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バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その18


東名を走っている。
それなりに車もいる。

平日の夕方。
もうすぐ通勤ラッシュになる。


ガソリンがもたない。


フューエルメーターが
あと一目もり。

今日の走行距離から考えても
家まではギリギリだ。


帰り道で
ガソリンを入れようと思っていた。

なぜか
高速で入れようと。


インター入り口の近くにも
ガソリンスタンドはあった。

そこで入れたらいいのに。

高速のガソリンは高いのに。

なぜ
高速で入れようと思ったのか。


理由はよくわからないけど

足柄サービスエリアで
ガソリンを入れると決めていた。

足柄は
御殿場インターから乗って
すぐのサービスエリアだ。



走りながら
電光掲示板を見る。


【横浜町田まで60分】


・・・ん?


思わず、二度見する。


えっ?


横浜町田まで60分って
どうなってるの?

30分じゃなかったっけ?


激しく混乱する。

あれ?わたしの記憶は?


行きに30分で来た。
間違いない。

電光掲示板は40分だった。

タイムトライアルで
30分に縮めた。

間違ってない。


じゃあ、何が間違っているの?


もう一度、記憶を呼び起こす。

タイムトライアルを始めたのは
休憩した後。


そっか!
海老名サービスエリアまでの時間か!!


あれ?
やばくない?

計算が変わっちゃう。
夕飯は・・・?


かなり動揺しながら

足柄サービスエリアの
看板を見つける。

看板に誘導されながら
入り口に向かって
バイクを走らせた。



側道を走る。
バイクの速度を落とす。

目の前のことに
意識を集中する。


本線から外れて
坂道を上る。

左にカーブしながら
駐車場に入った時・・・


目の前に見えた。


さっきから
ずっと諦めていたもの。


画像2


富士山だ!


駐車場には停まらないと
決めていたので

そのまま
スタンドに行こうと思っていたけど…


停まった。
駐車場入り口の路肩に。


路肩ならいいよね。
そのかわり、ヘルメットは取らない。


自分の信念は曲げない。
これは、停まったことにはならない。


写真だけ撮りたい。
みんなに見せたいから。


ヘルメットを被ったまま
富士山の写真を撮った。


画像1


ここから見えたんだね。
知らなかった。


ここにいるよと
ささやいているような富士山。


富士山もさよならを
言いに来てくれてるんだな。


富士山に向かって
手を振る。

スマホを秋ちゃんにしまい
ガソリンスタンドに向かった。



スタンドで給油する。

いつも自分で入れているので
人に入れてもらうと
なんだかホッとする。


入れてもらっている間に
頭の中を整理する。


さっき横浜町田まで
60分って書いてあったよね。

行きに30分かかったのは
御殿場〜海老名間。

30分で
高速は降りられないってこと。


飛ばしたとして…
45分かなぁ。


15分短縮・・・


帰りもタイムトライアルか。
望むところだ!


ガソリンが満タンになった。

これで飛ばしても
ガス欠になることはない。


今、5:07。
5:52に横浜町田インターを出る。


よし。

心に決めて
スタンドを出た。



スタンドの横は
本線に戻る側道だ。

駐車場から来る車がいないか確認し
側道に入る。


アクセルを開けて加速する。

本線に入るまでに
本線の流れにスピードを合わせる。


右を見る。
車がいないことを確認する。

ウィンカーを出しながら
本線に合流した。


すぐに
また右を見る。

車はいない。

すかさず
真ん中からさらに右に
車線を移る。


右車線。
定位置だ。

この位置が一番安心する。

バックミラーで後ろを見て
覆面や速い車がいないことを確認し

アクセルをさらに開けた。



ここからは下り。
高速コーナーが続く。

東名で
一番好きなポイントだ。

行きは上りで
コーナー進入時に
120km/hで入れなかった。

下りなら
超えられるんじゃないかな?


車の流れが速い。

これなら
少々飛ばしても目立たない。


速度差で覆面に
目をつけられる気がするから

高速で走る時は
周りの速度を気にして走る。


周りが120km/h近い。


これなら・・・

アクセルを開けて
130km/hで巡航する。


だいぶ
エンジンが軽くなった気がする。
吹け上がりもスムーズだ。


慣らしが上手くいっているんだな。


嬉しくなって
アクセルを開ける。

下りの力が
バイクを後押しする。

たまに135km/hを指しながら
トンネルが続く山道を
走り抜けた。


いよいよだ。


大きなカーブが続く
下り坂に近づく。


ここを120km/hで走りたい!


前の車が速い。
付いて走れば大丈夫。


よし!


行きはできなかった
コーナー進入時の120の数字を見て

満足しながら
カーブ立ち上がりで
さらにアクセルを開けた。



山間部を抜けた。
周りが開けてきた。

ここからは
アップダウンはあまりない。

道も直線が増えてくる。

そう思いながら
行きのことを思い出した。


そういえば
行きはここで、富士山…見えなかったな。


富士山が一望できる場所。

裾野まで遮るものがない
1番のお気に入りの場所。


そうだよな…と思いながら
何気なくバックミラーを見た。




わぁ。富士山だ!!




なんて表現したらいいんだろう。



桜色に染まる富士山が…
こっちを見ていた。



紅い富士山が…
あぁ。
こんな遠くまで
見守ってくれている。




ふいに視界がにじんだ。



今回は驚かない。


わかってる。
これは涙だ。


でも、行きの涙とは違う。

うれし涙だ。


富士山が「がんばれ。」と言っている。
応援してくれている。


またおいで。

そう言ってくれている。


諦めそうになっていた
バイクに乗るということ

行きたいところが
無くなっていく不安

乗りたいと思う気持ちが
消えてしまうかもしれない怖さ


そんな不安と心配と怖さと諦めを
全部かき消してしまうような

紅い富士山。


涙をこらえながら
もう一度バックミラーを見て

富士山に向かって誓った。


また来る。絶対逢いに来る。
だから待ってて!!


溢れそうになる涙を
こぼれないように目にためて


紅い富士山を

バックミラーで見つめながら

見えなくなるまで
心の中で大きく手を振った。






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