エッセイᝰ✍︎来世の話をしよう

来世の話をしよう。

こんなとりとめのないことを、友人と酒を飲みながら語らう日が誰にだってあると思う。

私はいつも決まって「来世は水素になって、この世界の誰の害にもならず、時には益となりながら循環していたい。」と言う。

これは10代の頃から、自分の中で固まっている意思であり生涯揺らぐことのない、人生で最も意味を持たない目標だと思っていた。

元来、人よりも少し自己肯定感が低く、人よりも少し承認欲求が強かった。自分が何もできない人間だと知っているのに、できる部分で人に認められたいと願ってしまうのだった。

だから、人にとって不可欠な水を構成する要素として存在できたら……などと考えてしまうのだ。水になってしまえば、時には災害として人の害となってしまうが、強烈な印象に残るのは吉事よりも凶事の方が多い気がするので、拗らせた自己顕示欲の行き場として、水はこれ以上ない存在だと思っていた。

そんなことを時たま思いながら過ごして、気がつけば10年以上が経っていて。ある日このテーマについて考えた時、いつもとは別の答えにたどり着いて困惑したのはつい最近のことだ。

なりたいものは元素に他ならないが、水素ではなくベリリウムになりたい。

私にとって、これは大進歩だ。

水素がダメと言いたいわけではない。

なぜベリリウムになろうとしているのか、そちらに重点を置いて話したい。

原子番号4番、ベリリウム。アルカリ土類金属の一種だ。そしてこれを含むのがベリル鉱石。この石が、私の来世を変える最大の原因となった。

緑柱石と呼ばれる六角柱状のこの鉱石は、エメラルドやアクアマリンと言われれば聞き馴染みがあるだろう。鉄を含むとアクアマリンに、クロムやバナジウムを含むとエメラルドに、マンガンを含むとモルガナイトに姿を変えるこの鉱石は、モース硬度7以上のそこそこ硬い石だ。

様々な宝石として扱われるこの石になりたいのは、私の好きなエメラルドがこれに属するからに他ならない。

エメラルド。翠玉とも称される深い緑色の石は、硬度こそ高いものの、無数の傷を内包しているために衝撃に弱く割れやすい。そんなエメラルドを人が思い浮かべるとき、たいていはスクエア型にカットされた姿をしているのではないだろうか。

エメラルドの名を冠するそのカッティング方法は、壊れやすいエメラルドを破損しずらくするのみならず、広く平らな面が宝石本来の美しさを最大限に引き出すという。エメラルドだけでなく、ほかの宝石も、である。

割と大きな弱点を魅力に変換した上、カッティング法にまで名を残すこの石が好きなのは、生まれてこの方この石が私についてまわるからだった。5月の誕生石として親しまれているエメラルドは、これまた5月生まれの半分が該当するであろうおうし座という星座とともに、5月に誕生した私にとっては馴染み深かった。

雑貨屋に並ぶキラキラした小さなキーホルダー。本物なわけないけれど、それでも誕生石がはめられたそのキーホルダーが欲しかったし、お小遣いが貰えるようになってからは自分で買ってつけていた。

また、女たるものアクセサリーへの憧れもあった。チラシで、店頭のガラスケースの中で、誕生石をあしらった指輪やネックレス、ピアスなどが5月の誕生日という文字を伴って、光を吸い込んで碧く輝いていた。手の届かないその輝きに、幼い頃から魅せられ焦がれ続けているのだ。いつかこの輝きを纏いたい。そんな気持ちが、いつも頭の片隅を占領している。

一見強そうに見えて、その実、内面に傷があって脆い所に、恐れ多くもシンパシーを感じたりもしていた。

思い続けて早数年、いつしか憧れが好きに変わり、来世として検討するに至るまで気持ちが膨れ上がっていた。

他人由来ではなく、自分由来からの目標を持てたのはいつぶりだろうか。

Be₃Al₂Si₆O₁₈

エメラルドの組成の頭に位置するその元素に見合うよう、己を磨いてゆきたいと思う。

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