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祖父母の梨園「梨食べたら元気になるから」

「上手だねー。」
おじいちゃんのシワシワの顔が、更に皺くちゃになった。

「サチは頑張るねえ!」
子どもの頃から夏休みの猫の手も借りたい繁忙期になると時々、祖父母の営む梨園の手伝いをした。


ピンク色の包紙で
黄緑色の梨を包み
箱に入れる。

私の名前は「幸子」
好きな梨の名前は「幸水」

私の名前が梨に由来していると聞いたことはないが
勝手に縁を感じている。


おじいちゃんが亡くなって1年になる。


甘くて瑞々しい幸水を
二人で一緒に梨畑へ、もぎに行ったのは
いつだったろう。


就職して
仕事はどうだって聞くおじいちゃん。
「頑張っているよ」
と答えると
「あたりめーだろ。サチは、小さい時から、よく頑張る子なんだって、そんな事くらい、おじいちゃんが1番知ってるわー、ワハハハハ」
って笑った。


おばあちゃんが
介護施設に行って

おじいちゃんが寂しがっていた
そんな日だったね。


少し前までおじいちゃんが家で介護していた。
勿論おじさん家族の支えもあってだけれど。

おばあちゃんが夜に何度かお手洗いに行く
病気の辛さで、痛い痛いと言っては、
おじいちゃんに辛く当たる。
おじいちゃんだって限界だった。
おじいちゃんは家族で1番口が悪い(と思う)けど、
おばあちゃんの悪口を本気で言った事はない(はず!)。


おばあちゃんが介護施設に行ってから
2人はまた恋人同士の様になった。


「プリンを持って会いに来て」
「はいはい、分かったよ」



丁寧に、
よく実った梨を選んで
大切に切る。

おじいちゃんの指示で、
これはいい色だっていう梨を。

私は、とても大きな幸水を見つけた。

得意気に枝を切り落とした後で、
梨玉をしっかり持っていなかったから、
大切な梨を地面に落としてしまった。


ああ!

ばかやろーって怒られると身構えた。


そしたら、
仕方ねえなあ、一緒に食べよう」って。



持っていた包丁で切ってくれて
梨畑で一緒に食べたね。

商品として並べたら
最高級の大きさの立派な梨を。
トラクターの荷台に一緒に座って。


私は、落としてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど

一口食べたら
甘くて優しい味に
涙が出た。



そしたら急に、おじいちゃんに怒られた。

ばかやろー、こんな美味い梨を食べながら
泣くやつがいるか

って、

見上げたら
シワシワの顔がもっとシワシワになっていた。



その後で、
きれいなシャツに着替えてから
おばあちゃんリクエストのプリンを持って
介護施設へ行ったね。

「ばーさんがうるせーから、
きれいにしてかないと」
なんて言いながら。


「まあ、どこの女優さんが来たのかと思いましたよ」
と言うおばあちゃんに、

「おばあちゃんに似てるからね」
と答えるのが、決まり文句。

「今日の梨はどう?」って聞くおばあちゃん。

「1番大きくて、いいのがあったんだよ。サチが落っことしちまってよ。仕方ねーから一緒に食べたんだよな」

「うん、ごめんね」

「ごめんねじゃねーだろ、美味かったんだよな?」

「うん、すっごい美味しかった」



そしたら、おばあちゃんが真剣な顔で言った。
「当たり前でしょ、おじいちゃんの梨だもん



おばあちゃんがそう言った時
おじいちゃん、
今まで見たことも無いくらいに
笑っていた。


何年梨を育ててきたんだろう。
おばあちゃんと一緒に。
雨の日も
風の日も
夏も
冬も
毎日働いてきた
おじいちゃんとおばあちゃん。

「畑に毎日行って楽しかったね、おじいさん」


プリンくらいしか食べたくないって
弱音が出ていたおばあちゃんが、

「おじいさんの梨が食べたいな」
って言った。


おじいちゃん、見た事ないくらい、すっごくいい笑顔だった。


「さっちゃん、そこの冷蔵庫開けてみて、一つくらいあるはず」
と言うおばあちゃんに、

「バカヤロー、今すぐ一番美味しいのを取ってきてやるよ。」
と、おじいちゃん。

「まあ、口が悪いこと。」と苦笑いなおばあちゃん。

せっかちなおじいちゃんは、一番おいしい梨を取りに畑へ取りに行ってしまった。私を残したままで!


冷蔵庫には、既に梨がいっぱい置いてあった。
おじいちゃん、
おばあちゃんに食べさせたくって
毎日朝晩と会いに来る度、梨を持って来ていたんだと思う。



「梨食べたら元気になるから」


今もおじいちゃんの声が聞こえる気がする。



おじいちゃんと
おばあちゃん
天国でも仲良くね!




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