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バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その13


走っている。

道を曲がりそこねて。
Uターンできない自分が悔しくて。


さっき通った
十里木の別荘地。

いつも雲に覆われている。
湿った空気がたまる場所。

今日は、霧はなかった。

が、わたしは
深い霧の中にいるようだった。



下りながら走っていくと
道は、右に曲がるよう促している。


行ってしまおう。


右に逸れる。

ここまで来たら、走ろう。
気が済むまで。


道は、様子を変える。
山あいの道。

周りは木々が続く。
でも、昔とは違う道。


昔は、森の中をくねくねくねくね。

「走ってたら酔いそう。」

ツーリングコースの下見で
一緒に走ってくれた人が
XJR1200でウンザリしてた。


わたしは、この道が大好きで
木々の中、他に車もなくて

うっそうとした森の中を
いつまでも、くねくねくねくね走った。


こんなにカーブが細かいと
大型車はめんどくさいのかな?

250ccに乗っていたわたしは
得意な道を見つけたみたいで
大喜びで、ワクワクしながら走ってた。


そんな大好きな道も
行くたびに改修されて

木が切られ
切り株が点在し

森にひっかき傷のような
茶色い地面が直線に削られて

そこが舗装されて
道が作られていった。


行くたびに変わる道。

昔の大好きだった道が
Cの字に寸断され

その真ん中に
真新しいまっすぐの道が通る。

Cの字の細道は
森の中でひっそりと

昔、道だったことを
知っている人にだけ伝えている。


その寸断された道を
右に左に森の中に見つけるたびに

大好きだったあの道が
もうこの世にはないことを実感する。



当時は
そんな新しい道も一部だったけど・・・


17年経った今
道はどこまで走っても広く
カーブは緩やかだった。


木が近くになくて
少し遠目からわたしたちを見てる。

道端のススキが
わたしたちが通ると
驚いたようにザワザワと揺れる。


カーブが緩やかなら
飛ばせるだけ飛ばそう。

車はいない。


少し、日が傾いてきたのか
心の中から
また色彩が消えてしまったのか

水墨画のような
灰色の濃淡しかない景色を
切り裂くように走る。

風は一気に鋭さを持つ。

風も対抗してきているようで
優しさが感じられない。


富士山は
木に阻まれて見えない。


走る。

頭を空っぽにして
ただ走る。


信号もなく
森を分断してできた道を

右に左にカーブをさばき
アクセルは、開けられるだけ開けて。


道は高速コーナーが続き
路面も申し分ない。

本当なら
ワクワクするはずの
出来たてのようなきれいな道で

こんなにも
何かを吹っ切るように走っている。


なぜ?

何のために?


そんなことを
考えられる余裕はなかった。



道が上る。

上った先の交差点。

右は富士山に近づくような
地名が書いてある。

一瞬

そっちに曲がりたい

そんな気持ちに駆られたが

知らない道を走れるほど
心に余裕はなかった。

交差点を直進し
下りながら、先に進む。


しばらく走ると
左手に遥か下の景色が広がる。

大好きな場所。

いつもは
通り過ぎてしまうので

停まればいいのに
アクセルを緩められない。

なぜ、こんなに必死に
アクセルを開けているんだろう。



直線の国道から
また右に逸れて、県道に入る。



走って走って走って・・・


気づいたら
よく知っている交差点に来た。


ここは・・・


あの富士山五合目の先。

バリケードで封鎖された先と
つながっている道。


このガソリンスタンド。


信号が赤で

ようやく停まって
地面に足をつく。


右を向き
その先の五合目と
バリケードされた道を思う。

ガソリンスタンドが赤い。

一気に色彩が戻ってきた。


懐かしいスタンド。


信号が青になったけど
懐かしすぎて
渡った先でバイクを停めた。


振り向いて
通り過ぎたスタンドを見つめる。


変わってない。


懐かしすぎて、写真を撮った。


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我に返ったように
走ってきた道を思い出す。

どうする?
そろそろ戻る?


ここまで来たら寄りたい。

17年ぶりのあの場所へ。



ここから先は
17年前と変わっていない。

木立の中に入る。
(入り口だけ工事をしていた)

木々がすぐ近くにいる。

昔からある
森の中の道を走る。


懐かしい。

噛み締めるように走る。


さっきよりは
細かくなったカーブを
右に左に抜けながら

時に軽く下り
また、軽く上りながら
一本道を走る。

見慣れたキャンプ場の看板。

森がふと開けて
広がっている草はら。

奇石博物館の大きな文字。
やまぼうし。喫茶店の看板。

直線の最後、
大きく道が左に曲がり
上井出インターに向かう
そのカーブの正面。

そこにあった。
17年前と変わらずに。


富士宮白糸スピードランド


わたしのホームコース。
わたしの青春。

かけがえのない時間を過ごした場所。



バイクの音がした。
誰か走っているようだった。

バイクを停め
ヘルメットを脱ぐ。

コースの方に行ってみた。


貸切みたい。

知り合いが
数人で走っているようだった。



富士山を見る。


いない。


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いつもなら
この雲のところにいるのに。



サーキットから
富士山を見ていた。

いつも。

富士山は近くて
うちから見える富士山とは
山の形が違っていた。

てっぺんが
切り立っている。

左右の裾野の
傾きが違う。

傾斜が急なので
雪の残り方が少ない。
(白い部分が少ない)


いつも見ていた
富士山を見て

心を落ち着けようとしたのに。


いつもの場所じゃないような
そんな心もとなさを感じて

しばらく立ちつくしてしまう。



また、我に返って
事務所を覗いてみた。

事務所は空っぽで
オーナーさんはいない。


トイレを借りると
水洗トイレになっていた。

オーナーさんが
いつも、とてもきれいに
トイレを掃除していたことを思い出す。

あの時も
白髪のおじさんだったから

お元気なんだろうか。

17年前を思い出して
17年という月日を感じる。

でも
トイレがきれいなことで安心する。

きっとお元気でいらっしゃる。

そう確信した。



3時をまわっている。

戻ろう。
元、来た道へ。

戻った時
元気が残っていたら

曲がりそこねた道を曲がろう。


ようやく
心の焦点が合ったような

血が通ってきたような
そんな面持ちになる。


バイクのタンクに手を置く。

付き合ってくれて
ありがとう。


周りもまた色づく。

濃い緑色の森の中に
真っ直ぐ消えていく道を見つめながら

車の流れが切れたところに入って
ゆっくりと走り出した。






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