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九州ツーリング その18 九州上陸


窓の外は雨。
窓ガラスが濡れて、景色がにじんで見える。

愛媛から大分に渡るフェリーに乗っている。
波を乗り越えるため、船の上下動がひどい。

乗ってすぐに、酔い止めを飲んでおいたから
今のところ、酔ってはいないけど。

スマホを見るのは止めようと心にかたく誓う。


ずっと海沿いを時計回りに走ってきた。
四国を離れ、いざ九州へ。

今日はせっかく阿蘇なのに。

九州で一番楽しみにしていた道。

阿蘇山の周りを走る予定なのに
よりによって雨。

この雨は明日も続く。

どうするよ。わたし。

これから先のルートが決まらず
今を楽しめない。

四国を離れる感傷も
九州に上陸する嬉しさも
どこかに追いやられている。


とりあえず、城島高原か。

城島高原は、もう一度行きたかったところ。

19歳の夏、1人で
西日本をバイクで一周していた時、走った場所。

Vの字で切り裂いた視界の真ん中は空。
周りは一面、緑に染まった高原を走り抜けた。

高知の室戸岬で知り合った人が
前を走ってくれたので
ずっと場所がよくわからなかった。

同じフェリーで大分に渡り
その日のうちに山口の萩まで走ったから
船を降りてから近いはずだと思っていた。

城島高原だけは走れるか。

とりあえず、降りたらすぐに
道の駅があるのを見つけていた。

そこでお昼にしよう。

そう思いながら
雨の落ちてくる海と灰色の空を
ぼんやりと眺めていた。


小一時間経った。
あと20分で到着する。

降りる準備を始めた。

汗で濡れていたTシャツは
程よく乾いて快適だ。

カッパを着る時の温度調節が難しい。

雨だとカッパが脱げないので。
中に着ているもので調節しないといけない。

暖かいのか寒いのか。

船内はジャケットを脱いでも平気なくらい暖かく
これから先の温度が読めなかった。

ジーンズの上にウィンターパンツ。
そのさらに上にレインパンツ。

上も、ジャケットに重ねてレインウェア。

雨で寒くなると心配だった。

暑くなったら脱ごう。

念入りに着込んだ。


館内放送があった。
九州が近くなってきたらしい。

船が向きを変え始めた。

外を眺める。

九州だ!!

窓ガラスは濡れているが
外は降っていないようだ。

下船の準備をするよう
アナウンスが入る。

万全の防寒防水対策をして
リュックを背負い、席を立った。

行きに上った階段を降りる。

船底の車の密度にたじろいでしまう。

ギリギリまで車が…

バイクまで近寄ると
船員さんが固定していたロープと
傷防止の布をどけてくれた。

身支度をする。
その間に、車はどんどんと下船していった。


準備を終え、バイクにまたがった頃には
他に誰もいなかった。

船底には、固定のためか突起物がたくさんあり
踏むと危なく、タイヤの通る道をよく考えて
ゆっくりスタートした。

船外はまだ雨は落ちてきていない様子。

思わず息を止めてしまうほど
緊張しながら鉄板の上を走る。

滑らないで。

祈るようにバイクを慎重に進める。

フェリーを降りきった時
無事に転ばずに降りられたことに
心の底から安堵していた。

九州に上陸していることをすっかり忘れて…


グローブとカッパの間に隙間ができないように
しっかりと重ね合わせるのが手間で
降りた後、写真を撮るのを諦めた。

雨が気になって
降ってくる前に早く道の駅に着きたくて
フェリーを振り返って見ることもせずに
目の前の国道に向かった。

もう誰もいない。

あんなに乗っていた車も
自転車ですらいない。

人気のないフェリーターミナルを後にして
R197を西に向かって走り出した。


海沿いを走る。
道幅があり、路面もいい。

車はそこそこいて
寂しかった気持ちが和らぐ。

すぐに、道の駅が道沿いにあるはず。

灰色の雲、今にも降り出しそうな空を見ながら
濡れる前に室内に入りたいなと願う。

国道は、道なりに走ればいいから安心だ。
道の駅を見逃さなければ。

入り口を見逃して通り過ぎることが
割とよくあるから、それだけ気をつければ。

5分ほど走ると右に警備の人が立っている。
道の駅の入り口だ!

案内の指示に合わせて駐車場に入った。
左手にバイクが停まっている。

並べて停めて、ヘルメットを脱いだ。
雨が降っていないので、スマホを取り出す。

道の駅 さがのせき

海沿いにあった。

風は強くない様子


雨がもってよかった。

ここでお昼を食べながら
ゆっくりルートを考えよう。

濡れずに入れてホッとしながら
食堂のメニューを探した。


道の駅は『佐賀関』という名で
関サバ、関アジが有名なようだった。

両方定食があり悩む。
が、関サバの名をよく知っていたので
食べるならこちらでしょと頼んでみた。 

今日は4/5。平日の水曜日。
道の駅にいるのは、仕事中の人ばかり。

カッパが濡れていないのをいいことに
そのままの格好で店内を歩いていたけど
少し恥ずかしかった。

窓際のカウンターが2つ空いていた。

隣との間についたてがあったので
隣にいる人に気を遣いながら座った。


呼ばれるまでの間
スマホでこの先のルートを確認する。

geekさんのメールに
『城島高原から高速へ移動しては?』
とあったのを思い出した。

城島高原だけ走ろうか。
その後はその時考えるのは?

呼ばれて定食を取りに行く。

美味しそう!

一旦、考えるのをやめて
目の前の食事に専念した。

美味しい!
高知からずっと魚ばかり食べている気がする。

海沿いはやっぱり魚が新鮮だな。

お味噌汁の出汁がきいていて
ホカホカしたご飯の上にお刺身がのっている。

お刺身が美味しいっていいなと思う。
身近に新鮮な魚があるのは嬉しい。

じっくりと味わいながら食べた後
スマホでルートを検索していたら
店内が急にザワザワと騒がしくなった。

お昼に合わせて、ドッと人が入ってきたようだ。
空いていた隣にも人が入る。

これ以上ゆっくりしているのは申し訳ないな。

どうせ、次の休憩所までしか
覚えていられないんだ。

次に停まるのは、城島高原のどこかにしよう。

そう決めて
城島高原までのルートを頭に刻んで
席を立った。


外に出たら
地面がビシャビシャに濡れていた。

さっきより明らかに濡れている。
かと言って、今降っているわけではない。

食べている間にひと雨来たのか?

さっき店内がざわついたのは
雨がひどくなったからかもしれないと気づく。

どの道を走るか悩んでいたから
全く気が付かなかった。

お手洗いが外だったので入ろうとしたら
フェリーで一緒だった自転車の2人が
お手洗いの前で雨宿りをしていた。

お昼を食べたいらしく
バーナーを出して食事の用意をしているのを見て
道の駅で、外で火を使って食べるという発想は
なかったなと驚いてしまった。

雨、大変だろうな。

バイクより非力な車両で
九州を走ろうとしている2人に
尊敬の念を抱きながらバイクに戻った。


バイクはシートがびしょ濡れで
かなり激しく降ったのだなと想像できた。

降られる前に室内に入れて本当によかったと
安堵しながら、タオルでシートを拭いた。

これから降られるからどうせ濡れるのだが
金沢に行った時、一番初めに濡れ始めたのが
太ももとお尻あたりの縫い目からだったので
敢えて濡れたシートに座る気にはなれなかった。

リュック外側のポケットにタオルをしまい
首元、手首、足元どこからも
雨が入らないように念入りに準備する。

2週間のうち、ずっと雨に降られないのは
あり得ないと思っていたから
新しくブーツカバーも買っていた。

もう、足に養生テープを巻くこともない。

今となってはいい思い出でしかない
大雨のツーリング。金沢からの帰り道。

その時に「足りない」と思ったものは
全て思い切って買った。

だから、大丈夫。

万全の準備をして
城島高原に向かうべく、バイクを発進させた。




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