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ドイツ鋼鉄奮闘記(8)

日独ヘヴィメタル活動比較2

 少し前に、日独ヘヴィメタル活動比較1で、声量に関する思いこみについて書きましたよね。今日は、声量以外のことで、前回書き忘れたことを少し追加しますね。結局、「ブレない"自分らしさ"を常に心に持ち続けることが大切ではないか」って結論は同じなんですけど……(笑)。

 ドイツへ渡る前(90年代半ば〜2000年頃)ですが、私は日本でバンド活動をしていました。で、当時はヘヴィメタル・バンドに女性メンバーがいるのは本当に珍しい時代だったんですよね。お陰で「ヘヴィメタルは男が歌うもの、女ボーカルはダメ」という言葉を何度も耳にしたし、メンバー募集でも「女性不可」の文字を何度も何度も目にしました。だから、当時の私はどうやったら男っぽく聞こえるか、結構追求してたんです(あくびの状態を維持するというか、咽頭や鼻腔をめっちゃ広くキープしたまま歌うと、女性でも、ある程度は男っぽく聞こえます)。とにかく、女だけど"男っぽく"歌う癖がついていた私、女っぽく歌おうなんて考えたことはありませんでした。

 ですが、2002年にドイツに移住し、翌年、初めてのレコーディングをした時のこと。プロデューサーのラーズ・ラッツからダメ出しが何度か出ました。
 理由は……
 「ここの出だしはもっと女っぽく歌って欲しいな。”女戦士”の雰囲気を出したいから、女の色気が欲しいんだ。可愛い声から始まって、そこからパワーを徐々に上げて、最後はいかつく、ある意味、豹変して雄々しくシャウト。」
 え〜、何その難しい要求!そう思いながらチャレンジし、無事にOKが出たのがこちらのデュエットです(▼ 色気出してって言われたのは、2:35の辺り)。

 とにかくこの時、初めて「女らしく歌え」って言われて、結構驚いた私です(それから数年後、海外でも日本でも、女性ボーカルのメタル・バンドが多数デビューして、一時期ブームにもなりました。だから、今の時代ならメタルバンドで「女らしく歌って」って言われても誰も驚かないと思うのですが、でも、でもね、当時の私は「ザ・男社会」みたいなパワーメタル系音楽の世界で”女らしさ”を求められるとは想像してなかったのです)。

 そして、当時、ボイストレーナーをしてくれていたヘニング・バッセ(メタリウム、ファイアーウィンド etc.)にも次のように言われました。
 「サエコ、無理に太い声を作ろうとしてない?もっと素直に出してごらん。後ろに行き過ぎてる声の響きを、もっと前に持ってきて……」
 彼のアドバイスに従うと確かに喉の負担が軽減されました(そりゃ、必要でもないのに、あくび状態をずっと維持するのは結構きついですもんね😅)。その結果、私の口から出てきたのは以前より女性らしい声だったのです。
 私自身は最初にその声を聴いた時、自分の好きな男性シンガー達の声から離れてしまった気がして、違和感を感じました。でも、その声を聞いたプロデューサー曰く、
 「うん、今の声の方がいい!ヘニングは良い仕事をしてくれたね!」
 やがて、その声を聴き慣れるにつれ、私も理解しました。これが私の本当の声だったんだって!

 しばらくして、日本時代の音楽仲間からも、言われました。
 「歌い方変わったよな。前より音程が安定して、聞いてて安心感あるわ〜。」

 “欧米人に負けないように”や、“男性に負けないように”では、結局その相手を超えられないし、他の誰かに囚われている限り、本当の自分らしさにたどり着けない。大切なのは誰かの声と比べるのではなく、自分の声をありのままに、自分にしかできないやり方で最大限に活かしてやることなんだって、そう気付かされました。

 ま、でも、私も頑固者だから、日本での活動時代に誰かにそう指摘されても、「いや、私が正しいねん!」で通してしまったかもしれません。ドイツに渡り、憧れのヴァッケン・オープン・エアの最大ステージに何度も立っている人たちの指摘だったからこそ(そして、ヘニングも実際に目の前で歌って貰うの聞いたらわかると思うけど、本当にめっちゃ歌上手いから!音圧が違うし!)、彼らの指摘だからこそ素直に従ったのかもしれません。そう言う意味でも、自分にとって「神レベル」の人たちと仕事をすると、やっぱり色々な気づきがありますよ。

おまけ

 そして、18年後の現在(正確には先月やけど)、またドイツでレコーディング&ミキシングしてました。オブスキュラのプロデューサーとしても知られる V. サンチューラと一緒に仕事してたんですけど……やっぱ好きやわ〜、やっぱエエわ〜、ドイツのスタジオ作業。(あ、数年前にイタリアの有名プロデューサー、アレッサンドロ・デル・ヴェッキオと作業した時も、めちゃ楽しかったです!)
 とにかく、自分の知る範囲でのお話にはなりますが、いつか機会があったら「日独のスタジオ作業の比較」なんかもしてみたいと思う今日この頃です。

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