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だって、それしか選択肢がなかったから

今までずっと、いわゆる「普通」の人生を送ってきました。四年制の大学を卒業後、新卒採用で一般企業に総合職で就職。何年か働いてお金を貯めたらワーホリかなにかに行って転職しようかななんてふわふわと呑気に考えていました。正直、仕事は趣味を充実させるための手段でもあって、なおかつそこそこのやりがいがあればいい。そこそこの人生でいい。

が、社会人2年目で私は「普通」で「そこそこ」のレールを外れることになるのです。突然。それがいまから15年ほど前のことです。

突然の発病。24時間とまらない吐き気、突然起こるめまい。少しずつ少しずつ会社に通うのが難しくなっていきました。症状をかかえながら、満員電車にも怖くて乗れなくなっていきました。

それでも仕事だけはやめたくなかった。

朝5時前に起き、最寄駅始発の電車に乗り、何度も途中下車をしながら、めまいでまっすぐ歩けないためにホームから落ちそうになるので人の波がなくなってから手すりにつかまり長いホームや地下道を歩く。そんな状態でしばらく会社に通っていましたが、3年目で限界がきました。その後休職。休職期間満了までお休みしましたが病状は悪くなるばかりで結局退職しました。

今思うと「この仕事をやめたくない」というのではなく、「会社員でなくなるのが怖かった」んだなと思います。レールを外れるのが怖かったのだと思います。

それから病院と家とたまーに外の生活が10年間。この時に社会との関わりは断たれました。様々な身体症状に翻弄される身体で、毎日の生活を送ることで精一杯で、この頃連絡をくれようとしたり、会おうとしてくれた友人たちには申し訳ないことをしたなと今になっても思うし、もっと周りに甘えて身体のことを正直に話せば良かったなとも思います。

引きこもってた10年以上の間、仕事をしたいという気持ちはずっと持ち続けていました。周りの友人は着々とキャリアを積んでいくことに焦りもあって、とにかく仕事がしたかった。でも何がしたいかはわからなかったので、ただただ元のレールに戻りたかったんだろうなと思います。

職歴もないスキルもない私が在宅でできるような仕事もなく、世界はどんどん狭くなって行くばかり。

そんな中で見つけたのが、分身ロボットOriHimeを使ってカフェで働くというテレワークでした。
分身ロボットとは、文字通り私の分身になってくれるロボット。そのロボットを家から遠隔操作してカフェでコーヒーを運んだり、接客のお仕事をするのです。

正直、外出が困難でも仕事ができるのであればなんでもよかったんです。たまたま見つけたのがその仕事だった。そして、病気の影響で外に出られない、何のスキルもない私でも選べる仕事の選択肢がそれしかなかったんです。

でも、どうしても捨てきれなかった「仕事をしたい」という希望は叶いました。いわゆる普通のレールからは随分外れた、しかも舗装されていない道を歩くような仕事ですが、働けるだけで満たされる気持ちがあります。社会に組み込まれて働けるだけで幸せなのです。

すべてが先行事例でロールモデルといわれる仕事を初めてもう4年目。「これからどうしていきたいの?」「目標はなに?」と聞かれることもありますが、相も変わらずふわふわとしていて、かっこいい言葉も考えもが浮かびません。でもそれでいいのかなと思ったりもします。

今、私の身体は相変わらず不安定でままならなくて、そんな身体を抱えながら体調を崩さず一日一日を積み重ねて少しでも長く働ければいい。それを見て、体調が不安定でも働けるよということが誰かに伝わればもっといい。そして、スキルがなくても外に出られなくても働ける選択肢が増えていくといいなと思いながら仕事をしています。

かつての私は選択肢がなかったからこの仕事を選んだけれど、理由や目的があとからついてくることもあるんだなとこの頃は思うのです。だから、というわけでもないけれど「とにかく働きたい」「お金を稼ぎたい」という理由でお仕事を選んでもいいし、お仕事をしたい理由はいくつあっても、変わっても、なくてもいいのかなと思っています。理由や目的が自分の可能性を狭くしてしまうこともあるのかなって。

いまでも、普通に働いてOLをして、病気にならなくて、こんな体になってしまったあとの気持ちなんて知らないほうが良かったなぁ、前職で仕事を選んだ理由をかっこよく言い切ってリクナビ(いまもあるのかな?)に載った時の自分でいられたらなぁと思ったりもします。
が、身体も人生もグレーゾーンの揺らぎの中で生きていかなきゃならなくなったので、身を任せて巻き込まれながら、これからも目の前のお仕事ひとつひとつにちゃんと向き合って、その時々で結果として、働いている理由になるような気持ちがついてくるといいななんて思っています。

#この仕事を選んだわけ

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