「君の名前で僕を呼んで」と少し「残酷な神が支配する」
「君の名前で僕を呼んで」を読んだ感想である。【ネタバレ注意】
エモい。
初っ端からエモすぎる・・・。読み進められないと思うほどしんどいエモさ。映画は英語だったけど2年前に機内で見て内容は知ってる。それなのにこの興奮。二人の行方が気になる感覚は何なんだ!主人公エリオの一人称で常に描かれる彼の感情があまりにも直接的だからか。
まず映画でティモシー・シャラメを見たとき、萩尾望都の「残酷な神が支配する」(以下残神)のジェルミそっくりではないか!!と思ったものだった。でも今回原作小説を読んで、え?これって萩尾望都が書いた小説??セリフも描写も萩尾望都の世界観そのものでは?いや、むしろ残神のファンフィクションじゃないのか?エリオはもちろんジェルミだし、クラシックや哲学とか高尚な話をする明るくてハンサムで眩しいほどの存在オリヴァーはイアンそのものじゃないか!まるでジェルミを性的虐待したグレッグなんて居なくて、ただ二人がイタリアの避暑地で出会ったらとファンが妄想して書いたような小説ではないか!!そう思うと残神で愛することがわからなくなってイアンを愛することを拒否して恐れたジェルミが本当に素直になった姿を見てるようで嬉しくもなってくる。
この小説はなんでこんなにエモいのか。特に表現として何度もエリオが心のなかで自分自身に、そしてオリヴァーに問いかける描写、嘆願する描写の多用がエモさに拍車をかける。
「僕を好きにして。奪って。いいのかと僕に訊いて、返事を確かめて。僕にノーと言わせないで。」「僕はオリヴァーみたいになりたいのか?彼になりたいのか?それとも彼を自分のものにしたいのか?」「オリヴァー、僕と君はいつ引き離されてしまったの?僕たちは本来ひとつの存在であることに、どうして僕は気づき、君は気づかなかったの?」
こういう文章の連続。エリオの感情の海にのまれて、苦しいほどの追体験をする。若さゆえかあまりにも無防備な恋心。こんな熱情を抱えるのはしんどすぎる。でもなんかわかるのである。その苦しさは少しは知っているのだ。はぁ・・・過去味わった苦しい恋愛の経験も、素晴らしい小説の理解や共感に出会えるためだったのかと思えば浮かばれるというものか。
そしてこの小説はとにかくタイトルが大きな意味を持つように思う。君の名前で僕を呼ぶとはどういうことか。「ふたりの体が互いに溶け合ってどちらがどちらかわからなくなる」とエリオは言うけどなぜその感覚を持つのか。この二人が初めて結ばれるところを読んだとき、残神のある描写を思い出した。ジェルミが友人ウィリアムに愛とは何かを問うところ。ウィリアムは答える。「(愛は)攻撃性も支配欲も天国の熱にすっかり溶解してしまう・・・生きててよかったって気分になるよ。」「愛は溶解する?」「錬金術のように」この会話がエリオとオリヴァーへの理解の助けになるような気がする。でも僕は君で君は僕って男性同士だから成り立つ感覚ではなかろうか。だって男女だと違いすぎてあなたは私なんて思えそうにない。同性同士だから味わえる感覚をタイトルにしたと言えるのかもしれない。
映画では描かれていない夏が終わったその後の二人。15年後にエリオがオリヴァーに会いに行く描写にはドキドキさせられた。エリオにとってはひと夏の恋じゃなかったことがよくわかる。しんどい。オリヴァーは結婚して子供がいてもあの夏をずっと忘れていないことはわかったけど、エリオは結婚してないし相手への思いはエリオの方が強いのでは?それは一人称だからそう思わされてしんどいのか?でもあの夏も実は思いの外オリヴァーはエリオが好きだったじゃないか。エリオが言うようにオリヴァーがエリオ以上にエリオ自身であったなら、もしかしたらオリヴァーも同じ気持ちなのかもしれない。だってもともと「君の名前で僕を呼んで」と言ったのはオリヴァーからではないか!最後のエリオの嘆願が成就するかもしれない。そう願う。
最後を読んで残神のイアンとジェルミもなんだか同じ結末を迎えそうだなと思った。イアンは普通に結婚して子供も生まれる、けどジェルミは一人でいる。お互いそれぞれ生活しつつ、熱情は抱え続けて生きていく。イアンとジェルミが12月の冬の祭典を思うなら、オリヴァーとエリオは8月のあの夏を思い続ける。やっぱり重なるんだよなぁ。これ本当に萩尾望都が書いたんじゃないの??アンドレ・アシマンは萩尾望都って知らないかな?漫画送りつけようかな??
とにかく素晴らしい小説だった。ちょうど夏に読めて良かった。去年ローマに行ったとき、イタリア通の取引先におすすめされたカフェがエリオとオリヴァーが行ったサンテウスターキオなのも運命を感じてよかった。しかも続編が発売されたタイミングだからまだ楽しみも残ってる。またこんなに気持ちをかき乱されて没入させられてほしいけど、どうだろうか。楽しみだ。
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