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自然エネルギーのつくり方

信州の茅野から伊那高遠に抜ける国道152号(杖突街道)の道中にある杖突峠に守屋山(標高1650m)の登山口があります。東京から中央道を使って諏訪インターで降り、20分も走ればもうそこは登山口です。
登山口から山頂まではたおやかな尾根の樹林帯が続き、春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、そして落葉、残雪と、いつの時期に行っても最上級の自然が待っていました。樹林帯を抜け山頂に立てば、北アルプス、南アルプス、中央アルプス、八ヶ岳、蓼科、そして富士山まで眺望でき、まさに360度の大展望台です。
朝早く自宅を出れば日帰りもできるこの山が私は大好きで、若いころから家族や友人と何回も登りに行っていました。

数年前、山仲間と韮崎の友人宅で酒を酌みかわし、明日は久しぶりに守屋山に登りに行こうということになりました。翌朝、杖突峠の駐車場に降り立ったとき、出鼻をくじかれる異常な光景を目の当たりにして愕然としたのです。登山口一帯のあの美しい樹林がごっそり伐採されソーラーパネルがべったり貼られているではありませんか。(写真)
“自然エネルギーをつくるために美しい自然を破壊する”、果たしてこんなことがあっていいのでしょうか???

東日本大震災を契機に国家戦略として2012年に発足した電力固定価格買取制度(FIT)は、日本の再エネ拡大の原動力になってきました。特に太陽光発電は場所さえ確保できれば短期間に建設が可能だったことから一気に普及しました。全国各地で山林を切り拓き、農地をつぶして太陽光パネルをべったり張り付ける工事が行われたため、太陽光発電=自然破壊という悪いイメージが定着してしまいました。近年の大型台風や大雨で太陽光パネルが置かれた斜面が崩壊するなどの事故も全国各地で起きています。ほんの一握りの悪徳業者がそんなことをやったという程度にとどまらないところに大きな問題があるのだと思います。
景観保全と安全確保に対する住民の不安の声を反映してこの5年間に全国の自治体で再エネ設備の建設規制をするところが5倍に増えたそうです。(経産省調べ 2021.9.14日本経済新聞夕刊)

その一方、地球温暖化防止施策として2050年までにカーボンニュートラルを達成する方針が国から打ち出され、2030年までにCO2の排出削減目標を2013年度比で46%に引き上げ(従来目標値23%)、そのために、再エネを日本の主力電源として最優先で導入し、再エネ比率を36-38%とすることが新しいエネルギー基本計画に明記されました。太陽光はその主力として期待されていますが、すでに適地も少なくなっているのも現状です。全国で28万ヘクタールあると言われている荒廃農地は大きな発電ポテンシャルを持っており、どうせ遊んでいる土地なら規制を緩和して太陽光発電事業がやりやすいようにする、そのために促進地域を設けたりソーラーシェアリングの設置基準を緩和したり等、種々な検討もされています。

ただ、懸念されるのは、それが自然破壊に拍車をかけるような事態にならないかということです。もしそんなことになれば本末転倒です。自然景観の保全と安全をしっかり確保しながら自然エネルギーも作り出すものでなければいけないでしょう。

百聞は一見に如かず。
みなさん、さがみこベリーガーデン(SBG)を見に来てください。
ここSBGは相模原市の津久井から山中湖に抜ける国道413号線沿いにある典型的な中山間地の農地ですが、つい3年程前、わたしたちがこの場所と出会った時は、農地とは名ばかりで、背丈を超える雑草に覆われ、どこから手を付けていいか頭を抱えてしまうような、荒廃農地と呼ばれても仕方がない場所でした。そんな場所を開拓してソーラーシェアリング方式で畑の上部で太陽光発電を行い下部で作物(ブルーベリー)を育てる、周囲の緑地も十分確保しながら、ここを観光農園+生産農園の事業として再生させようというのがこのSBGプロジェクトです。

自然景観を維持しながら自然エネルギーをつくる、今までなかった自然と調和した新しい景観をここにつくりたい、これがわたしたちの願いです。
 山川陽一(2021.10.23)

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