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テラ・ステーブルコインは、なぜ脆弱だと言われるのか

2022年2月末、テラはLUNAのプライベートセールを実施し10億ドル調達しました。資金の使い道は、ビットコインを購入し、テラ・ステーブルコインの裏付け資産にするとのことです。

2021年急成長を遂げたテラは、ソラナやアバランチなどと共に注目される暗号資産プロジェクトの一つです。しかし、テラは仕組みが脆弱だと指摘されることがあります。ポンジースキームだ、自転車操業だとも言われます。

結論を先に言うと、ステーブルコインの価格が基準値より低くなると、最悪の場合、テラは崩壊するリスクがあります。今回追加したビットコイン建て裏付け資産については、十分足るものか別途検証が必要です。

この記事は、テラ・ステーブルコインの仕組みを紐解くことで、なぜテラの仕組みは脆弱だと言われるのか論点整理します。

I. テラとは?

テラは、韓国発のステーブルコインのプロジェクトで、メインネットは2019年4月に公開しました。Eコマースにおける暗号通貨ベースの決済環境の整備と普及を目指して、ブロックチェーンを活用したステーブルコインを開発しました。

テラは、ステーブルコインを発行するだけに留まらず、DeFi分野などのアプリケーションを開発し、テラのエコシステムは急成長しています。

テラは2種類の通貨を発行:ステーブルコインとネイティブ通貨

1)法定通貨と連動した「ステーブルコイン」
テラは、米ドルと連動したTerraUSD(UST)をはじめ、韓国ウォンと連動したTerraKRW(KRT)など十種類以上のステーブルコインを発行します。

なかでもTerraUSDは、人気があり、過去1年間は急激な成長を遂げました。現在、時価総額は約150億ドル、1年前から10倍以上増加しています。ステーブルコイン市場での時価総額ランキングは第4位、全体の10%弱を占めます。

2)ステーブルコインの価格を安定させる「ネイティブ通貨、LUNA」
テラは、ステーブルコインの他に、もう一つ別の種類の通貨を発行します。ネイティブ通貨のLUNA(ルナ)です。

2021年のLUNAの価格は急上昇し、2022年3月時点の価格は約90ドル、暗号資産全体での時価総額ランキングは第7位です。

LUNAは、テラ・ステーブルコインの価格を安定させるために重要な役割をします。またステーキングのために使用されるなど、ネットワーク運用のために使われます。

LUNAの役割は後ほど詳しく説明しますが、LUNAはテラ・ステーブルコインとは別物ということを覚えておいてください。

II. テラ・ステーブルコインの仕組み

ステーブルコインの価格の安定化を図る方法は、さまざまな形態を取り得ます。代表的な形態は、法定通貨担保型、暗号通貨担保型、アルゴリズミック 型(無担保)です。

テラ・ステーブルコインはアルゴリズミック型に含まれます。ただし現在は、ビットコイン建て裏付け資産も保有しているため、暗号通貨担保型とアルゴリズミック型の混合です。

アルゴリズミック型:供給量をコントロールして価格を安定化

アルゴリズミック型ステーブルコインは、法定通貨や暗号通貨を裏付け資産として保有せず、アルゴリズムにより価格の安定化を図ります。

具体的には、下記のように市場への供給量をコントロールすることによって価格を安定させます。

<ステーブルコインの価格が基準値よりも高い場合>
ステーブルコインを発行して市場全体の供給量を増やすことで、価格を押し下げます。

<ステーブルコインの価格が基準値よりも低い場合>
ステーブルコインを市場から購入して市場全体の供給量を減らすことで、価格を押し上げます。

市場の原理を利用:アービトラージャーの働きで成立

ここからは、テラが市場への供給量をどのようにコントロールするのかを説明します。説明にあたっては、前提条件 → 誰が? → どうやって?の順を追って、その仕組みを紐解いていきます。以下、米ドルと連動したTerraUSD(UST)を用いて説明します。

前提条件
テラ・ステーブルコインの仕組みには、前提条件があります。ステーブルコインの市場価格がいくらであっても、常に1USTは1ドル相当のLUNAと交換できるということです。

誰が?
次にポイントとなるのは、市場参加者です。すなわちアービトラージ(裁定取引)を狙うアービトラージャーです。

テラ・ステーブルコインの価格の安定化は、市場の原理を利用したものです。テラは利益を追求する市場参加者の働きゆえに成り立っています。

どうやって?
それでは、アービトラジャーの働きにより、テラ・ステーブルコインの市場価格が基準値へ戻っていく仕組みを説明します。
LUNAが、テラ・ステーブルコインの価格を安定させるために重要な役割を果たしていることがよく分かります。

<ステーブルコインの価格が基準値よりも高い場合>
例えば、USTの市場価格が1.1ドルと仮定します。

  1. アービトラージャーは、1ドル相当のLUNAを購入する。

  2. アービトラージャーは、テラのシステムにLUNAを持ち込む。

  3. テラ・システム内で起こっていること:テラはUSTを新規発行する。テラは受け取ったLUNAの一部はバーン、残りは開発資金などのためプール。

  4. アービトラジャーは、「前提条件:1UST=1ドル相当のLUNA」の通り、1USTを受け取る。

  5. アービトラジャーは、UST市場でUSTを市場価格1.1ドルで売る。よって、0.1ドルの利ざやが確定する。

  6. UST市場へUSTが放出されたことにより、市場全体のUST供給量が増え、その結果、USTの市場価格は下落し、基準値1UST=1ドルへ戻っていく。

<ステーブルコインの価格が基準値よりも低い場合>
例えば、USTの価格が0.9ドルと仮定します。

  1. アービトラージャーは、USTを市場価格0.9ドルで購入する。

  2. UST市場でUSTが購入されたことにより、市場全体のUST供給量が減り、その結果、USTの市場価格は上昇し、基準値1UST=1ドルへ戻っていく。

  3. アービトラージャーは、テラのシステムにUSTを持ち込む。

  4. テラ・システム内で起こっていること:テラはLUNAを新規発行し、受け取ったUSTはバーンする。

  5. アービトラジャーは、「前提条件:1UST=1ドル相当のLUNA」の通り、1ドル相当のLUNAを受け取る。

  6. アービトラジャーは、LUNA市場でLUNAを売り1ドル手に入れる。よって、0.1ドルの利ざやが確定する。

II章をまとめます。

  • テラ・ステーブルコインは、市場への供給量をコントロールすることによって価格を安定させるアルゴリズミック型である。

  • 市場の原理を利用したものであり、アービトラージャーの存在が欠かせない。

  • LUNAは、テラ・ステーブルコインの価格を安定させるために重要な役割を果たしている。

III. テラのからくり

テラの潜在的リスクを探るには、事業会社でいうところのビジネスモデルを理解する必要があります。どうやって儲けているのかということです。

テラのKFS:ステーブルコインの需要を高めること

テラ・ステーブルコインの仕組みで、「ステーブルコインの価格が基準値よりも高い場合」を深堀りしていきます。

はじめに「ステーブルコインの価格が基準値よりも高い場合」とは、すなわちステーブルコインの需要が高いということです。ー(1)

次に、価格を安定させる第1ステップは「1. アービトラージャーは、1ドル相当のLUNAを購入する。」でした。このときLUNA市場で起こっていることは、LUNAの買い注文が入ることで、LUNAの価格は上昇します。ー(2)

(1)と(2)より、テラ・ステーブルコインの仕組みとは、ステーブルコインの需要が高まるほど、LUNAの価格は上昇するということです。

テラは、これまでEコマース市場での決済環境を整備するのみに留まらず、DeFiアプリケーション(AnchorおよびMirror)を開発するなど、テラ・ステーブルコインの経済圏を拡大させてきました。

ステーブルコイン取引量拡大策の効果として、ステーブルコイン取引量は堅調に増加し、LUNAの価格も上昇しています(表1)。

(表1)Terra USDの時価総額とLUNAの市場価格

LUNAの価格上昇で儲かる仕組み、それはポンジースキーム?

話しはそれますが、テラのからくりから見えてくることがあります。テラはなぜポンジースキームだと言われるのかについて考えてみます。

ステーブルコインの価格を安定させる第3ステップは「3. テラはUSTを新規発行する。テラは受け取ったLUNAの一部はバーン、残りは開発資金などのためプール。」でした。

さて、残りは開発資金などのためにプールするとはどういう意味でしょうか?具体的なお金の使い道を第3者による監査報告などで示さない限り、開発者の懐にどんどん入り込んでいると疑うこともできます。

つまり、テラ・ステーブルコインの需要がある、あるいは需要が高まると見せかけることにより、LUNAの価格を釣り上げて、開発者が儲かる仕組みを作り出している。すなわちポンジースキームだ、ということなのでしょう。

III章のまとめ

  • テラの重要成功要因は、ステーブルコインの需要拡大である。よって、テラはステーブルコイン取引量拡大策を打ち続ける必要がある。

  • 同時にテラはステーブルコインの需要拡大を誇張し、LUNAの価格を釣り上げて開発者が儲かる仕組み、ゆえにポンジースキームだと疑われる。

次章は、本記事のメインテーマ、テラの仕組みのどこが脆弱なのか解明していきます。

IV. テラの潜在的リスク

テラの仕組みは、LUNAがステーブルコインの価格を安定させる重要な役割を果たしています。ただし、それはLUNAに価値があるからこそ成り立つ仕組みです。本章での説明にあたり、テラ・ステーブルコインの仕組みで「ステーブルコインの価格が基準値よりも低い場合」を深堀りしていきます。

USTが基準値よりも低いとき、リスクが顕在化する

II章で説明した通り、ステーブルコインの価格が基準値よりも低いとき、ステーブルコインの価格を安定させるため、LUNAが新規発行されます。アービトラージャーは利ざやを確定させるため、LUNAの市場でLUNAを売却します。その結果、LUNAの価格は下落します。

ここで、想定以上に市場でステーブルコインが売られたときが問題です。

下落圧力のかかるLUNA市場で、新規発行されるLUNAを買い支えるはずの市場参加者が、LUNA購入を見送るとLUNAの価格はどんどん下落します。

ここで重要なポイントは、市場参加者がLUNA購入を見送る理由です。その判断基準は何か?ということです。

USTの安定性は、LUNA時価総額で支えている

テラ・ステーブルコインの価格安定化は、LUNAと交換する仕組みによって保持されています。これは言い換えると、LUNAに価値があるからこそ成り立つ仕組みであり、すなわちLUNAを裏付け資産にしているとも言えます。

LUNAとUSTの時価総額を見てみましょう。現在2022年3月時点、双方ともに上位15位にランクインするまで急成長しています(表2)。

時価総額150億ドルのUSTは、約2倍相当の時価総額330億ドル分のLUNAの価値に支えられています。

(表2)

ここで一つ疑問が湧きます。
LUNA時価総額がUST時価総額を下回ったとき、どうなるのか?

テラ崩壊リスクは、LUNA時価総額<UST時価総額のとき

LUNA時価総額がUST時価総額を下回ったときとは、テラ・ステーブルコインの価格安定性が維持されていないという意味です。

テラ・ステーブルコインの価格の安定性が維持されなければ、テラ・ステーブルコインの需要は見込めません。ステーキングなどに使用するためLUNAを購入しようというインセンティブは湧きません。テラ・ステーブルコインの需要がなければ、LUNAの価格上昇は期待できません。価格上昇が見込めない通貨を購入する意味はありません。

つまり、新規発行されたルナを買い支えるはずの市場参加者が、テラ・ステーブルコインの需要はないと判断し、LUNA購入を見送るとLUNAは暴落します。アービトラージが成立せず、ステーブルコインは基準値から大きく下方へ乖離します。そして最悪の場合、テラは崩壊します。

IV章のまとめ

  • テラ・ステーブルコインの価格が基準値よりも低いとき、リスクが顕在化する。

  • テラ・ステーブルコインはLUNAの市場価値に支えられている。つまり、「LUNA時価総額>UST時価総額」の必要性が求められる。

  • すなわち「LUNA時価総額<UST時価総額」になると危険。最悪の場合、テラは崩壊するリスクがある。

V. 10億ドルビットコイン建て裏付け資産は十分か?

テラは今年の初めに10億ドルの資金調達を行い、資金の使い道をビットコイン建て裏付け資産にすると発表しました。要するに、LUNAが暴落した時に備えて、USTの価格安定化のバックアップとしてビットコイン建て裏付け資産を保有するということです。

時価総額約150億ドルのUSTに対し、ビットコイン建て裏付け資産は10億ドル、UST時価総額の約7%です。ビットコインの価格が上昇し、裏付け資産が増えると期待しているのかもしれませんが、10%に満たない裏付け資産は、いざという時の備えとして十分かどうかは検証余地があります。

テラの公式発表ではなくTwitterのみの情報ですが、これまでにビットコイン購入資金として合計で22億ドル調達し、そのうち8億ドル相当のビットコインを実際に購入したようです。短期的には30億ドル、長期的には100億ドルのビットコイン保有を目標にしています。

ところで、LUNAとUSTの時価総額を時系列で調べてみました(表3)。USTの時価総額は、昨年10月以降から急激に伸びています。一方、同時期のLUNAの時価総額は上がったり下がったりです。特に、12月中LUNAの時価総額は大幅に減っており、USTの時価総額に迫っていました。そのタイミングでビットコイン建て裏付け資産の追加決定をしたため、その辺が自転車操業だと言われる次第かと思います。

(表3)LUNAとUSTの時価総額

このようにテラはステーブルコインの価格安定化のため、大きく手法を変えました。今後、テラはステーブルコインの安全性を証明するため、定期的な情報開示が求められます。具体的な内容について把握するために、継続して情報収集をしましょう。

V章のまとめ

  • LUNAが暴落した時に備えて、USTの価格安定化のバックアップとして10億ドルのビットコイン建て裏付け資産を追加保有。

  • UST時価総額に対して10%以下の裏付け資産が、十分かどうかは要検証。裏付け資産の内容について、継続した情報収集が必要である。

最後に

私はステーブルコイン自体について、決して否定的に考えているわけではなく、将来性のある暗号通貨だと思っています。ただし、実際の取引にあたっては、価格を安定させる仕組みを理解することが大切です。

ステーブルコインを巡る外部要因も把握する必要があります。2021年後半以降、米国の規制当局関係者による発言は、ステーブルコインをはじめとした暗号通貨に対する規制が本年度中に成立し、暗号通貨業界に大きな影響を与える可能性を示唆しています。金融の安定性確保という観点から、ステーブルコインを発行できるのは銀行のみとする規制も考えられます。

海外では、アルゴリズミック型ステーブルコインの脆弱性を問題視する学術論文が発表されています。ご興味ある方は、一読ください。

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