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猫の行方
彼女の弁当バッグは取っ手の所にボールチェーンが掛かったままである。それには猫のマスコットが付いていたはずだった。
「スムージーってやっぱりどろどろ?」
いつもの野菜ジュースをやめて、新発売のを買ってみた。
「バナナが入ってるらしい」
毎日なんとなく、こんな会話を二人はしている。今日初めて会った人でも簡単にできるような、あとくされのない軽い感じの。感じはいいが、感情が伴わないような。ふんわりとした優しい感じで、ふっといなくなる。
「ふーん」
彼女が視線を前に戻すたびに、なんとなく・・・・不安になる。
「猫・・・」
「ネコ?」
机の横に下げてある彼女の弁当バックを見ていると、家にいるランプの姿がよぎった。
「職員室の落とし物箱は見に行った?」
彼女の顔には「何?」と書かれている。当たり障りなく、返事を一つもらえば済むはずだった。「行ったけどなかった」とか、「帰りに行ってみる」などでもよかった。
「一緒に行ってくれる?」
「え・・・」
彼女はゆったり弁当を食べている。今日は椎茸のフライが入っている。衣がはがれてつるつるの中身が見えている。視界から少しずつゆっくり消えていくように目をそらし、スムージーをごくごく飲んだ。
「行く」
猫が気になるから。
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