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映画「にしきたショパン」のヘアメイクを受けるまで

監督からこの映画のヘアメイクの依頼が来たとき、
実は断ろうとしていた。


その頃の私は、数年にわたる不規則な生活、不安定な収入から解放されたくて
別の仕事で安定しようとしていた。

技術がある程度形になってきてからは
お見合い写真や成人式前撮りのヘアメイクをしながら
映画、モデルの卵たちの宣材写真、webCM、商品パッケージのモデル撮影...
どれも大きな仕事ではなかったかもしれないが、ヘアメイクの現場としてやってみたかったことは一応一通り経験できていた。

もう、自分はここまでで十分と思っていた。

「初めて長編を撮ります。メイクはチアキさんにお願いしたい」
と数年の付き合いになる竹本祥乃監督からメールが来たとき

「できるかわからない」
とゆうような言葉で曖昧な返事をした。

すると監督は
「感情を表現するヘアメイクを頼めるのはチアキさんしかいない」
とゆう言葉と一緒に
脚本のデータを送ってきた。
そう言われて読まないわけにはいかなかった。

「(・・・長編映画なんか・・・今のモチベーションで全然やれる気がしない・・・)」

と気が重いまま脚本を読んだ。

読みながら、
各シーンの登場人物の姿を鮮明に頭の中で描いている自分がいた。

そしてラストシーン。
凛子と鍵太郎の姿がはっきりと見えていた。

まだ、キャストは決まってないとゆうのに。

そして、監督が私に何を求めているのか、なぜ私に頼んできたのかもわかった。

ナチュラルに、あくまでナチュラルに
この2人の5年間の成長と心の葛藤を
ヘアメイクで表現してほしいのだと。
それは、この映画に必要不可欠なことだと。

そして
「このヘアメイクは、私がやりたい」

と思った。

問題は、撮影日に全部1人で入るのはスケジュール的に無理なことだった。
監督は全シーン通して私にお願いしたいと言ってくれたが、どうしても難しかった。
そこで、

「私主導でヘアメイクチームを作らせてほしい」と提案させていただいた。

誰を誘うかはもう2人決めていた。
私が中退した美容専門学校の同期。

みゆきはヘアセットサロンで働いていてフリーのヘアメイクとして数多くの現場をストイックにこなしていた。
おそらく映画は初めてだろうが、何が必要かどうかはきっとわかってくれるだろうし、安心して任せられるとゆう確信があった。

でんは当時フリーランスになったばかりの美容師で、ヘアメイクとしての経験数はまだ少なかったが
美容師としての腕は確かでメイクや写真撮影などを自分で積極的に学んでいたのを知っていた。
そして感性豊かで賢い。
最初に少しサポートすればこの映画の現場に必要なこともすぐにわかるだろうと確信していた。

この2人じゃないと感覚を共有できないと思ったので
2人が受けてくれないならもう断るしかなかった。


2人は、快く受けてくれた。



しかし映画の現場におけるヘアメイクでチームを作る、とゆうのは自分で提案しといて初めてだった。
ましてや長編。

「これは頭脳戦。全ては準備だ」
と思ったのでとりあえず

それぞれが入る日程のシーンがどのシーンとつながるのか整理し、
誰がどのシーンの撮影に入る予定かを
全て頭に叩き込んだ。


そんなこんなで、2人が入ってくれる日の前日には各シーンのポイント、繋がるシーン、監督の注文予想(笑)などを共有しながら
チームプレイでやってのけた。

結果的に全体の約3分の2を私が入り
3分の1を2人に分担してもらった形になった。

撮影期間、トラブルやアクシデントが全くなかったといえば嘘になるがなるが、
初めてのチーム体制のわりにはある程度スムーズにやれたほうではないかと思う。

まあ撮影現場の準備に関しても、出来上がりも
個人的な反省点は山ほどあるが。

もっとやれたのでは。

そう思わずにはいられない。

まあ個人的な反省はさておき、
とにかくみゆきとでんの2人には感謝しかない。

ニース国際映画祭でヘアメイク部門でノミネートするとゆう快挙には本当に驚いたし嬉しい。
ヘアメイクとゆう手段で、国境を超えて伝わるものを作れたとゆうことだと思っていいのだろう。
しかし、
そもそも2人の協力がなければこの映画のヘアメイクに入ることさえ出来なかったことを考えると
非常に感慨深いものがある。


さて、次々と追加上映が決まっていくにしきたショパン。
今後の行末が楽しみだ。

そしてこの作品の背中を追いかけて
私自身も次のステージに行かなければならない。



にしきたショパン公式サイト