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豪快な性格が周りを救う!「漁港の肉子ちゃん」のあらすじ・感想・レビュー

「漁港の肉子ちゃん」の概要

著者:西加奈子

発行年:2011年

あらすじ:男にだまされまくってきた母、肉子ちゃんと一緒に流れ着いた田舎の寒い街。漁港にある焼き肉屋で働いている肉子ちゃんは、太っていて不細工で単純で、明るい。キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。ちゃんとした大人なんて一人もいない。それでもみんな生きている。港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、そっと勇気をくれる傑作。

お笑いタレントの明石家さんまが企画・プロデュースを手がけ劇場アニメ化。漁港の焼き肉屋にやって来た親子が織りなす、悲喜ごもごもの人間模様が描かれる。監督は、『海獣の子供』の渡辺歩。大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、マツコ・デラックス、吉岡里帆らが声優を担当した。


「漁港の肉子ちゃん」のあらすじ・感想・レビュー

小説家の西加奈子という名前はよく聞くが、西加奈子さんの本を一冊も読んだことがなく読んでみたいと思っていた頃にまとめ買いしたうちの1冊です。

長らく積ん読していたのですが、明石家さんまさんが脚本で映画化されたということで話題になったため、一念発起して読みました。

まず、文章が軽快で、キクりんの皮肉のこもった肉子ちゃんへのツッコミがおもしろく、サクサクと読み進められました。

キクりんは小学校での狭いコミュニティの中で、思春期独特の仲間意識や同調圧力に辟易していますが、それとは対照的に、肉子ちゃんは、常に明るくて単純で、人の心に土足で踏み入っていきます。

キクりんは、男子が自分のことを好きでついてきていてもなんとも思わなかったり、クラスの女子の中で問題が起こっても客観的に解決方法を提案したり、肉子ちゃんの気持ちや行動を先読みして行動したり、漁港で見かける3つ子の幽霊を当たり前のように受け入れていたり、小学生といえど、かなり大人びていて、どこかしらで自分の感情を抑え込んでいる様子がうかがえます。

しかし、肉子ちゃんは単純で、悲しい時は悲しいと叫び、うれしい時はうれしいと喜び、他人に対しても距離感をわきまえずにガンガン近づいていきます。

キクりんとは対照的ですが、なぜか肉子ちゃんは人気があり、変な人と思われることはあれど嫌われることはありません。

日本人のほとんどは、キクりんのように、人に気を遣い、嫌われないように、迷惑にならないように過ごしているのではないでしょうか。

私もキクりんのように、人とは適切な距離をとり、できるだけ人に迷惑をかけずに、気を遣うのがいいと考えています。だからこそ、この本を読んで、肉子ちゃんに対して憧れを抱きました。

結局、キクりんは迷惑をかけまいと、腹痛を我慢しすぎて倒れてしまいますが、そのことをきっかけにサッサンからは遠慮を辞めるように愛のこもったお叱りを受け、肉子ちゃんとの本当の関係についても気づいてはいたものの、改めて肉子ちゃんの口から確認することになります。

キクりんが一皮むけて成長したところで、おしまいといったストーリーですが、よく考えてみると、キクりんがこんなに大人びていて、小学生ながら我慢と気遣いの鬼になってしまったのは、何を隠そう肉子ちゃんとキクりんの本当の母親の影響だと考えられます。

肉子ちゃんは、この小説では、明るくて単純で接しやすいキャラクターになっていますが、よく考えると、子供を育てているにもかかわらず、男に騙されまくって、住む場所も身近で接する人もころころ変わる不安定な生活を送る、ひどい母親だという見方もできます。

明るいタッチで描かれているから見逃されやすいですが、この本では、家庭環境が与える子供の人格形成への影響がいかに大きいかが裏テーマになっているのではと感じます。肉子ちゃんは、キクりんへの愛があり、子育てに前向きだからこそキクりんはそこそこ幸せな生活をしていますが、もし肉子ちゃんが生活を恋愛に全振りしていたら、キクりんは救われない生活を送ることになっていたのではと思います。

つまり、手放しで面白かったとは言えない、少し深くまで考えると途端に暗い気持ちになってしまうストーリーです。

この本を読んで、「sumika」の「lovers」を聞いたときのような、明るいけど残酷だなぁと苦笑いしてしまうような気持ちになりました。

小ネタですが、キクりんを気に入っている同級生の男子3人が嵐のメンバーの名前になっていたのは面白かったです。

映画化もされているので、映画と原作を見比べてみるのもおもしろそうですね!

様々な見方ができる作品なので、何度読んでも楽しめると思います。ぜひ読んでみてください。


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