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ウクライナ・スームィ州 幼稚園を訪ねて

友人の仕事仲間が住む、村の名はTokapi(トカリ)


スームィ市内を抜けたすぐ先にある村を訪ねて

市内から続くスムーズな道を、村へ向けて左折した途端に穴がボコボコ空いた道に突入するので、車で30分程の道のりでした。
畑が広がり、その先にある村の現在の人口は3,000人程。
ロシア侵攻直後から戦車部隊が通り過ぎて行ったエリアで、現在もミサイル攻撃にさらされ続けています。

この村には、この村で生活を続ける人々の考えや事情があり、私には何も意見することができません。

日本の感覚から言うと、まず守るべきは国民の命、特に国の宝である子供たちの安全を守るための避難援助が行き届いているとはいえず、避難するか否かは個人に委ねられています。

目的地は村唯一の幼稚園

村で唯一の幼稚園

今回は支援のための視察にやってきた日本の法人関係者の方と一緒に。

幼稚園や学校は、空襲警報が鳴ると地下に避難しなければならないルールがあるため、この村では幼稚園施設に隣接する、使われなくなった病院の地下空間を避難場所として使用するようになったということです。

この幼稚園を利用する園児は50名程

人口3,000名の比率から見ると高齢者の方々が多いのか、子供の数が少ない気がしますが、話を聞く限りでは戦争によって半減したわけではなさそうです。
空襲の危機に立たされながら近い未来を実現化させる希望も薄い中、それでも子供たちのために、少しでも良い環境を作っていきたい幼稚園関係者の話を伺って、さらにウクライナ人の本質的な強さを見た気がしました。

ロシア侵攻から1年半が経過。警報の度にこの地下空間へ避難する様子に変わりはありません。

地下空間へ足を踏み入れる

階段を降下していくと、カビと土埃と古臭く新鮮ではない空気が、一段ずつ深くなるごとに濃くなっていくのが感じられます。

突き当たりの場所の奥には黒板が設置されている

地下空間独特の重苦しい匂いと共に、奥へ進むにつれて肌に当たるひんやりとジメッた湿り気を帯びた空気が、気管から肺に入っていく時の感覚は想像以上に重く不快です。
使用されていなかったこの地下空間を少しでも居心地良く過ごしてもらえるように、壁には大人たちが描いたイラストが描かれていますが、湿り気と冷気の不愉快さを癒すことは難しいです。ここへ爆撃音が近く遠く聞こえる中、長い時には2時間もじっとしていなければならないのは、小さい子にとってはとても困難であることが理解できました。

写真や映像で見た景色と、実際に体内で感じるのはだいぶ違いがあります。

内部の様子。通路と小部屋に分かれている


喘息など、ここで過ごす子供たちの多くは健康上の問題がある

1月ほど前に床部分のコンクリート敷きだけは何とか整備し、子供にとっては大きいけれどトイレもあります。

なんと言っても問題は2点。寒さ(冷たさ)と湿気です。

先ほど述べた、人が長時間滞在するために作られたわけではない、天井部分に配管が走っている古い地下空間独特の匂いと、ジメッとした肌寒さの中で長時間過ごしていいわけがありません。
気管支が弱く閉所が苦手な私は、入って数分で喉の奥に嫌なものを感じたので、敏感な子に限らず体調を崩すのは必然的であり、劣悪な環境と言えるでしょう。

現在、この環境で最善を尽くせるよう、地下空間で使用する空気清浄機やヒーターやオモチャ・遊具など、最低限必要とされるもののリストを作成し、支援団体からの援助を待っている段階です。


ロシア侵攻後にニュースで見た映像が蘇る

使用されていない部屋。暗異空間へ上部から光が漏れ、物悲しさを感じる

今は夏休みなので子供たちの姿は見えませんでしたが、秋に新学期が始まれば、また同じようなようにこの場所を利用するのでしょう。この湿った重苦しく寒いただの地下空間に、持ち込んだ衣類を着込んで大人しくしている光景を想像するだけで心が痛みます。日本では考えられないようなインフラの不備を自分たちで改善する方法がない、すなわち圧倒的な資金不足にどうすることもできないもどかしさを皆が感じています。

今回訪問した幼稚園は、スームィ州の一例であり、州内でもおそらく同じような状況は多数あると思います。

これが戦闘エリアに近い場所では、もっと劣悪な環境の可能性もあります。
2022年、昨年の春にニュースで流れていたマリウポリの地下施設の光景を思い出すと、今更ながらに胸が痛みます。おそらくそこで長期間過ごした人々は、健康面で大きなトラブルを抱えることになったでしょうし、心の問題も大きく残っていることでしょう。


経験することでしか、伝えることができない。

シェルターの方向を示す案内


私はウクライナに残った身として、できる限り私目線で見たことや体感したことをお伝えしていこうと思っています。ジャーナリストや専門家ではありませんし、関係者から聞いた言葉の端々から感じたことを伝えていくのみです。

今日の幼稚園訪問で、幼稚園関係者一人に聞いたこと

しなければいけない仕事があり、そしてここで働く  

Q.あなたにとって、この状況でどのような幸せを感じることができますか?ー

A.ー毎日毎日続く砲撃や警報の中で、国境から近いこの村で過ごす限り、希望や幸福などありません。
ただ、私にはここで働くことができる環境があると言うこと。
毎朝目覚めた時、まだ自分が生きていることを神に感謝することができること。
それだけです。

皆で話しながらの空間に悲壮感はなく、手作りのピローグ(甘いピロシキ)と紅茶を飲みながら冗談を言って談笑する雰囲気に包まれながらも、確信部分では全てを受け入れて、心で泣いているのです。

ウクライナ人の芯の強さを毎度受け取って、私はいつも小さく感動しています。

国の状況など関係なく、ひまわりは太陽を追って大きく成長する


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こうした機会に感じる出来事を、今後もできるだけお伝えしていこうと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。







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