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「何を書くか」のために「何を訊くか」。インタビューの初歩の初歩~スポーツライティング講座 第1回講義の実況中継⑤

では、2人一組になってお互いをインタビューしたうえで、相手を紹介する原稿を書いてもらいます。そのテーマに沿ったインタビューをしてください。

(一人15分のインタビュー実習)

はい、終了です。では、元の席に戻ってください。

この実習でのチェックポイントです。
一つ目。今のインタビューの中で、取材相手の表情、身振りや手振りをメモできた人はいますか?

これは難しいですよね、いきなりできるようになりません。この講座で今後、インタビューをどんどん積み重ねていく中で、慣れていけば、少しずつできるようになると思います。全部をメモする必要はなくて、ポイントだけでいい。自分なりの記号を作ってもいいと思います。笑顔だったら、ニコちゃんマークとか。それを生かすと、原稿に臨場感が生まれます。

二つ目。相手のお名前について、正確な漢字はチェックしましたか? 相手の名前は絶対に間違えてはいけません。「高橋さん」なのか「髙橋さん」なのか、「山崎さん」なのか「山﨑さん」なのか、みたいな細かい部分も含めて、確認しましょう。

三つ目。時間管理。できた人? 急に「もう終わり?」ってなった人は?
急に終わってしまうのはまずいですね。
インタビュー時間のペース配分はやっていくうちにわかるようになります。どれくらいのことをどれくらいのペースで聞けば、何分かかるのかーー感覚でわかるようになってきます。ボクサーは体内時計で3分がわかるのですが、それと一緒。インタビュアーは15分のインタビューだとどれくらいか、なんとなくわかります。「あぁ、もう10分を越えているな」とか、「早く終わらなきゃ」という感じになる。30分なら30分、1時間なら1時間が、「これくらいかな」となんとなくわかるようになってきます。

先日、早稲田大学の新人選手4人をインタビューしてきました。僕以外に5社くらいの新聞記者さんが来られていて、選手一人ひとりをみんなで囲んで取材しました。マネジャーからは「一人15分から20分でお願いします」と言われたのですが、4人ともちゃんと20分プラス数10秒で終わりました。プロフィールの確認も含めて。それくらい、時間管理はできて当たり前です。

体内時計でわかるようになればいいのですが、それまでどうすればいいかというと、例えばレコーダーの時間で見る。腕時計やスマホをチラチラ見ると相手も集中できないし失礼なので、自分なりに把握する方法を見つけてください。

例えばプロ野球選手の取材だと、「15分」と限られることが多くて、10分を過ぎたら球団の広報さんが「もうそろそろですよ」という空気を出してくれる。どんなに盛り上がっていても15分で終わりということになります。欲をいうと、13分で終わって、残り2分は雑談できればいいですね。最後の雑談にこそ、面白い話があるかもしれない。そういうところの計算までできるようになっていってください。このあたりは、この講座のインタビューの回でも細かくやる予定です。

あとは、原稿の字数の確認。僕はあえて事前に言いませんでした。意地悪く、みなさんが訊くのを待っていたのですが……。

みなさんは、いったいどれくらいの原稿を書くつもりだったんですか? それをわからないまま、15分のインタビューをしているというのはちょっとマズいですよね。長い原稿を書くことになっていたら、15分の内容をほぼ全部使わないといけない。広く浅くでもいいので、相手からたくさんのエピソードや情報を聞き出して、それをすべて原稿に落とし込まないといけないわけです。仮に15分のインタビューで原稿用紙1枚分など短い原稿でいいのなら、核心に迫る一言さえあれば原稿が成り立つ。狭く、深く掘り下げる質問を重ねればいいことになります。

インタビューの前に、これから書く原稿がどれくらいの長さのものか、だいたいでいいのでわかっていたほうが、やりやすいと思います。もちろん、インタビューが先で、その内容次第で原稿の長さが決まることもあります。でも、編集部からの要望として「3000字程度」とか、「16字詰めで80行」という指定があらかじめあることの方が多いです。

あまり最終形が見えた中でインタビューしてしまうと、一問一答を当てはめるみたいな原稿になって「つまらないな」ということにもなる。ですが、与えられたインタビュー時間なりの訊き方、書くべき原稿の字数なりの訊き方もあるので。

今回、想定していたのは800字です。例えば僕が原稿を書いている『週刊ベースボール』は一行16字詰めの指定が多いんですけど、それだと50行。ちょっと短い原稿ですね。WEB媒体だと「3000字くらい書いて」と言われることが多いので、それに比べるとすごく短いです。

逆に短い方が難しい。取材したなかで、何を書けば伝わるのか。その難しさに気付いてほしいです。短ければ短いほど難易度は高い。

ちなみに、アナウンサーが原稿を読むのは1分300字くらい。15分のインタビューを単純に文字に起こすと、1500字くらいになりますよね。自分の質問もあるし、問いと答えの間の時間もあるので、正確にはそうなりませんが。

そこから800字ということは、あくまでイメージですが、訊いた話の半分くらいが文字になるのかな。だから、10個の質問をしたとしたら、3つとか5つはしなくていい質問だったかもしれない。
しなくてもいい質問だから、しないのか。それとも、あえてすることによって引き出せるものがあるのか。インタビューの時間と書く原稿の長さがわかっていれば、それがさじ加減でできます。何もわからないままでやってしまうと、たまたまインタビューの結果として得られたもので勝負するしかなくなってしまう。

今回はあえて意地悪して伝えなかったのですが、次回からは確認して、イメージを持ちつつ、そのイメージに縛られすぎない――そういうインタビューできるといいですね。

ちなみに、この原稿の締め切りは2月28日にします。締め切りを守らないということは、ライターを廃業することになるかもしれないということですから、その覚悟で。締め切りを守れない人はたくさんいますが、たった一回の失敗で信頼を無くすのがフリーランスの厳しさです。

28日の何時が締め切りか、ということも確認した方が無難です。今回は28日の23時59分にします。出版社や雑誌社の場合、原稿を見るのは翌日の昼なので、それまでにあればいい、例えば「28日が締め切り」と言えば、最悪は29日の午前中ならOKとなることがあるのですが、締め切りの日の翌朝でもいいのか、その日の夜の終電で帰るまでに送らなければいけないかは、確認するようにしましょう。そうしないと、後で「あ、間に合わなかった」となると、仕事がなくなってしまいます。

書いてもらった原稿については、講評と添削をします。では、みなさんの原稿を楽しみに待っています。

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