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【掌編】たとえ、グーで殴っても

好きな人がいる。
どうしようもないくらい好きな人がいる。

久し振りに会って、ふらりと二人で訪れたイタリアンのお店で、ピザを半分こしながら食べていた時のこと。
目の前で、美味しいね、と笑顔を見せる友人に、私はそうだねと微笑む。
彼女の左の薬指には、キラリと光る指輪。
その指輪を見てしまう度に、私の胸は締め付けられた。

好きな人がいる。どうしようもないくらいに。

少し年上の友人である彼女と知り合ってもう十年になる。
その十年の間に、彼女は結婚し、子供が生まれた。
幸せ、なのだろう。
彼女の顔を見ているとそれは眩しいくらいに滲み出ていた。

知り合って二年ほど経った時、私は彼女に告白をした。
「応えてあげられなくてごめんね」
それが彼女の返事だった。
不思議と涙は出なかった。わかっていた。
彼女には既に、お付き合いをしていた人がいて、もうすぐ結婚すると聞かされていたから。
それは最後の悪足掻きのようなものだった。

当時の私に何かできるなら、殴ってやりたい。
バカだった私を、グーで思いきり。
もっと、他にやり方があっただろうに。そう思って私は時々笑ってしまう。

「どうしたの? 何か思い出し笑い?」
彼女が私の顔を覗き込んで言う。
私は笑いながら言った。
「私さ、君に昔告白したじゃん」
当時となんにも変わらない私を、心の中でグーで殴った。
「あれさ、今も変わってないから」
彼女はきょとんとした顔をしてから、

「知ってるよ」

と笑った。
「何年友達やってると思ってるの。あなたは凄くわかりやすいから」
それからちょっとだけ真面目な顔になって、
「それで、ずっと苦しんできたの?」と訊いてきた。

好きな人がいる。苦しくて辛いくらいに。
だけど、今は。

私は首を横に振った。
「君に出会えて、好きになれて、幸せだよ。それが所謂叶わぬ恋って奴だとしても」

「強がりだね」と彼女は微笑んだ。
「本心ではあるよ」私は言った。

「君を思うだけで、幸せだし、強くなれる気がする」
たとえ自分をグーで殴っても、立ち上がれるくらいには。

あとがき

オチなんてなかった。
こういう理解者が……いたら……良かったのになあ(遠い目)
画像のグーパンチが可愛すぎてつい使ってしまいました。







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