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富士五湖ツーリング その10


河口湖に近いコンビニにいる。
隣にガソリンスタンド。

ずっと探し続けていたスタンド。

満タンになり
ようやく気持ちが落ち着いたところ。


準備を済ませ、バイクにまたがる。
出ようとして、向きがわからなくなる。

いつものやつだ。

九州でも駐車場を出た瞬間
方角がわからなくなった。

どうしていつも
一歩目がわからなくなるんだろう。

間違えないように、よく考える。

さっき、スタンドが右手に見えた。
右折してすぐスタンドに入った。

その時、山中湖は正面の方向だった。

今は交差点の右角にいるわけだ。
ここから山中湖に進むには
目の前の道を右へ。

一旦、目の前の道に出て
右折して右へ行けばいいのか。

ようやく頭の中の向きが
地図と一致する。


コンビニを発進。
目の前の道に出る。

右折レーンから右の道へ。
中央分離帯があり
手前の対向車線に入りそうになる。

横断歩道を人が渡る。
色々ドキドキする展開だ。

ようやく進行方向の道へ。
すぐトンネルに入る。

新倉トンネル。
新しく綺麗な真っ直ぐ続くトンネルだ。

前、長野の帰り道に通った。ここ。
あの後、富士五湖道路に乗らなかったっけ?

トンネルを直進しながら不安が湧いてくる。

この道、山中湖に向かってるのかな?

マップのトンネルマークを見落としたのか。
それとも、走る向きが間違っているのか。

ここずっと頭の中が慌てたモードになっていて
ちょっとしたことに動揺してしまう。

頭をフル回転させていた余波だ。
終わっても、ギアが下がらない感じ。

仕方ない。トンネルを出たら
路肩に停まって確認しよう。

自分に言い聞かせ
真っ直ぐのトンネルを走り抜けた。


トンネルを抜けたので、路肩に停める。

路側帯が狭いので
思い切って歩道に乗り上げる。

ヘルメットをかぶったまま、スマホを見る。
間違ってない。大丈夫だ。

県道717からR139を右折したい。
早めに曲がると、混んでいるみたいだから。

手前の道は、スマホのマップで赤くなっている。
なるべく渋滞は避けたい。

碁盤の目のようにいくつも交差する道の中で
なるべく富士五湖道路から遠い国道を選んだ。

交差点名を覚える。
この明るさならまだ読めるはずだ。

お茶屋町東

この言葉を頭に叩き込み
もう一度、バイクを発進させた。


車はそれなりにいて
交差点に差し掛かると少し混む。

流れに乗ってY字の交差点を左へ。
真っ直ぐの道で幾つかの交差点をやり過ごす。

お茶屋町。次がお茶屋町東だ。

あった!
無事に右折。南に下がる。

地方都市ならどこでもありそうなお店が
立ち並ぶ。

この道選んで正解だったのか?
一瞬、憂鬱になる。

左車線でひっきりなしに
車が出入りするからだ。

主要道路に入ってしまった。

当たり前だ。国道なんだから。

右車線に進路変更して
ごちゃごちゃしている車を抜く。


少し、周りの色が違って見えてきた。
夕方特有の色。日の陰った色。

気づくと山に遮られていて
太陽の光を浴びていない。

街中を抜けた。
住宅地に入ったようだ。

街は陽の光が当たらず
湖の底のように淡く、静かだ。

気温も下がってきているのだろう。

でも、集中して走っている
わたしの体温は高い。

静かな街を走っていたら、突然見えた。
少し上り坂の直線の右脇に。

いつから見えていたんだろう。

圧倒的な存在感で
富士山が街を見下ろしていた。

日陰側にいることを実感する


どうして気がつかなかったんだろう。

急ぎ、帰ることに集中し過ぎて
今まで見えていなかったのか?

それとも本当に今、見えてきたのか?

慌ててバイクを停めて写真を撮った後
またすぐに走り出す。


こうやって毎日富士山に見守られているのか。

近くても全く見えない日もあるんだろう。

こんなに近くにいても見えない富士山。
見える時はこんなに大きな存在感で見える富士山。

初めて羨ましいと思った。
ここに住みたいなと思った。

毎日ここに住む人たちのことを想った。


背の低い建物が立ち並ぶ住宅地を抜けると
交差点に出た。

R138との交差点。
路肩が広いので、一番前まで行く。

少し考え事をしていたら
左折のみOKになったらしい。

信号の矢印に気づかず
後ろのトラックが横に覆いかぶさってきた。

気配で気づいて、慌てて前に出る。

前に出たのにスタートで遅れるなんて最低だ。

バイクの嫌いな人には
一番嫌なシチュエーションだと思う。

前に出たくせにモタモタして。
バイクならバイクらしくもっと機敏に動けよと。

幸い、トラックの人は怒っていないようで
横に並んだ後、わたしが発進するのを待って
後ろについてくれた。

その後も車間距離を取ってついてきてくれる。

申し訳ないのと有り難い気持ちが
ないまぜになったまま
杉の木が立ち並ぶ暗い道へと入って行った。


ここ知ってる。

昔、突然義母に誘われて
山中湖の先に行ったことがあった。

夢だったのかな?

確か、義父の送り迎えをすることになり
ゴルフが終わるまでこの辺りを
散策していたような。

夢の中にしては、この道をよく覚えている。
記憶に間違いがなければ、もうすぐ忍野八海だ。

本当に看板が見えてきた。

やっぱりそうだ。

義母とどこに行ったんだっけ?
忍野八海には行かなかった気がする。


車の列に並ぶと
けっこう色んな考え事ができる。

義母とどこに行ったかは思い出せない。
だから、夢かな?って思うわけ。

忍野八海には、家族で行った記憶がある。

思ったより水量がなくて
イメージと違ったなと思った。

イメージは柿田川みたいな感じだったから。

三島に行った時に見た湧水。
こんこんと湧き出る水に
吸い込まれるような思いがした。


山中湖のインターが見えてくる。
ここもよく覚えている。

もしさっき河口湖で富士五湖道路に乗ったら
ここで降りていたわけだ。

富士山に見下ろされたさっきの場面を想う。
高速に乗らなくてよかったと心から思った。


インターが見えたら、手前を左へ。

山中湖の北側の湖畔を走りたかったから。

そう思っていたのに
あっ!と思った路地を通り過ぎてしまった。

さっきまでの思考にふけっていた状態から
一気に現実へと引き戻される。

頭の中で地図を必死で思い出す。
路地はその後右に曲がり、国道と並走していた。

次にある路地で左に入れば
さっきの道に合流できるんじゃないかな?

休んだ頭は動きがいい。

とっさの判断ができたわたしは
すぐにあった路地を左折し
下り坂を降りて行った。

すぐ、交差点に出る。信号は赤だ。

左から来た道は
距離的にさっき曲がり損ねた道だろう。

そう判断して、信号が青になると右折する。

細い路地道を少し下っていく。
平らになると、さらに道が細くなった。

狭くて、ウっとなったら
すぐにパァッと視界が広がった。

湖畔だ!山中湖に出たんだ。

左折して、県道729を湖畔沿いに走り出す。

見たことがある旅館が立ち並び
知っているところまで戻ってきたことに
ホッと息をつく。

辺りは暗くなり始めている。

富士山は見えてるの?

すぐにバイクを停めた。
右後ろを振り返る。

そこには、夕焼けを身にまとう
富士山がいた。

右端に夕陽の名残りが


よかった。

これで富士五湖全部から富士山が見えた。


あとは、帰るだけだ。

今、16:49。
あのコンビニに、17時につけるだろうか。






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