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九州ツーリング その4 名神


3/29(水)10時過ぎ
荷物をバイクにくくる。

バイクカバーをリュックに入れたら
パンパンになってしまった。

「置いていこうかな」
『要らないんじゃない?』

バイクカバーを出して
車に積んでもらう。

リュックの中の
ウィンドブレーカーを見つめる。

「上着、いるかな」
『南に行くんでしょ?
 寒くなったら買えばいいんじゃない?』

夫と息子が言う。

少し悩んだが、もっともなので
持って行かないことにした。

ウィンドブレーカーも出す。

『こないだ、背中でリュックが
 右や左に傾いていたよ。紐、短くしたら?』

息子が言う。

背負っていたリュックの肩紐を
短くしてみた。

これはいい!
背中にフィットする。

バイクに乗った時
後ろの荷物にリュックが当たらない。

息子に礼を言って
ヘルメットをかぶった。


先に行くよう
夫から手で合図が出る。

車の前で走り始めた。

ここにバイクで来ることは
もうないだろう。

周りをよく見ながら走る。

空は青く、アルプスの頂きは
白く輝いている。

ここに、蕾が桃色の桜があった。

タカトウコヒガンザクラ

そう書いた看板を身につけた木々は
明らかに他の桜とは色が違った。

この桜が、一昨日の桜並木なのか。
高遠は桜の名所だったのか?

偶然通り過ぎていたことに
ふっと笑みがもれる。

あと少しで満開だなぁ。

左がタカトウコヒガンザクラ


ここは他より少し春が遅く
これから桜の季節になるようだ。


先導して走っていたら
信号のある交差点に来た。

ここで家族と分かれる。

私は右へ。家族は左へ。
バックミラーを見ながら手を振った。
助手席の息子が手を振り返す。

信号が青に変わる。

右に曲がりながらミラーを見たら
娘が後ろの席の窓を開けて
大きく手を振っていた。

わたしも大きく手を振りながら
車の後ろ姿を一瞬見て、前を向いた。


出発だ。

気持ちが引き締まる。

青空が気持ちいい。
いい天気でよかった。

風は冷たい。
今朝、マイナス3度だった。

でも、車で持って来てもらった
防寒チョッキを着ているので快適だ。

なだらかな農道を走りながら
アルプスの山々を眺める。

今日が一番よく見えるなぁ。

山たちが行っておいでと
見送ってくれているような気がした。


中央道に入る。
この区間は走ったことがない。

ワクワクしながら前方を見る。

予想通り、山間部の道だ。
カーブが続く。
東名の御殿場への道を思い出す。楽しい!

周りを見る。
山の稜線は赤ちゃんの産毛のように
ぽわぽわしている。
薄い茶と灰色が混じったような色。

春の三原色はこんな色なのか。

薄めの透き通った水色
羽衣みたいな白
産毛のような灰色の混じった茶色

産毛の正体が気になる。
何の色なんだろう。

若葉も生まれたてで
透けそうな黄緑色だ。

春は山の緑が騒がしくなり
様々な色で自分たちを主張している。

色で木の種類がわかったらいいのに。

固有の種がある森は色鮮やかだ。
様々な木があるからこそ
素晴らしい景色を見せてくれている。

あっ!桜だ。

桜が目に入った。
そこここに見え始める。

ここは少し暖かいのかな?

右にも左にも桜が咲いている。
目に入るたびに頬が緩む。

こんないい時期に旅に出られて
本当にありがたいなぁ。

そう思うと、視界がにじんできた。

わがままを許し
送り出してくれたみんなに
感謝の気持ちでいっぱいになった。


右手は大丈夫だろうか。

朝、朝食の箸を持つ手に
力が入らなかったことを
家族には言えなかった。

箸でつまめない。
握力が無くなっている。

2日前、無理な姿勢のまま走ったせいで
右腕の調子を悪くしてしまった。

肘から先がだるい。
握力がほとんどない。

アクセルをどれだけ持っていられるのか。

朝食を食べながら
箸で持ち上げたものを
落とさないように気づかれないように
右手の不調は隠して家族と過ごしていた。

高速を走っているけれど
アクセルの向こう側に手をやって
回した状態が手首の真っ直ぐになる形にすれば
握力はなくても走らせていられる。

グローブとアクセルの摩擦で
引っかけている感じだ。

右手はアクセルの上に置いているだけでいい。

前の車が近づいてきたら
アクセルから右手を離す。

エンジンブレーキで減速する。
離している間に右手の力を抜く。

ぶらんとさせて手の力を抜いたら
またアクセルを回して加速する。

それを繰り返して
右手の負担を減らした。


恵那峡サービスエリア
ひとつめの休憩所。

お昼前だったけど
温かいものが食べたくて
自由に選べる定食屋で
豚汁とご飯を頼んだ。

あったかい食事は大切


いい道路だった。

この時期なら、桜を探して走れるので
高速でも楽しい。

山の中腹に
ポツンと咲いている桜が愛おしい。

こんな高速ならずっと走っていられるな。

走ってきた道を振り返りながら
次のルートを考え始める。

本当は伊勢湾岸道を走ってみたい。
でも、今日は風が強かった。

『風の強い日は危ないですよ』
そうアドバイスされたことを思い出す。

風の怖さはアクアラインで経験済みだ。
木の葉のように右に左に振られた
あの橋の上の恐怖を思い出す。

あれは本当に危ない。

名神で行こうかな。

名神の方が20kmほど短い。
出る時間が遅くなったこともあった。

無理は止めよう。
また走りに来られるように
楽しみは次に取っておこう。

名神ルートに決めた。


中央道の内津峠辺りで
桜吹雪に包まれた。

高速を走っていると
桜の花びらが雪のように振ってくる。

うわぁ、きれい!!

ここを通るなら
今の季節が最高だ。


名神に入る。

小牧インターの2km前に
両側の土手からせり出すように
桜並木がわたしたちを歓迎してくれた。

桜のトンネルを走ってるみたいだ。

周りの土手が
高速より高い位置にあるので
走っている道路が
くぼんだ川面を走っているような感じ。

上からおおうように
咲き誇った桜が笑顔で見送ってくれている。

最高の季節に来たなぁ。

またしても、今この瞬間に
走れていることをありがたく思った。


尾張一宮に停まる。快晴だ。

雲ひとつない青空


恵那峡サービスエリアで買った
干し柿を食べる。

中に栗きんとんが入っていた


不思議な柿だった。


桜は平野部も満開だ。

人が多いと桜も多いことを実感する。
街の中はどこを向いても桜が咲いている。

岐阜羽島の手前で新幹線と並走した。

やはり新幹線は速い。

こちらも100km出ているのに
どんどん離れていってしまう。

あれなら早く着くはずだ。

新幹線にあえて乗らない自分に苦笑する。

わたしは自分の力で進みたい。
日本地図に足跡を残したいのだ。

養老あたりでは
山の中腹が桜色に染まっていた。

関ヶ原では気温が下がった。
大気は場所によって
温度が違うことを肌で感じる。

山あいを抜けて下っていく。

琵琶湖はそろそろ見えるかな?

平野部に入ったはずなのに
琵琶湖は見えない。

岸から遠いのかな?
琵琶湖は最後まで見えなかった。


多賀サービスエリアでガソリンを入れた。

24.5km/L。少し燃費が悪い。

風が強いからずっと
回転数を上げて走ったからかな?

大津の前で渋滞の文字が見えた。

左車線に一気に車の列が並び始める。

左は京滋バイパスへ行く道。
大阪に抜けるには、こちらの方が速い。

真ん中の車線を走りながら悩む。

あの渋滞に並ぶのは嫌だな。

そう思いながら走っていたら
右側2車線も一気に混み始めた。

真ん中だけが空いている。

さて、どうしよう。

急に車線変更してくる車もあるから
よく気をつけながら悩む。

分岐の最後、道が分かれる時に
左側の京滋バイパスの
右車線がガラガラなことに気づき
その車線に吸い込まれるように入った。


京滋バイパスは空いていた。

すぐに桜に歓迎される。
あちこちに桜を目にするようになった。

日が傾き始め
桜もより幻想的に見える。

こっちにしてよかった。

自分の判断を褒める。


高架区間に入った。

新名神のように
とても高いところを走る。

山の頂きと目線が揃うような
山のてっぺんをつないだような道。

新名神を走ってみたかったけど
伊勢湾岸道を諦めて行けなかったから
同じような景色に心が躍った。

遠くの山にも
桜が可憐に花を咲かせている。

山にぽつぽつと咲く桜たち。

ひとつひとつが他と群れることなく
静かに咲いている。

その佇まいをいいなと思った。


さて、停まって道を確かめたいが
停まるところがない。

どうしようかな。

昔、住んだまちを通り過ぎる。
記憶を頼りに走ってみるか。

昔の記憶を呼び起こす。

聞いたことのある街の名前。
あまり知らない街の名前。

インターの名前で
今、どの辺りを走っているか想像する。

一番、家に近そうな方向に向かう。

ここでいいか。

名前は知っているけれど
住んでいた頃にはなかったインターを降りた。


ここは、どの辺りなんだろう。

降りてすぐのコンビニに入る。
お手洗いを借りる代わりにカヌレを買った。

カヌレと言えば思い出す人がいる。

元気かな?
わたし、ここまで来たよ!

スマホのGPSで自分の位置を確認する。
昔はよくスマホ無しで旅に出られたものだ。

家までの道を確認する。

日はかげろうとしている。
視界が橙色に染まってくる。

着く前にガソリンを入れることにした。

スマホで道を覚えたつもりなのに
何度も何度も道を間違える。

疲れると覚えていられないんだ。

笑ってしまうくらい
忘れてしまう自分の頭に
1日走って疲れてるんだなとしみじみ思う。


結局、散々道に迷って
よく知ったガソリンスタンドに着き
ガソリンを満タンにして
実家へと向かった。

無事に走り切れた。よかった。






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