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もはや無敵だ、だが敵は弱い。

先日人生で初めて卵を茹でた。茹で卵というものだ。
この年齢になるまで自分で卵を茹でたことがなかったということになる。

茹で卵を自分で用意したことがなかった理由は明確で、それほど好きではないから。食べられなくはないが、強制的に出されない限り食べない。嫌いではないが、進んでは食べない。目玉焼きよりは卵焼き派。分離しているよりは混ざっている派なのだ。そういえば、小学生の頃、「卵焼きを作ってみたい」と母に頼んで卵焼きの作り方を教えてもらったことはあったが、目玉焼きを作りたいとも食べたいとも言ったことがなかったかもしれない。

何のきっかけか、ふと「あれ?私卵の茹で方知ってる?」と考えてみたところ、知らないことに気がついた。なんとなく恥ずかしい気持ちになって、誰に恥をかくわけでもないものの、人生で初めて卵を茹でてみることにした。
すると湧いてくる数々の疑問たち。
何分茹でるとどれくらいの固さになるのか?水から茹でるのか沸騰したお湯から茹でるのか?塩は入れるのか?卵は冷蔵庫から出したその温度でいいのか?

卵を茹でたい、しかしその前にお湯を沸かすのかさえも分からない。ということでgoogle先生に頼ることにした。こんなことも調べないと分からないのか?と自分を疑ったが、卵を茹でられない自分から茹でられる自分に変わる境目がまさに今なのだ!!!と思うとワクワクして、無敵になれる気持ちだった。敵が弱過ぎる。
当然のことだが、検索結果には様々あり、水から茹でるレシピもあれば沸騰したお湯から茹でるレシピもあり、なんだかんだ塩だって入れようが入れまいがそれぞれの自由だ。卵が茹で上がればいいのだ。皆んな「このレシピが一番!」と思っている茹で方があるのだろう。それ程にゆで卵は生活に馴染んだものであるだろうから。私の生活に馴染んでいなかっただけで。

卵の茹で方を調べていると、学生時代に一人暮らしを始めてから最初にお味噌汁を作った時のことを思い出した。
一人での生活にも慣れてインスタントのお味噌汁から自作のお味噌汁に移行しようと思い立ったときに、お味噌汁の作り方がわからないことに気がついた。この時の気づきもなかなかの衝撃と恥ずかしさがあったと記憶している。
具材に火を通したお湯にお味噌を溶くだけではない、ということはなんとなく分かるが、では何を入れるのか?が見当もつかなかったのだ。母に電話をして聞こうとしたものの、そんなことも知らない娘だと思われるのも足元を見られる気がして癪で電話ができず、その時も「お味噌汁 作り方」で検索をかけたのだった。その検索結果により私の中で初めて「お味噌汁」と「出汁」の概念が結びついた瞬間だった。何かが抜けている、と思った時の「何か」が出汁であることになぜ気が付かなかったのか不思議なものだが。調べてやっとお味噌汁を作ることができた思い出を、32歳になり茹で卵で再現することになった。

ちなみにお味噌汁の作り方が分からないというのは、初めてのお料理あるあるのようだ。私がお味噌汁の作り方を検索した数年後、一人暮らしを経ずに実家から直接結婚生活に入ることになった友人が、「実はお味噌汁の作り方さえ知らない…」と告白してきた時には、肩を抱き合う思いだった。

何はともあれ、私の初めての茹で卵は、レシピを公開してくださる数々の方々のおかげで成功裏に終了した。卵を茹でることができるようになった今の私は幾分かレベルが上がったと言って良いだろう。敵は弱いが、もはや無敵だ。

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