティング通りの展開になったということでしょう。

この後、サガン鳥栖の新戦力のお披露目会みたいな4人同時交代を行ったのですが、その直後にも小野瀬の素晴らしいボレーシュートで失点。
前半も21分頃に、同じようにコーナーキックを小野瀬に渡してシュートを打たせたシーンがあったのですが、同じ形でやられるというのはなかなか。。
試合としてはこのゴールでジエンドでした。

選手交代後

選手交代後は4-1-2-3での戦い。
湘南のインサイドハーフの脇のスペースがビルドアップに使えるスペースということで、3バックやボランチが流動的に使って来たのを、4バックにしてサイドバックをそのまま配置することで、おそらく前進のスピードを上げようとしたのではないかと。
この形に変えて、センターバックからのフィードも明確になり、サイドバック経由がメインどころでときどき前線へ直接フィード。
前半はウイングハーフが担ったピン止め係は3トップの両ウイングとなった樺山と横山が担当し、サイドバックからボールをひきとります。
いったんサイドに預けてからは、個人で仕掛けるもあり、インサイドハーフが絡んでグループでの崩しもありという形で、ポジションチェンジも徐々に交えることができるように。
サイドで時間を作ってくれるので、原田と長沼も積極的にインナーラップでペナルティエリア近くでチャンスに絡みだしましたが、クロスとシュートの精度の低さは変わらず。

このころから、前半から積極的に前に出てきていた杉岡と舘はやや撤退守備になったため、西川と本田が前を向けるケースが多くなり、彼らがドリブルで運ぶケースも増えてきます。
河原はビルドアップにあまり絡まない状況となりましたが、前進を果たした後のサイドチェンジの中継地点としての役割へシフト。
カウンターの備えは山崎と田代の二人が担うことになり、システム交代と選手交代によって攻撃と守備の形がわかりやすくはなったのかなとは思います。
富樫も積極的な動き出しを見せ、湘南のクリアミスからのシュートチャンスなどもありましたが残念ながら決まらずでした。

おわりに

全体的に、湘南の方が選手たちがやるべきことをしっかりとやって、強度とスピードで鳥栖を圧倒した試合でした。
難しいことをやろうとして、ピッチコンディションの悪さという不幸も重なり、自分たちを表現できなかった鳥栖に対して、やりたいことが明確でわかりやすく迷いのないプレーができた湘南という対照的な戦いっぷりがこの得点差になったのでしょう。
失点シーンも、場所や選手は違えど、鳥栖をつかまえる動きを果たしてミスを引きだし、奪ってからのスピードで得点まで取り切るという、ある意味再現性でした。

今年もボールを保持するスタイルを継続して2023年度シーズンに挑んだサガン鳥栖。
最初の5試合で、今シーズンの立ち位置と目標が見えてくると思うので、ひとまずそれまでは見守りましょう。
ただ、結果がでないと、このサッカーが果たして正解なのかという疑念が生まれだします。
そういった疑念が生まれだしたときに、川井監督と選手たちを信じ続けることができるか。試される時がくるのかもしれません。

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