見出し画像

ディズニープラス『SHOGUN 将軍』 真田広之「海外の人に誤解されないよう、より正統派な作品を作ることが重要だった」

これは歴史に残る作品と言ってもいいかもしれない。ハリウッドが日本の戦国時代のスペクタクル大作を誕生させた。しかもわれわれ日本人が観ても、満足できる映像とストーリーで。徳川家康にインスパイアされた武将・吉井虎永を主人公に、1975年に発表された、イギリスの作家ジェームズ・クラベルの小説『将軍』は、1980年に一度ドラマ化。そこから時を経て、満を持してディズニーが持つ製作会社の一つ『FX」によりドラマシリーズ化されたのが『SHOGUN 将軍』だ。

今回その仕上がりに日本人が納得する理由は何か? それはこの人が中心となって関わっているからだろう。プロデューサーを務め、自ら虎永を演じた真田広之だ。現在アメリカを拠点とする彼は、最近も『ジョン・ウィック:コンセクエンス』など話題作への出演が途切れない。そんな真田にとっても、本作はハリウッドでの初主演作という記念すべき一作。プロデューサーおよび俳優として、この『SHOGUN 将軍』にかけた熱い思いを聞いた。

ーーこの『SHOGUN 将軍』に関わった経緯から聞かせてください。

以前にも仕事をしたことがあるプロデューサーから、“虎永役を演じてほしい”と、俳優としてのオファーをいただいたのが、すべてのはじまりです。自分で演じる意味を考えたとき、虎永のモデルである家康公は僕にとってもヒーローで、戦乱の世を収め、200年以上の平和な時代を築いた彼の偉業を、今まさに伝えるべきだと感じました。その後、2〜3年の空白期間があり、ジャスティン・マークス、レイチェル・コンドウ(今回の『SHOGUN 将軍』のエグゼクティブプロデューサー)という2人から“正統派の戦国ドラマを作りたいのでプロデューサーもやってほしい”と依頼がありました。そこで僕は、長きにわたって願っていた、日本人が観てもおかしくない日本を描く最高のチャンスだと確信しました。

ーー日本人が観てもおかしくない作品にするために、プロデューサーとしてどんな役割を担ったのですか?

最初に条件として出したのが、日本の時代劇を経験したクルーを雇うことです。各パートにスペシャリストを適材適所で配置するうえで、30〜40年前に仕事をした人に声をかけたりもしました。キャスティングも最終的に絞られた人を確認し、日本人俳優の経験から意見を言いました。日本でも時代劇は多様化していますが、そうしたトレンドに乗るのではなく、かと言って西洋化するわけではなく、世界の人々が観たがっている“本物”を追求したのです。ウエストナイズ(西洋化)されない、モダナイズ(現代化)されない、そして流行を追わない。時代劇の王道が世界に通じることを信じ、舞台となる1600年の日本を検証することから遡って、作品に取り組んだわけです。

ーーこの『SHOGUN 将軍』は、カナダで日本の時代劇を撮るという画期的なチャレンジになりました。

現在の日本では、時代劇のロケーションを探すのはじつに困難です。どこでもビルや電線などが映り込むからです。バンクーバーではスタジオからクルマで30分も行けば、森林や川、海岸など自然のままの原風景が残っています。むしろ日本の戦国時代の風景を撮りやすいと感じました。そしてセットには日本のアドバイザーが参加していますから、そちらも万全。この作品の撮影にカナダが最適だったことは、僕にとっても嬉しい驚きでした。

ーー撮影がはじまってからも、プロデューサーとしての仕事が多かったのでは?

現場に入ってからは、衣装や小道具をすべて倉庫でチェックして、俳優部には所作や殺陣の稽古をしてもらうのが僕の役割です。撮影日には朝イチで現場に行き、セットを確認できたら監督を呼び、リハーサルがはじまります。演技面では“時代劇あるある”を避けることも大切でした。あまりに型にはまった芝居は、世界的には通用しづらかったりしますから。リハーサルで動きなどアドバイスを終えると、僕はトレーラーに戻り、衣装やカツラを着けるわけです。そこでようやく本番ですね。

ーー殺陣に関しても、真田さんの培った経験が生かされているのですよね。

『ラスト サムライ』のスタントコーディネーターや、日本からは3人ほど振付もできるスペシャリストを呼び、チームを作りました。その結果、キャラクターやシチュエーションに合った動きを作ることができたのです。抜刀から納刀、視線まで、エキストラも含めてすべての出演者を手取り足取り指導しました。注意したのは、殺陣のシーンが“ショータイム”にならないこと。ドラマの延長でアクションが起こりはじめるのが理想ですから。僕は現場でもつねにカメラの横にいて、そこに注意を払っていました。

ーー俳優として虎永役にどのように向き合いましたか?

ミステリアスで策略家、パワフルかつポーカーフェイスでありながら、弱い面も持ち、家族や部下を思う……。そんな“人間・虎永”を表現したいと思いました。これは他のキャラクターも同じですが、ステレオタイプやパターンに陥らず、人間にフォーカスすることが、本作の重要な部分です。僕はプロデューサーとしての仕事もこなしてきたので、カメラの前に立って演技をする時間は“ご褒美”のような感覚でした。また、長い期間、本作に関わったことで、虎永の作品における役割を理解できていたので、安心して役に没頭できた気がします。余計なことをせずに、キャラクターとしてそこにいればいい。これはプロデューサーもやったからこそ、たどりついた“無我の境地”でしょうか。いつも以上に演じることの楽しさ、大切さを再認識できました。

ーー1980年代の最初のドラマ化では、虎永役を世界的にも有名な三船敏郎が演じました。一人の俳優として、彼の偉大な業績をこの作品で受け継ごうと思ったのでは?

三船さんは海外で活躍しながら、その後、日本に戻ったので、もっと(海外で)続けていたらどうなっていたかと思いを馳せます。もちろん僕にも、三船さんから受け継いだ“財産”はあるでしょう。そこに僕も何かをプラスして、後輩につなぎたい。そんな年齢にもなってきているとは感じました。

ーー『SHOGUN 将軍』では、日本に漂着した英国人のジョン(按針)がキーパーソンになります。演じているのはコズモ・ジャーヴィス。この状況は、日本からハリウッドに渡って活躍の場を広げた真田さんを思い起こさせます。

たしかに単身、このプロジェクトに役者としてとびこんで来たコズモに対しては、かつての僕の立場に置き換えることができるでしょう。僕の過去の経験から、彼に何が必要か、どうケアすべきか気を遣いました。

ーーこの物語、また虎永のセリフには、現在も戦争が続く世界へのメッセージも込められているようです。

脚本家が書いたものとはいえ、僕がセリフを発する際は、心からそう感じて語っています。そもそもこの役を引き受けたのも、モデルとなったのが平和の世を築いた家康公だったからで、今こそ平和へのメッセージが必要であると信じています。観た人の何人かでもそのメッセージを受け取り、実生活に役立ててくれる。そんな作品の力を信じています。また、『SHOGUN 将軍』はハリウッドと日本人のクルーがおたがいの壁を乗り越え、尊重し合い、学び合って作り上げたモデルケースで、ストーリーと製作状況を重ねることで、世界へのメッセージになるのではないでしょうか。異文化を描く時は、スペシャリストをスタッフとして招き入れる。そういう画期的な時代になったとも言えます。1950年のドラマが人気を集めた時は、アメリカでも“スシバー”がブームになり、日本文化も広まりました。その意味でも、今回は海外の人に誤解されないよう、よりオーセンティック(正統派)な作品を作ることが重要だったのです。時代が変わったからこそ、原点に立ち返ることが大切だと痛感していたのです。

ーー長年取り組んだ壮大なプロジェクトを終えて、率直にどんな気分ですか。

すでに半分、自分の手を離れ、作品の船出を見送る立場ですので一抹の寂しさはありますね。やれるだけのことをやった充実感と、さまざまな批評を次の作品に生かしたいという思いがあるので、とくに日本の人の反応が楽しみです。アメリカでの批評は期待以上で、少なくとも目指してきたことに間違いなかったという達成感に包まれています。

ーー本作はディズニープラスで全世界同時配信されます。

世界配信だからこそ、これだけのスケールを再現する製作費が実現できたのだと思います。配信によって多くの人に観てもらえる時代ですから、そこで時代劇の新たなファンが増えれば、今度は劇場公開の時代劇も……と、裾野を広げてくれるのではないでしょうか。

ーー今後の真田さんの目標を聞かせてください。

俳優としてシンプルに仕事を積み重ねていくだけです。違う方向へ行こうとか、大きくジャンプしようとかではなく、この年齢だからこそ演じられる役があるわけで、そうした年齢の役は僕にとって“デビュー戦”だと思って取り組みます。今回、プロデューサーの喜び、大切さを味わったので今後も日本の題材や人材、美学を橋渡しする役割ができたらいいですね。もともと僕は、お金のために仕事をしている感覚はなく、物作りが大好き。いいものを世に届け、そのリアクションをエネルギーにしているんです。

ーーでは最後に、これから『SHOGUN 将軍』を観る日本の人たちにメッセージを。

東西(日本とハリウッド)のスタッフ・キャストが一丸となって作り上げた作品なので、その熱い思いを受け取めながら10話まで観ていただき、何かを感じ取ってもらえたらと思います。

『SHOGUN 将軍』
2月27日からディズニープラスで独占配信。全10話。初回は2話配信、その後は毎週1話ずつ新エピソードを更新。
原作/ジェームズ・クラヴェル プロデューサー・出演/真田広之 出演/コスモ・ジャーヴィス、アンナ・サワイ、浅野忠信、西岡徳馬、平岳大、二階堂ふみ

【Profile】真田広之(さなだ・ひろゆき)/1960年10月12日生まれ。5歳で子役デビューし、数多くのTVドラマ、映画に出演。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた山田洋次『たそがれ清兵衛』(2002年)を経て、『ラスト サムライ』(2003年)で海外作品へ。以降、『PROMISE プロミス』(2005年)、『上海の伯爵夫人』(2006年)に続き、『ラッシュアワー3』(2007年) 、『ブレット・ トレイン』(2022年)、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年)などに出演。


ご興味あれば、ぜひサポートのほどよろしくお願いします。今後の記事制作に役立たせていただきます。