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【男の自画像-10】NYの色仕掛けに我を忘れる・・・

 NYで鉄板焼きといえば「紅花(Benihana)」、日本食ブームの立役者とも言われる老舗レストランだ。僕たちは、宿泊先のNYヒルトンホテルから、この「紅花」に向かう。
 いや、正しくは近畿日本ツーリストのMさんから連れてってもらった。高級な焼肉屋。そなん感じのお店だ。テーブルの用意ができるまで入り口の右奥にあるカウンターで暫く待つこととなった。

 内装は、中国風であろうか。僕は、カウンターの一番右側に腰掛けた。左側にKさんが「どっこいしょ」といって腰掛ける。
 次の瞬間、僕は思わず「あははっ」と笑ってしまった。NYに来て3日目。少し英語の世界になれたかな?そんな気持ちになっているところへ「どっこいしょ」と来たもんだ。しかも、僕の気持ちと実にタイミング良く。

 NYに来て、はじめて気持ち良く笑えた。気分がすーとした。Kさんは、少しむっとしたような顔をしたが理由を説明すると「そうか、わかる。わかる」とニヤニヤしていた。今日は、Kさんと旨いビールが飲めそうである。

 出てきたのは、キリンのラガービール。しかも大瓶である。そして柿の種。

 輸入ものの「キリンビール」。海外でなければ飲めない。maid in Japanをこれ程意識したことはない。感じたことが三つある。

一つ目は、やっぱりビールは飲み慣れている日本のビールが旨い。

 二つ目は、NYに来たらこちらのビールが飲みたい。キリンビールを出してくれるのは有り難いがその裏には日本人の商魂がちらちらと伺える。やるせなさがある。
 しかし、こんな事はお構いなしに日本人は海外にどっと出て行く。これがまた情け無い。そして、僕もその一人であることに納得する。日本人は、人と同じだと安心するものだ。

 三つ目、こんな暗い考えはやめて素直に楽しもう。

いいじゃないか、maid in Japan。日本万歳。

 そろそろ、テーブルの準備ができたらしい。今晩は、お酒をおおいにつぎ会って飲もう。僕は、今日ほど英語が話せたらなぁと思ったことはない。その理由は、後で書くよ。

 「紅花」では、おおいに酒を注ぎあい、語らい、「日本人」をした。料理も旨かった。大満足だった。
 そして、2件目のお店がここだ。近畿日本ツーリストのMさんがどうしても連れてきたいと言うので仕方無く、全員で来たものだ。

 僕が好感を持っているMさんから誘われれば断る理由はない。皆の後にしたがった。「紅花」から5分程歩いただろうか、ド派手な看板を上にみて、地下のお店に入る。突然目の前に2mはありそうな大男がぬっと現れた。

次の瞬間。「○$×△!!!  ○$×△???」

 Kさんがお店の前にいた大男に怒鳴られた。皆がびっくりした表情である。何が起こったのか解らない。さぁ、ここは、英語が達者なMさんの出番である。優しく男に話し掛けて、仲裁に入ってくれた。どうやら、Kさんの持っていたカメラを見て、店内の撮影禁止を注意したらしい。
 しかし、どう考えても注意したという感じではない。完全に脅かしたとしか考えられない。Kさんは、「やるか!・・」という顔をしている。でも相手は、2mをこえる大男である。相手が悪い。誰もがそう思った。後ろからは、次のお客さんが来はじめている。

 喧嘩を売るにも英語が解らない。気力だけである。洒落ではないが、本当に「話しにならない」のである。MさんとKさんが何やら話している。暫くして、Kさんがカメラをしまう事でことなきを得た。そして、Mさんが大男の胸ポケットにさっと数ドルいれるのを僕は見逃さなかった。海外生活10数年。Mさんの苦労を垣間見たような気がした。さすがNYの夜だ。

 入り口でのトラブルを忘れたかのように、僕は2本目のバドワイザーを手にしている。皆もニヤニヤしながら飲っている。そして、目の前には、トップレスの女の子が踊っている。ステージでの踊りではない。気に入った女の子に10$を払えば直径50cmくらいの「お立ち台」を持ってきて目の前で踊ってくれるのである。

 まさに目の前である。ブロンドの髪。クリッとした目。透きとうるような白い肌。スタイルは抜群ときたもんだ。まるで、雑誌の「ペイントハウス」のモデルがここにいるようだ。
 のんきにバドワイザーを飲んでいる場合ではない。衣装は、淡いグリーン色。しかもNY級の超ハイレグである。まるで挑発を楽しんでいるかのような腰の動き。

 あぁ、たまらない。皆の目は、彼女に釘付けだ。生きていて良かった。NYに来て良かった。しかし、彼女は、横浜支社のYさんの目の前で踊っている。羨ましいかぎりである。彼女は、日本人と知ってか、いたずらをし始めた。Yさんを妙に挑発している。

 Yさんの目の前、数センチにお尻を突きだし、くねくねと・・・・

 Yさんは照れながらも満足そう・・・今度は、Yさんのおでこにキッス。皆からは、冷やかしの野次が上がる。おでこにキスマークを付けたYさんは、もうメロメロになっている。あっという間の出来事で、下半身を熱くしている暇もなくショータイムが終わってしまった。

 皆はもう一回といわんばかりに、各自で1$をゴソゴソ出している。そして、頼みのMさんに託すのである。我々は、約10人いるから一人あたり1$ですむ。安いもんだ。Mさんは、皆から集めた10$を握り締めて店内の女の子を探しにいく。

 Mさんが女の子を口説いて入る姿が実にかっこいい。右手をポケットに突っ込み、左手でゼスチャーをしながら彼女の胸の隙間に1$を無造作に突っ込む。
 彼女がにっこり微笑む。交渉成立だ。彼女がこちらに歩いてくる。ブラックの彼女は意外とおっぱいが大きそうだ。

 僕は、残っていたビールを一気に飲み干した。

 「さぁ、僕も英会話をやるぞ!」絶対に決心した。動機は少々不純だが、まぁ、いいだろう。彼女はチップを要求しているらしい。指を一本立てながらYさんに何やら催促している。目の前で踊ってもらったYさんは、チップをやらないわけにはいかない。

 しかし・・・・・Yさんは1$を持ったまま困った顔をしている。

 彼女は、おっぱいに手をやりながら踊っていてチップをとろうとしないのだ。ここで、またまた近畿日本ツーリストのMさん登場。

 Yさんから1$を取ると彼女の太ももにあるストッキングのバンドに挟んだ。彼女はにっこり笑って「Thank you」

 なるほど・・・僕もチップをやることにした。このやり方なら幾らやってもいいと思う。当然のようにYさんは、追加でもう1$チップをはずんでいた。

 NYは、お金が掛かる街だ。しかし、素晴らしい。
NYの色仕掛けは、楽しくてスケベな一日でもあった。


がんになってから、「お布施をすると気持ちが変わる」ことに気がつきました。現在「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」に毎月定額寄付をしています。いただいたサポートは、この寄付に充当させて頂きます。サポートよろしくお願い致します。