姉と半分こした『青春アミーゴ』

「初めて買ったCDは？」という質問をされると、少し困る。
私にとって、「初めてお金を出したCD」と「初めて自分の持ち物にしたCD」が違うからだ。
後者はすぐに思い出せないが、前者は覚えている。
修二と彰の『青春アミーゴ』を、姉と割り勘して買った。

それまでの私は、両親や姉たち（姉が二人いる）の持っているCDやカセットテープを勝手に聴いていた。
姉たちの間での貸し借りは日常茶飯事、両親のCDやカセットテープは半ば共用のような置かれ方をしていたので、扱いに気を付けていれば自由に聴くことが出来た。

というより、自分でわざわざかける必要もなかった。
夕飯の支度の時から食べ終わるまで、ダイニングに置いたラジカセから中島みゆきやラッツ&スター、昭和歌謡のCDやカセットテープなどが流れていた。
ザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』は、コミカルな曲調が子ども心に大好きだった。
Kiroroや夏川りみ、『となりのトトロ』のサントラもこの時間によく聴いていた。

学校が休みの日は姉たちが、6人時代のSMAP、嵐、光GENJIにKinKi Kids、モー娘。やプッチモニ、SPEED、安室奈美恵などを見聞きしていた。
『タッチ』の主題歌集に付いていた映像CDをレーザーディスクの機械で再生して、『永遠のランナー』がかかる最終回の映像を何回も観ていた。

当時はテレビをつければ音楽番組がたくさんあって、姉たちと一緒になって観ていた。
22時台の番組のはずだが、なぜか『THE夜もヒッパレ』を観ていた記憶がある。赤坂泰彦と篠原ともえのわちゃわちゃしたやり取りがわずかに印象に残っている。

両親が昭和のヒット曲の特番を観る時も一緒だった。
いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』の映像は、とても可愛くて綺麗で好きだ。

CDを買ってもらうこともあった。
『だんご3兄弟』とPierrotの『ハルカ…』。
『神風怪盗ジャンヌ』が好きだった私は、8cmCDのジャケットに描かれたジャンヌに魅了されていた。

私にとって音楽は、「自分から何かしなくても得られるもの」だった。

10代になると、同級生たちは自分でCDを買うようになった。
好きなアーティストのこと、新曲のCDを買ったことを楽しそうに話す同級生を見て、自分でCDを持つことに憧れを抱くようになった。

だが、音楽に対して受け身だった私には、特別好きなアーティストがいなかった。
両親や姉たちが聴いている曲、ドラマやアニメの主題歌、CMや音楽番組で聴いた曲など、曲単位で好きになることが多かった。

それに、今流行りの曲はテレビをつければ、フル尺ではないがどこかしらで流れている。
自分から積極的に曲を聴きたいという思いが、当時の私にはまだなかった。

そんな中、当時一大ブームを巻き起こしていた『野ブタ。をプロデュース』の主題歌、『青春アミーゴ』のCDを次姉が買うという話になった。
次姉と一緒にドラマを観ていて主題歌も好きだった私は、自分もお金を出すと言い出した。

どうしてそういう決断をしたのか、はっきりとは覚えていない。
今までのように、姉が買ってきたCDを勝手に聴けば良いのに。

恐らくだが、当時の私は大人になるための段階を踏もうとしていた。
自分でお金を出して何かを手に入れる。それが成長のステップの一つだった。
この少し前には、漫画雑誌の『ちゃお』を買い始めたり、今まで親に買ってもらっていた小説『キノの旅』の新刊を自分で買うようになったりしている。

次はCDだ、とは思ったものの、音楽に対する積極性がなかった私には、このCDが欲しいという具体的な考えがなかった。
そこで次姉に便乗することにした。そんなところだと思う。

そうしてお金を払ったわけだが、割り勘をしたところでCDを物理的に半分にすることは不可能だ。
CDそのものは今も次姉が持っている。

次姉はお金を払って、CDそのものを得た。
私はお金を払って、大人になるための経験を得た。
「物と経験を半分こした」というのでは、少しクサい表現だろうか。

実は、CDを買う場面には立ち会っていない。姉にお金を渡しただけだった。
あるいは記憶にないだけかもしれないが、とにかくお店で買ったという記憶がない。

それでも、『青春アミーゴ』のCDを手にした時、自分が音楽に対してお金を払ったという実感を得て、一つ大人になったというむずむずした感覚が私の中に起こった。

その感覚を今も覚えているから、たとえそのCDが手元に残っていなくても、初めて自分の持ち物にしたCDよりもはっきりと、この『青春アミーゴ』を覚えているのだと思う。

大人になって、かつては姉と半分こした「物と経験」を二つとも得られるようになった私だが、ここ最近はサブスクで音楽を楽しむ日々になっている。
昭和の曲のラインナップも豊富なRecMusicと、アニソンに強いANiUTaの二つ。

曲単位で好きになるのは相変わらずだが、好きなアーティストも出来た。
三代目J Soul BrothersやDOBERMAN INFINITY、Sound HorizonなどのCDを買いあさったが、ここ1、2年は買えていない。
ライブに行くようにもなって、正直CDよりもそちらの方が盛んかもしれない。

どうやら私にとって音楽は、「自分の体と心で聴いて感じる経験」になったようだ。

#はじめて買ったCD