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佐賀から世界へ!半導体作りの最前線に立つJSRマイクロ九州「世界シェア1位」の秘密に迫る

▲JSRマイクロ九州の工場外観写真

2023年2月某日。私たち佐賀西高校社会研究部の5人は、佐賀市内にある久保泉工業団地の中でも一際目を引く、JSRマイクロ九州株式会社の工場へ向かった。
 
JSRマイクロ九州は、半導体に必要不可欠な各種材料の製造で世界的なトップシェアを誇る「JSRグループ」の国内における製造拠点の一つ。1996年に設立され、資本金3億円、従業員数約120名を誇る“大企業”だ。
 
同社が主に扱うのは「半導体用フォトレジスト*1」と「ディスプレイ用配向膜*2」の二つ。

[用語解説]
*1半導体用フォトレジスト
半導体を作る原料の一つ。光を当てた部分だけが水に溶ける性質になる。
 
*2ディスプレイ用配向膜
パソコンやテレビの画面に使われる膜。画面は赤、青、黄の三色の光を出すが、通す光の色を調節することで画面に画像を映し出す。

この説明を聞いて、「地味じゃない?」と感じた人がいるかもしれない。しかし、これらの部品は高度な技術と企業の努力の結晶なのである。
 
例えば、フォトレジストによって作られる回路の溝幅は数ミクロンと、髪の毛の太さの数千分の1だ。とても人の手では彫ることができない。また配向膜も、厚さは1ミクロン以下で、その中に光を正確に調節する機能が詰まっている。製造には、最先端の設備と高度な技術を持った技術者が必要となるのだ。
 
あらゆるものが自動化され、AIが進化し続ける現代。その最前線に立つJSRマイクロ九州は、なぜフォトレジスト世界シェア1位の地位を確立・維持できているのか? 実際に同社で働く人たちを対象に行なったインタビューで印象に残った言葉を紹介しつつ、技術や人事などの視点から、同社の秘密に迫りたい。

世界シェア1位で居続けるために

▲代表取締役 社長 加藤 大樹さん

――なぜJSRグループでは、フォトレジストの世界シェア1位を確立・維持できているのでしょうか?

「一言で言えば、努力の量が世界一だからです。私たちは1970年代にフォトレジストの開発を始めたので、他社が追いつけないほどたくさんのノウハウを見つけています。また、我々が作るフォトレジストは髪の毛1本の太さに何百、何千と回路を刻めるくらい細かい加工ができる製品なので、高い技術が要されるんです」(代表取締役社長 加藤 大樹さん)

加藤社長は、世界一は「努力」の賜物だと即座に言い切った。そして、世界一になるため、努力によって手に入れてきたものを教えてくれた。

「一つ目は、ケミカル(化学)の力ですね。言い換えれば商品を開発する力です。二つ目は、それを製造する力です。そして、三つ目は、それを販売する顧客の方々との信頼関係です。
 
私たちは、とても特殊な薬品を日進月歩でお客様たちのニーズに応え続けて築いてきた信頼関係の下で製造していて、これによって、ほかの企業が後から参入することが難しくなっています。このような点で、やはり時間を掛ければ掛けるほど力がついていくといえると思います」(代表取締役社長 加藤 大樹さん)

たしかに、三つ目の「顧客との信頼関係」という点においては、昔から事業に参画している企業が特に有利ではないかと感じた。
 
今回の例で言うと、取引先の相手が、「JSRマイクロ九州とフォトレジストの取引をする」と決めていたら、JSRマイクロ九州が相手のニーズに応え続ける限り、顧客を失うことはなく、新しく参画した企業に契約する相手を譲らないことができる。
 
技術と歴史の二つを兼ね備えたこの会社だからこそ、世界一を獲得できているのだろう。

なぜフォトレジストだったのか?

▲製造部 部長 木村 勝義さん

――今や主力商品のフォトレジストですが、まだPCも普及もしていない時代だったにも関わらず、なぜフォトレジストに注力できたのでしょうか?
 
「正直、将来的な需要の拡大をそこまで具体的に予期していたわけではありません。もともと私たちは合成ゴムを作る会社で、そのゴミが製造に使えるからやってみようということで始めてみたのがフォトレジストだったんですよね。いろいろな事業に手を出して、そのうちの一つが偶然数十年後に花開いたという感じです」(代表取締役社長 加藤 大樹さん)
 
「私が入社した頃は、フォトレジストは赤字の部門だったんです。しかし、それから5年ぐらい経った1994年ごろ、黒字になって急成長して行きましたね」(製造部長 木村 勝義さん)

この話を聞いた時は正直驚いた。なぜなら、成功しているあらゆる事業――特にこのような最先端事業は、生産当初からすべて計算尽くしで計画されているものだと思っていたからだ。
 
しかし、最初は合成ゴムのゴミから始まった事業だったと聞き、「とりあえずやってみる」ということの重要性も考えさせられた。

――世界一の座でフォトレジストのような最先端の商品を作る際に感じる、苦労やその解消方法などはありますか?

「苦労と言うよりは、私たちを支える部分でもあるんですけど、お客さまの要求が日々変わっていくということでしょうか。古くから同じ製品を作ってきたのですが、同じといっても、日々お客さま方から寄せられる要望に応えて開発や製造の技術を磨いていかなければいけない。
 
先程も言った通り、髪の毛の太さよりはるかに細かい加工ができる薬品を扱っているので、製造の時も包装の時も、常にゴミが入らないような、クリーンな環境を整えている必要があります。それらもすべて、お客さまとの相談の上で成り立っていますね」(製品技術部長 吉澤 純司さん)

取材中、社長や社員の方々は「日進月歩」という言葉を頻繁に使っていた。最先端で世界シェア1位を守っている企業だからこそ、時代の変革を肌で感じるのだろう。
 
その感覚を見過ごさず、日進月歩で努力を怠らない姿勢が、世界シェア1位の座を揺るがないものにしているのだ。

グローバル企業ゆえの悩みと価値

▲管理部 課長 山口 元さん
▲製品技術部 部長 吉澤 純司さん

――御社は世界中に支社や工場を持っていますが、グローバル企業ならではの苦労ややりがいはありますか?
 
「私は、世界中から原材料を買ってきたり、お客さまの需要を聞いて生産計画を練ったりする仕事をしているのですが、その際、地域による特色の差をとても感じますね。例えば、ヨーロッパのお客さまは、半年後の需要を正確に伝えてくださるのでとてもありがたいです。
 
しかし一方で、1週間後の需要の予想すら不安定な地域もあります。また、ヨーロッパ、アメリカ、日本は、約8時間ずつの時差があるんです。こちら側の業務が終わりそうな時に、ヨーロッパでは業務が始まるので、こちらの帰り際に業務をお願いされることもあるんです。そっちが終わり始めると、次はアメリカみたいなことも。それが苦労でもあり、面白みでもあるんですけどね」(管理部 課長 山口 元さん)
 
――そのような大変な業務の中で、対処するために見出した方法は?
 
「そうですね、永遠にやろうとするとキリがないですし、こちら側の体調管理のためにも、やる時と休む時の区分をきっちりとするというのは意識しています。社員のみんなにもワークライフバランスを意識してもらうようにしています。頭が働いた方が、最先端の仕事にはいいですからね」(製品技術部長 吉澤 純司さん)

これらの話は、私がインタビューの中で、個人的に最も好きだった話である。
 
今目の前にいる方々が、本当に世界各国と繋がっていて、それぞれの地域のことをよく知っている人なのだということを再確認できた話だったということもあるし、時差が業務に関係するのも、グローバル企業ならではという感じがして、とても興味深かった。
 
また、限られた時間の中、ダラダラと業務で残ってしまわないように、ワークライフバランスを徹底するという工夫をしている点にも感心した。

グローバルとローカルのはざまで

――会社としての今後の展望について教えてください。
 
「そうですね。この会社が世に受け入れられ続けること、そして地域を盛り上げることですかね」(代表取締役社長 加藤 大樹さん)

JSRマイクロ九州の目標はこの二つらしい。
 
世の中に受け入れられるとは、売り上げに固執するのではなく、従業員や関連企業への思いやりを重視し、関係性を良いものとして保つこと。さらに、会社を取り巻く自然環境にも敬意を払いながら売り上げを伸ばせる企業になることを指す。
 
その目標実現のため、JSRマイクロ九州はさまざまな取り組みを行っている。具体的には従業員の部活動の設置や使用済み製品のリサイクルなどだ。そのかいあってか、「健康経営優良法人2022」「エネルギー管理優良工場 九州経済産業局長賞」にも選ばれている。
 
また、佐賀と九州の振興にも力を入れるつもりでいるとのこと。私たちにとって佐賀は、自然豊かで生活に必要なサービスが充実したとても住みやすい場所である。だが一方で、そのことがあまり地域外の人に伝わっていないことも痛感している。
 
そんな中、国内外に多くのつながりを持つJSRマイクロ九州が、地域の魅力を発信する役割の一端を担ってくれるのであれば、こんなにありがたいことはない。世界を相手にモノづくりをするJSRマイクロ九州だが、地域社会を軽視しない謙虚な姿勢を貫いているようだ。

高校生たちに伝えたいこと

▲取材を行う佐賀西高校社会研究部の5人

世界中で多くの経験を積んだJSRマイクロ九州の方々。人生の大先輩でもある彼らから、私たちは多くのことを学ぶことができた。

――学生時代にやっていてよかった、身に付けられて良かったと思ったことはありますか?
 
「とにかくいろいろなことに挑戦しました、その姿勢が今も役に立っています」(代表取締役社長 加藤 大樹さん)

返ってきた答えは知識や能力ではなく、意外にも「姿勢」だった。
 
JSRマイクロ九州で代表取締役社長を務める加藤社長は、働き始めの時期に相当な苦労をしたそうだ。学校で学んだ知識とはあまり関わりのない仕事から始まり、上司や周りに置いて行かれないよう必死だったらしい。
 
その状況を乗り越える助けになったのは、学生時代に身に付いた、自分から学んでいく姿勢だった。自分なりの試行錯誤と周りの先輩たちの助けも借りて食らいつくことで、ここまでやっていくことができたそうだ。
 
また、加藤社長は学校での学びを“お勉強”と表現した。会社での学びと学校のお勉強――最大の違いは、結果を必ず求められること。学校の勉強の良し悪しは、結局自分の責任で済み、テストの成績も、「いいじゃん」「残念」で完結する。
 
しかし会社で勉強が欠けているとその責任は自分1人では済まないため、確実な成果が求められる。「学生時代は“お勉強”でもいいから、あまり成果に固執せず広く多くのことに触れ、自発的な勉強の姿勢を身に付けていくべきだ」そう加藤社長は語った。
 
私たち高校生は確かに毎日勉強を重ねている。しかし、勉強してより良い大学に受かる、またはテストでいい点を取ってほめられることだけを目的にしてしまっている人も少なくない。
 
自分は将来どんな職業に就くか分からないし、実際にどんな知識が役に立つかもわからない。もしかしたら自分が興味を持って調べて得た知識に助けられる機会があるかもしれない。目先の成果にとらわれず、より広い視野を持つことの大切さに気付くことができた気がした。

取材を終えて

▲取材が終わりお礼の挨拶をしている様子

私たちにとって最も印象的だったのが「努力の量が世界一だから」という社長の言葉だ。
 
最近、「最小限の努力で、最低ラインを超えていられればいい」という考え方の人をよく目にする。そんな考え方を聞きすぎて、私たち自身、その考え方に呑まれかけていたことに、取材を通して気づくことができた。
 
インタビューの中で、「この会社は『ワークライフバランス』を重視している」ということが繰り返し強調された。「努力と休息のバランス」と言い換えることもできるだろう。従業員がストレスを感じないような休息は不可欠で、その中で最大限の努力をすることで、世界一という地位を保っているように感じた。
 
これは、私たちの生活にも言えることではないかと思う。ただひたすらに、何も考えずに努力をするのではない。適度な休息によって作業効率を高めるということも、現在より更なる高みを目指すためには不可欠なことなのだ。
 
当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、これはとても難しいことだと思う。「休息」と「怠慢」の線引きは難しいし、「最大限の努力」と「徒労」の線引きも難しい。
 
しかし、難しいからといって、そこをあいまいにして日々を浪費するのではなく、JSRマイクロ九州の方々のように、その境界線を見定め、向上心を持って努力をすることが必要だと思った。

担当高校生ライター:
佐賀西高校
3年 森園 耕平、副島 浩也
2年 半田 秀賢、百武 拓哉、永渕 誠也

取材企業:
JSRマイクロ九州株式会社

佐賀市久保泉町大字上和泉1580-1
0952-98-3001
https://www.jmq.jsr.co.jp/


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