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自転車

 久しぶりのライドオンである。群馬から出戻った為、車を使用しなくなった。当たり前のように毎日乗り回していた車を下取りに出し、新たにクロスバイクを手に入れた。

 自転車に関しては母より注意を受けた。僕はどうやら自転車の取り扱いが下手らしい。思い返してみれば実家にいた学生時代に何台自転車を買い直したことだろう。パンクは当たり前、タイヤの空気キャップが盗まれたり、前のカゴにロケット花火を取り付け、マッドマックスごっこしたり、ママチャリで実家から通っていた大学まで30キロほど爆走したり、あれ、よく考えると取り扱い下手だな。

 友人は中学生くらいから大学生まで同じ自転車を使い続けたとかよく聞いたものだが僕の愛車は大学卒業まで、5代目か6代目くらいまで襲名している。なんなら社会人になっても研修で住んでいた一人暮らしのアパートまで実家の荷物をたんまり担いで20Kmくらい爆走していた。この時、掃除機を持っていたのだが、本体の棒を背中に背負っていたのを侍みたいだなと少しホクホクしていたのは秘密である。

 3代目愛車(自転車)の頃の話である、僕は高校2年生だった。中学時代の友人が、高校の体育祭の短距離走で1等をとり好きな先輩にアピールしたいと今時の小学生でも友人に相談するのを躊躇しそうな事を堂々と言ってきた。流石に同じ高校に言っている人間にこのお願いをするのは彼の中で葛藤があったのか僕に相談してきた。僕は溢れんばかりの優しさを持っているので快く快諾した。本当は部活もやってなくバイトだけだったのでなんか面白そうだったから引き受けたのは秘密である。
 高校2年生のキラキラの青春真っ盛りの男子学生二人が誰もいない、炎天下の市民体育館のトラックコートに集結した。
 その時の僕の3代目愛車はというと、前輪後輪がパンク寸前であり、謎のおじさんとの衝突でフレームが曲がっており漕ぐとグニャグニャと不安定であった。イメージで言うと常時欽ちゃん走りしているような感じである。伝われー!

 話を戻します、真夏のコートに集結した二人は早速練習を始めた。練習といっても、僕が記録役を担い、彼がとにかく50mを走り続けるのである。これ意味あるのか。そして僕が気になった事を伝えるのである。ど素人の僕の意見で大丈夫なのか。さらに彼はサッカー部であり、スパイクで走っていた。金属のやつで。いやなんか色々間違ってねとか思ったがそれはご愛嬌で。炎天下の中、僕は友人が50mを全速力で往復している姿を見守っていた。なかなかシュールであった。

 その時僕の3代目愛車は我々が特訓をしていたトラックの外の駐輪場に3代目愛車を止めており、遠くではあるが目視で確認できる場所に置いてあった。不意に僕が愛車の方を見ると同い年くらいの男が僕の愛車の近辺でウロウロしていた。特に不審に思わずその姿を僕は見ていたが、彼は不意に自転車をとり漕ぎ出した。その姿が、あまりにも滑稽で笑いそうになった。なんだあれ、欽ちゃん走りかよ、いや俺の自転車じゃん。なんと僕の愛車は現在進行形で盗まれていたのである。ノロノロ動いている自転車を指差して僕は友人に「やばい、盗まれている」と叫んだ。その声を聞き状況を理解した友人は駆け出した。スパイクの金属と地面が当たるカツカツという音が間髪入れずトラック上からコンクリートの道路に響き渡った。僕も後から追ったが自転車と友人はどこかに消えていた。
 数分後、遠くの方からカツカツと歩く歩調と同じ間隔で音が響いてきた。友人である。息を切らしながら帰ってきた友人に結果はわかっていたが「どうだった?」と尋ねた。ハァハァと息を整えた後、友人は「無理だった」と答えた。驚きである僕の愛車もまだ捨てたもんじゃない、人のダッシュよりかは早く進んでいたのである。僕より上手く愛車を乗りこなした犯人に嫉妬しちまうぜ!ドラマチックな別れを迎えた僕と愛車であったが正義感の強い僕の友人は僕より怒っており、ボソッと一言「スパイク履いてなかっら地獄の果てまで追ってやったのに」と言った。そりゃそうだろ、え、てか、体育祭もそれで行くのか、プラスチック素材に変えろよ、と愛車を盗まれた腹いせを友人が履いていたスパイクに心の中で八つ当たりしていたのは秘密である。

 ちなみに一応被害届を出して、数年後見つかったと連絡が来たが、取りにいかなったのも秘密である。

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