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【男の自画像-7】スケールに驚くナイアガラの滝

 ラガーディア空港 USAIR484便 9時00分発 ゲートNO14

 「ナイアガラの滝」へ向けての出発である。飛行機の前に向かって左に3人掛けのシートが12列。右に、二人掛けのシートが12列。合わせて60席が満席であった。空港のロビーでJTBのツアーと合流する。日本人ばかりだ。安心するとともにやっぱりなぁ、と思う。

 待ち合わせの場所には、すでに数人が待っていた。手前は、子供連れの4人家族らしい。子供達は、まだ、小学生くらいだろうか。小学生のうちから海外旅行の経験ができるなんて、うらやましい事だ。東京からでもきたのだろうか。しかし、飛行機での長旅は大変だったろうに。

 奥さんと目があった。

 アメリカ人は、目が合うと必ず、ニッコリする。良い習慣だと思う。
ここはNY。さっそくまねをして「ニッコリ」としてみた。自分の頬がひきつっているのがわかる。奥さんらしい人も笑みを返してくれた。さあ、次は話しかける番だ。「こんにちは、大島と申します。東京から来ました。失礼ですが、どちらからおいでになりましたか?」「いいえ、僕達は、こちらに住んでいます。今日は、家族でナイアガラを見に来ました」「ああ、そうですか。・・・」次の言葉がでない。
 
 視線を反らして、ロビーの外を見るしかない。

 ロビーの外では、僕たちのツアーのほとんどの人達がタバコを吸っている。今の光景を見られずにすんだのには救われた。アメリカでは、ほとんどの場所でタバコが吸えない。特に空港内では、先ずダメである。外は寒そうだ。みんなは肩をすくめながら続けて何本も、吸っている。僕も10年前まではプカプカ吸っていた。今でこそ自分は吸っていないが、なんとなくみじめったらしく見える。

 ラガーディア空港から、ちょうど1時間。バッファロー・ナイアガラ国際空港に到着予定だ。小型機のためか、かなり揺れている。着陸体制に入る。急降下のために耳が痛い。なんと機体が20度位に傾いている。着陸と言うよりも、落ちていると言った方がいい。左の耳に激痛がはしる。「痛い!」鼓膜が割れそうだ。左耳の下の当たりまで痛みだした。ツバを飲み込んだり、アゴを動かしたりしたが、まったく効き目がない。左手で耳を強く押さえる。早く着陸してくれないかと祈りたい心境だ。

 とにかく痛い。

 横目で隣の人を見る。なんとなく平気そうな顔をしている。左耳ばかりが痛い。右の耳は平気だ。そう言えば、左の耳は以前中耳炎になったことがある。そのためだろうか。とにかく痛い。イャーウィスパーの上からもう一度強く押さえる。窓から町並みが見えてきた。もう少しだ。

「早く早く、頼むから早く着陸してくれ」

 唇を強く噛む。何かをしないと我慢できない。ドゴンと強い衝撃がある。タッチダウン。まだ左耳は痛い。ジンジンする。皆はすでに降りる準備を始めた。僕も、とにかく降りなければならない。頭までボーッとしている。とにかく助かった。

 雪は、30cmくらいだろうか。思ったより少ない。機上からのイメージでは、もっとあるように感じた。家々の色は、白色やクリーム色。そして煉瓦色。こんなカラーが多い。形は、絵葉書に良く出てくるような独特の三角屋根が続く。その屋根には暖炉の煙突が良く似合う。これならサンタクロースがいてもおかしくない世界である。この異国の感じがいい。思わずニヤリとしてしまう。

 気温は、摂氏マイナス8度。例年は、マイナス18度くらいあるらしい。マイナス18度を経験したことのない僕は、考えただけで寒くなってしまう。空港からは、バスで約1時間。先ずは、(株)ビックジャック ガイド担当のNさんのはなしを聞くことにしょう。NYのバッファロー大学と日本の石川県は姉妹都市とのこと。なんでも、医学に強いとのことである。 良くわからないが、日本と良い関係にあることは素晴らしいことだ。

 また、日本で御馴染みの「メンソレータム」の本社がここにあることも親近感を覚える。高速道路をひたはしる。道路の回りにはなぜか高さ2mくらいの金網が張り巡らされている。Nさんのガイドによると、小動物が高速道路にでて怪我をしないように考えてあるとのこと。さらに、小動物が道路を渡れるように所々にトンネルを掘ってあるとのこと。なるほど、いろいろ考えてあるものだ。さらに感心したのは、Nさんのガイドぶり。「動物達が道路を渡れるようにとか怪我をしないように・・・」との説明が嬉しい。僕なら、「動物が出てきて車の邪魔になったり、事故になったりしないように・・・」と考えてしまっただろう。恥ずかしき考えであった。

 バスが左折する。遠く、前方には、ナイアガラの滝しぶきが見える。「あれか・・・」あの向こうにナイアガラの滝があるのだ。なんだかドキドキしてきた。
 ナイアガラの滝。写真で見たことがある景色のうち、一番想像できない風景だと思う。あまりにも有名。そして、異国の遠い存在でもあった。Nさんがもうすぐ国境だと知らせる。そう、ナイアガラの滝は、カナダにあるのだった。バスで国境を越える。もちろん始めてのことだ。日本ではせいぜい「県境」である。

 昔はともかく、今の日本では、何も気にすることはなくごく当たり前に「県」を行き来できる。空港での出国手続きはあれこれと書類の手続きで面倒臭い。また、外国人も多いために「あぁ、これから外国に行くのだなぁ」という雰囲気がある。
 バスでの越境は、どんなものだろうか。いつか戦争映画で見たように、電車の踏切に在るような遮断機があり、こわそうな警察官が銃をわきに抱えているのだろうか。僕は、ウエストバックの中にパスポートがあることを何度も確認した。

 バスが検問所に近付く。ちょうど、日本の高速道路の料金所みたいな感じである。バスが止まる。ぞろぞろとNさんの後に続く。僕はしっかりとパスポートを抱えている。緊張しているのは僕だけであろうか。

 バスのステップを降りる。寒い。天気は良いが寒い。何度くらいあるのだろうか。故郷の新潟県の寒さの比ではない。皆の後に続く。ドキドキしている。右手と右足が一緒に前に出ているのではないかと思うくらいだ。検問所では、3人の検察官がいて、皆は3列に並んでいた。僕は、一番優しそうな担当者がいる左側に並んだ。隣の検察官は、パスポートの写真と、Mさんとをじろじろ見ている。あまりいい雰囲気ではない。僕の番だ。真顔で検察官の前に立つ。彼は、一、二度パスポートの写真と僕の顔とを見比べる。目が真剣だ・・・・・「OK」。入国の印をバン!と押してくれた。「welcome to Canada」とも言ってくれた。僕は、ほっとして「Thank you」と、うなずく。ドアを押して外へ出た。

 さぁカナダだ。いまカナダにいる。日の光が眩しい。深呼吸をひとつ。気持ちがいい。次はナイアガラの滝だ。バスに乗る足取りが軽い。チャッカリしている、現金なもんだ。手が「かぢかむ」ような寒さの中で、パシャパシャとシャッターをきる。ナイアガラの滝を撮るために、日本から「パノラマカメラ」を持ってきた。首からは、スタンダードカメラ、右手にパノラマカメラと忙しい。お上りさんと呼ばれようが構わない。ここぞとばかりに僕はシャッターをきった。

 回りの皆もお互いに撮りっこをしている。そんな光景がおかしくもあり、また安心する。その昔、マリリン・モンローが映画ロケで使用したという建物がある。要するに、滝を見るための休憩所だ。フランス映画の避暑地の場面にでも出てきそうな石でてきた建物だ。高さは5mくらいある。4か所に支柱があり、その上には三角屋根がチョンとのっている。なんの変哲もない建物だが、マリリン・モンローと聞いては、日本人として黙ってはいられない。この建物をバックに1枚。「パシャリ」と記念撮影をする。

 青空が綺麗だ。空気が澄んでいる。日の光が眩しい。雪の反射がさらに目を刺激する。こんな景色をどこかで見たような気がする・・・そう、新潟だ。故郷の新潟県の津南町が同じ風景なんだ。冬のある日。家の居間に寝転びながら空を見上げる。桐の木がある。空はどこまでも青い。雪で日の光がキラキラと輝いている。何も考えない時間。白い雲が動くのをぼんやり見ている。家の中では石油ストーブがヤカンをチンチンと鳴らす。おふくろが晩飯のしたくをしているらしい。障子の向こうでトントンとまな板の音がする。プーンと味噌が香る。僕の腹がグーッとなる。今夜は、僕の好きなジャガイモの味噌汁だろうか。雪がちらついて来た。
春はまだ遠い・・・

 異国カナダではあるが、故郷の津南町とダブってしまう。なぜだろう・・・・
「大島さーん、集合だよー」だれかの声がする。しかたがない、僕はバスに向かって雪道を歩き始めた。昼食は、カナダのキングサーモンのステーキ。隣には、関西支社の偉い人。「これは、うまいでんなー」「やわらこうて、ごっつううまいでー」本当に旨そうにキングサーモンにかぶりついている。見ていても気持ちがいい。僕は、妙に親近感を持った。

 それ!僕も負けじとナイフを取った。「旨い」さすがに「旨い」サーモンも軟らかく、さらに塩味もちょうどいい。付け合わせの野菜も旨い。だいたい、外国の野菜は、大味で僕はあまり好きではない。しかし、サーモンの塩味、更にボリュームも手伝ってか野菜が妙に旨い。

 ナイフを休めて、外を見る。カナダ滝が美しい。実は、ナイアガラの滝は二つある。一つは、アメリカに近いアメリカ滝。横一直線の形をした滝だ。もう一つは、カナダ滝。円弧の形をした滝でTV、写真で御馴染みの滝である。僕達は、このカナダ滝の近くにある展望レストランで昼食をとっている。

 「滝」というと、川の水が高いところから落ちているところを想像する。高さは何十メートルで、幅はせいぜい数メートルであろう。しかし、ナイアガラの滝は、その比ではない。海がそのまま落ちていると言ったほうがいい。スケールが違うのだ。水もゆったりと落ちているようにも見える。それだけに大きい。食事の前に滝の近くまでいってみた。

 ズドドーン・・・・

 爆風とも、地響きともいえる振動が足元から伝わってくる。自然の猛威に呆然となる。もはや滝ではない。やはり海が落ちているとしか思えない。

 凄い。

 滝の水飛沫が展望台のそこまであがっているようにさえ見える。素晴らしい眺めだ。自分一人で見ているのが勿体ない。やはり、家族、そして両親と一緒にこの素晴らしさを味わいたかった。(こう考えるのは年をとったのだろうか。まぁ、いいさ。)ナイアガラの滝からの帰り道に、映画館に寄った。いわゆる「ナイアガラの滝」のコマーシャルフィルムを見せるところである。

 滝のスケールも凄いが、映画館も負けてはいない。通常の4倍はあるスクリーン。これとばかりに前の席に座ったのは言うまでもない。隣には、しっかりとSさんが座る。こんなところで気が合うSさんを、僕は好きだ。
 映画は30分程度で終わった。出口の近くでは同じ内容のビデオが売っていた。物好きな僕は「買っちゃおうかな」と思い、手にとって見ていると、後ろからSさんの声があった。「ここまできて、ビデオ買うことはないよなぁ」僕は、ただ見ているふりをして、そそくさと外へ出た。
 こんな一言が多い白取さんを僕は嫌いだ。帰国後、「ナイアガラの滝」の話しをするたびに女房に言われる。「ビデオでもあったら買ってくれば良かったのに・・」女房は、今でもビデオを買いそびれたことを知らない。そして、僕は今でも後悔している。「あのSの野郎・・・」

 バスは、帰路につく。朝から飛行機の移動で少し疲れた。自然の素晴らしさの余韻とバスの揺れが睡魔をさそう。半開きの目に、地平線が写る。「あぁ、ここはアメリカなんだ・・・」バッファロー・ナイアガラ国際空港まで約1時間。
 地平線は闇となった。

がんになってから、「お布施をすると気持ちが変わる」ことに気がつきました。現在「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」に毎月定額寄付をしています。いただいたサポートは、この寄付に充当させて頂きます。サポートよろしくお願い致します。