2020 第31節 : 横浜FC VS サガン鳥栖

2020シーズン第31節、横浜FC戦のレビューです。

結果

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(サガン鳥栖公式Webサイトより引用)

スタメン

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試合序盤からボールを保持できた横浜FCに対して、サガン鳥栖は最終ラインでのブロックを組む展開となります。攻撃を阻んだ鳥栖が低い位置からボールをつなごうとしますが、体力万全の横浜FCが、奪われたと同時に前線からのプレッシングで鳥栖の攻撃の組み立てを阻止します。序盤から、鳥栖はこの積極的な守備に苦しめられ、プレッシング回避のための長いボールを蹴っても前線がキープできないので、なかなか自分たちのリズムに持ってくることができませんでした。

鳥栖にとって全般的にリズムが悪かったのが、普段はエドゥアルドの読みで奪うパスカットやフリーの状態でのクリアがうまく味方につながって攻守切替(カウンターもしくはビルドアップ局面)というケースが多いのですが、今節はボールを奪ったと思ってもうまく味方につながらずに、再び相手に渡してしまうケースが散見されました。自分たちの時間への切り替えがうまく行かずに、相手の時間帯が続くと、フォワードも下がってからの守備という状況を生んでしまうので、なかなか前でボールをさばくことができず、リズムが悪化していく要因にはなりますよね。

鳥栖のビルドアップ(前半)

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鳥栖は秀人が右サイドの位置に下がって松岡と中野を押し上げる形でビルドアップの陣形を組みました。横浜FCが2トップだったので、保持のために最終ラインを3人にした形です。それに対して、横浜FCはプレッシングで右サイドハーフの松浦を1列上げてエドゥを見る形で人数を合わせてビルドアップを妨害する形を取りました。これに伴い、左サイドハーフの斎藤功がやや下がって松岡を見れる形になります。

横浜FCの守備体系により、鳥栖にとって右サイドは松岡がつねに監視されている窮屈な状態となり、中野はサイドバックが上がってこない限りは比較的フリーでボールを受けられる状態となります。こういった配置なので、秀人から松岡にボールが渡っても、横浜FCの選手たちがすぐに囲みに来るので、右サイドにおける樋口や原川との連係による崩しは非常に難しかったですね。

右サイドは松岡にボールを渡しても前進がままならないので、秀人が松岡、樋口をすっ飛ばして前線の林や小屋松にミドルパスを送り込むケースが増えますが、うまく裏を取れた時はチャンスになるものの、ボールキープを狙って足元や胸元に送り込んだ場合は、すぐに囲まれてボールロストしてしまう形となり、機能しているとは言い難い攻撃でした。

前半、秀人や原川から松岡へのパスが、互いの意図に合わずに外に出てしまうケースが何回か見られましたが、そもそも横浜FCの守備の網が狭いのでぎりぎりを狙わないといけないということもありますし、シーズンを通して考えると互いに慣れないポジションでやっているところなので、下げて組み立てなおしを狙うか、前にポジションを上げて受けたいのか、意思の疎通がまだ醸成されていないというところはあったかと思います。

それに対して、逆サイドの中野は、エドゥのボール配球能力も高く、配置上の優位性もあり、前向きのいい状態でボールを受けるケースを多く作れました。ボールを受けてからは、(松岡もそうだったのですが)浅い位置から早めにキーパーとディフェンスラインの間のスペースにクロスを入れる形を試みていました。横浜FCのディフェンスラインが高めに設定されていたこともあり、この辺りはベンチからの指示がでていたのかなとは伺えます。本田が一つ中のレーンにポジションを取っているので、横浜FCのサイドバックとしてはどうしても中央も併せて見なければならなくなり、中野が高い位置をとると横浜FCにとっては一旦捨てておくエリアとしなければならない状態でした。

全体の基本的な配置と攻撃プランはこんな感じで進んでいき、13分頃に中野のクロスから林がフリーで合わせますが、おしくも枠の外へ。この辺りは一発で仕留めてほしかったなとは思います。そのあとも、同じような位置で何度となく中野がクロスを上げますが、相手が狙っていると察知すると当然、対策を打ってきますから、センターバックもやや後ろ側に重心をおき、逆サイドバックもしぼってきていますので、より一層クロスの質が求められるようになってきます。

横浜FCのビルドアップとねらい目

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横浜FCはビルドアップで手島を最終ラインに落とすケースが多く、鳥栖の2トップに対してビルドアップを3人で対応する形を作りました。これに対して、鳥栖は、人に対してマンツーで付けるのではなく、樋口と本田を高い位置に上げて、4人でスクリーンを作ってボールの動きに合わせて前線の4人を動かす守備体系を取りました。サイドハーフがセンターバックとサイドバックの双方を見る守備対応、鳥栖がサイドハーフに求める「ハードワーク」を地道に繰り返していた形ですね。

横浜FCとしては、鳥栖のサイドハーフ(樋口、本田)が、幅を取るサイドバック(志知、マギーニョ)に見られてしまうと、そこから前への攻撃がなかなか難しくなるので、最終ラインに戻しながら左右に振って鳥栖の守備のズレを狙います。

横浜FCのねらい目としてはいくつかあったのですが、ひとつは、松浦、斎藤が鳥栖の2列目と最終ラインの間に入ってうまくボールをさばけたときに、鳥栖の守備ラインを押し下げることに成功していました。

もう一つ、横浜FCが前線へ運び出すスイッチを入れるのは、その守備のマッチアップがずれて、サイドバックとサイドバックがマッチアップになった時です。右サイドに展開してマギーニョがボールを受けたところに中野が出てくるとそのスペースに入った松浦に対してマギーニョがダイレクトで渡そうとしたシーンがあり、このプレイはミスになりましたが、下平監督の表情を見ると、おそらくこの形は狙っていたものの一つであろうことは伺えました。右サイドも、松岡が出てきた時に、斎藤がスペースを使う動きがありましたので、再現性という意味ではチームに浸透していたのかなと。

ただ、鳥栖は樋口、本田がこのマッチアップにさせないために、しっかりと上下動していたので、数多くの機会は作らせませんでした。プレッシングでハメ切ることができなかったので、なかなか前線でボールを奪いきることはできなかったのですが、この上下動で横浜FCの自由な前進を防いでいました。

この本田の守備対応に対して、29分頃、横浜FCが瀬古を最終ラインに下げて、「鳥栖のプレッシングのズレ」を狙う形がありました。これまで本田のプレッシングの狙いは田代だったのですが、そこに瀬古という新たなターゲットが現れ、前から行きたい鳥栖は、当然、瀬古に対して本田がプレッシングに入り、そうするとボールの出先であるマギーニョに対して、中野が出ていかざるを得なくなります。そこで、中野が出て行ったスペースにやはり松浦が入って行って、瀬古がダイレクトでそのスペースを狙うシーンがありました。このパスもミスにはなったのですが、サイドバックにマッチアップさせて、その裏を取るとう狙いが明確に見えたシーンかなと。中野を誘き出してスペースに入った松浦に対して、最終ラインから直接入れたり、ボランチを経由して入れたりという配球も多く見られましたが、最終的にはボールの質であったり、エドゥの読みであったり、鳥栖としてはピンチになる前に未然に防げはしていました。

前半の終わりころと失点シーン

前半の終わり際になると、鳥栖が攻守双方で苦しむことになります。前からのプレッシングがなかなかはまらない状況下で、徐々に自陣に押し込まれることになり、ボールを奪っても直後に横浜FCから切り替えの早い強いプレッシングを受けるため、長いボールを蹴らざるを得なくなる時間帯が来ます。横浜FCがリスクを負ってでも、鳥栖の前線からプレッシングを続け、そこで鳥栖も朴までボールを下げざるを得ず、朴からの配球で中長距離のパスを送り込みますが、どうしてもこのボールを保持継続することができません。鳥栖にとっては、こういった状況下では前線が林、小屋松というのがウィークポイントになってしまうところですね。チョドンゴンやレンゾロペスという、フィジカルやキープで時間づくりに貢献できるタイプがいなかったので、徐々に押し込まれてボールを持てない時間帯がやってきてしまいます。

その展開の中、失点シーンを迎えてしまうのですが、個人的には、その一つ前のシーンで、ボールを保持していたにも関わらず、前半あまり機能していなかった(窮屈な)右サイドからのビルドアップで中距離のパスを林に送り込んでロストしてしまったところがひとつの反省ポイントかなとは思います。時間帯も考えると、焦って苦しいボールを送り込む必要もなかったのかなと。そこではじき返されてセカンドボールも拾えず、斎藤のドリブルによる崩しから失点してしまいました。

失点シーンですが、チームとしては4回ほど、止められるチャンスがありました。

・ 松岡が斎藤のドリブルを止める
・ 宮がカバーリングで斎藤のクロスを止める
・ 秀人がリトリートしてクロスを止める
・ 朴がシュートをブロックする

それぞれ、まったくノーチャンスだったわけではなく、どこかで誰かが止められればというところだったのですが、察知であったり、ポジショニングであったり、最後のひと踏ん張り(体力)であったり、この一連の守備に関わった4人がすべて間に合わなかったので、ある意味、失点は仕方ないかなとは思います。

鳥栖の後半のビルドアップ配置の変更

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鳥栖は後半からビルドアップの形を変えてきます。宮に変えて原を投入し、中野を下げてビルドアップ隊に編成し、中野、エドゥ、原の3枚で最終ラインの組み立てを開始します。さらに58分には秀人を下げて森下を投入し、サイドに幅を取るプレイヤーに小屋松、森下と突破ができる選手を配置します。小屋松が列を下げる事で前線は林一人となりますが、ビルドアップルートに人数をかける事によってボール保持の時間を増やすと共に、林はゲームメイク(前線の長いボールの受け手)の役割から、ゴール前でのシュート…ボックスストライカーの役割に専念することになります。この配置変更による効果が様々あったので、ポイント別に。

① 最終ラインの数的優位性とパスコースの増加
前半は、最終ラインから中央への経由地が原川一人だったのでボールの前進に苦労していましたが、配置の変更で中央ルートに原川、松岡とパスコースを増やすことができました。最終ラインから見ると、小屋松、原川、松岡、森下と4つのコースが出来上がり、それによって横浜FCの守備陣を動かすことによって、ハーフスペースに入る本田、樋口へのコースも見えるタイミングができてきました。ビルドアップのパスコースが増えてプレッシングを回避できるルートを確立することができました。

鳥栖の配置変更に伴って、前半はエドゥアルドの位置まで出てきていた松浦をやや下がり目の位置まで押し込むことができ、相手のプレッシングが2トップのみになったので、原川、松岡がツートップの脇のエリアにポジションを移動して上手にボールをさばくことも可能になりました。原もこのスペースを狙ってボールを持ち上げることができ、縦に差し込むパスが増えたのも大きな効果でしたよね。

② 単独突破できる選手のサイドへの配置
前半は、松岡、中野と、パス交換やクロスボールによる攻撃を軸とした選手たちをサイドに配置しました。後半は、小屋松、森下と、ドリブルやワンツーを利用した侵入を軸とする選手たちを配置しました。これによって、サイドの選手が相手をひとりはがしてから、ハーフスペースに陣取る本田、樋口を利用した攻撃という形づくりができました。ひとりはがすと相手の守備体系もそのカバーに回ることになるので、マークにつきずらい中間的な位置にいる本田、樋口がフリーとなり、ボールを受ける事のできる回数も段々と増えてきました。

③ カウンターに対するリスクマネジメント
この配置にすることによって、中野が最終ラインの中央付近に構えることになり、横浜FCの早いカウンターに対するケアができるようになりました。横浜FCは、ボールを奪ってからは前線でポストプレイで時間を作って…という形ではなく、裏へのボールやドリブルを利用したスピードタイプのカウンターを仕掛けてきていましたので、読みの鋭いエドゥや中野が最終ラインにいることによって、リスクを未然に防ぐことが可能となりました。

①と②の成果は、67分の攻撃が一番わかりやすいですかね。原川が下りてツートップの間でボールを受け、小屋松が一人交わしてハーフスペースに陣取る本田とのワンツーからのクロス。林はゴール前でボックスストライカーとしての強さを見せたシュート。惜しくも決まりませんでしたが、明輝監督の意図通りの攻撃だったかと思います。

③は、こういった視点で見ると、後半、幾度となく中野がカウンターを防いだシーンが見えてきます。後半途中からは、交代して入ってきた中山が裏に抜け出す動きを何度か見せましたが、中野がしっかりとケアしてピンチを未然に防いだのは、鳥栖の勢いを継続するに非常に価値のあるプレイでした。

後半の攻防からの同点ゴール

時間が過ぎると共に、体力の低下も伴って、横浜FCのプレッシング強度が下がり、鳥栖のボール保持の時間帯を増やすことができました。横浜FCとしては前半機能していた前線からのプレッシングを継続することができず、後半も鳥栖の配置変更によって崩されるケースが多くなったので、サイドの突破を許していた小屋松、森下のところにフタをするべく、システムを5-4-1に変更してきました。

横浜FCが守備を重視して前線の人数を減らしてきたので、ボールを奪ってからのカウンターの機会が減り、さらに鳥栖が押し込む時間帯となりました。鳥栖が押し込む時間が増えると、最終ラインのケアにかける人数を減らして良いので、後半からビルドアップに参画していた中野が、前半のように、左サイドの高い位置を取るようにポジションを変更します。この配置変更が効きましたね。

同点ゴールのシーンは、横浜FCが5人を並べる最終ラインに対して、鳥栖は6人を前線に並べ、小屋松が一つ中のレーンに入って裏に抜ける動きを見せる事によって、大外の中野がフリーとなる機会を作ります。中野もクロスを上げるそぶりで切り返して原川のクロスの機会をつくります。原川はその前のシーンで同じような位置からクロスを上げていてそのときはレンゾに合わなかったのですが、仕切り直しのクロスはいいところに合わせて蹴ることができました。ゴールに至るまでのプロセスにおけるそれぞれの冷静な判断は良かったですね。もちろん、最後に仕留めたレンゾは殊勲のプレイでした。

最後は、押し込んでいたものの逆転ゴールとまでは行きませんでしたが、後半は何度か惜しいシーンもできていましたし、前半詰まっていたビルドアップも配置と選手の変更で改善することができましたし、全体を通しては良い試合だったのではと思います。それだけに、前半終了間際の失点が悔やまれますね。

終わりに

後半、風向きが変わったのは、松岡の顔面ブロックによるクリアのところからでしょうか。あのプレイは鳥栖全体に勇気を与えるビッグプレイでした。鳥栖が配置変更と選手変更でまだ戦い方がアジャストしきれていないときに、前半と変わらずアグレッシブに出てくる横浜FCの急襲を受け、ビルドアップのミスを突かれて何度かピンチを招いてしまいました。そこで横浜FCに仕留められていたらこの試合は終わっていたでしょう。逆に、このピンチを防いでから、配置に慣れてきた鳥栖が、明輝監督の想定通りのビルドアップを遂行できてきた感じで、横浜FCも徐々に守勢に回ってきた感じですよね。

あと、中野に対して明輝監督が「幅を取るな!」と言っていたのは、中野が幅を取ってしまうと、大外の位置で小屋松と縦の関係になってしまうからかなと。中野が最終ラインで幅を取ると、ボールを受けた段階でパスコースが限定されることになってしまうので、一美と松浦がコースを消すプレッシングがしやすくなるのを嫌がったのではないかなという所です。あとは、エドゥアルドとの距離が空いてしまってバランスが崩れるとか、万が一ボールを奪われたときに、中央にいた方がカウンターを防ぎやすいとか、いろいろと想定できます。

残り試合も少なくなってきましたが、来年につながる良い試合で今シーズンを終えたいですね。岩下も小林も引退を発表されましたし、経営の問題もあって、どのくらいの選手が契約継続できるかは分かりませんし、今年のチームを見れるのもラスト3試合なので、しっかりと目に焼き付けたいと思います。

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