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九州ツーリング その3 伊那


中央道を長野に向かって
バイクを走らせている。

大気は暖かく、風も優しい。
周りは花々が見事に木々を色づかせている。


夢のような景色だなぁ。

この時期に走ることを選んで
本当によかった。



次の休憩場所は…

と思いながら快調に飛ばす。

高速を降りた後の行程を考えていたら
八ヶ岳と書いた看板と絵
同じ形でそびえ立つ八ヶ岳が目に入った。

頂きに白い雪化粧をほどこしている。
美しい景色だ。


写真を撮りたいなぁ。

八ヶ岳パーキングエリアに停まることにした。


駐輪場を探し、すぐに写真を撮る。

八ヶ岳パーキングエリアからの景色


少し回り込んでしまったようだ。
高速は停まれないから仕方ない。


陽射しがはっきりと感じられる。
日焼けしそうで、日かげを探して座る。

おやつタイム。

干しいもを見つけた!


だんだん標高が上がり
また空気が冷たくなってきた。

温かいお茶はありがたい。

のんびりと目の前の八ヶ岳を眺めながら
次に走る道のことを考えていた。


『伊那に行くなら
 R152で高遠を抜けるといいですよ』

ルートを考えていた時に
アドバイスをもらっていた。

諏訪で降りた後
R152までの道をおさらいする。

『道なりで行けますよ』

言われた言葉を思い出す。


こんなに何度も曲がるのに
道なりって…

無責任にも聞こえるその言葉は
行ってみると本当だった。


中央道最高地点辺りは7℃だった。

また冷えてきてるな。

そう思いながら、一気に下っていく。
カーブが続く。楽しい。

体が高揚して温まる。
楽しさって大事なんだなぁ。

諏訪を降りた。
高遠の文字と152の数字を探して走る。
右に曲がり、高架下で高遠の看板。

登っちゃダメってことね。

高架脇の側道を走り、高架下で右折。
走るとすぐに152の文字。

ここは、すでに国道152号線なのか。

青看板通りに左折。
すると、右折の看板が現れた。

いよいよ152だ。
本当に道なりだったな。

あの時
「道なりって…」と
呆れたように言ってしまったことを
申し訳なく思う。

今度、謝ろう。

そう思いながら、152に入った。


道幅は広く、すぐに上っていく。

地図で知っていたが
くねくねとカーブが続く。

つづら折れのカーブをこなすと
一気に下界が遠ざかっていく。

道幅とカーブの形状はいい。
でも、この色は…

道路が白いのだ。

砂が浮いているように見える。
でも砂は全面に浮いていることはあまりない。

すると塩カルか。
凍結防止にまく塩化カルシウムは白い。

塩カルは初めは粒状で
結晶の形をしてまかれているが
ここは完全に細かい砂状だ。


塩カルって滑るんだっけ?

雪国に暮らしたことはないから
知識がない。

なければ試せばいい。

少しブレーキを強くかけたり
少し車体を深く傾ければわかる。

でも、このバイクで
やりたいとは思わなかった。

砂と同じで、滑る想定で走ろう。

無茶はやめた。


バイクはあまり寝かさず
加減速を穏やかにして
丁寧にカーブをこなしていく。

夏にまた走りに来たいなぁ。

そう思いながら
スマホの地図で目星をつけていた
峠の茶屋に着いた。

写真を撮る。

下界が遠い


こんな景色を眺める瞬間が好きだ。


自分の力でここまで上ってきた。
たった一人で。バイクとともに。

バイクと一緒なら
どこにだって行ける。

頼もしい旅の友だ。

一人旅が好き。
好きな景色を好きなだけ眺めていられる。

凍結を心配していたここまでの上りを
無事に通過できたことに
心からホッとしたのだった。


バイクをスタートさせて下っていく。
ここからは緩やかな下りを
延々と下っていくはずだ。

地図から道路の様子をイメージしている。

山のくぼみ
元はひだのように折れた部分に
長い年月をかけて水が流れ込み
山を削っていくのだろう。

川が生まれる。
川の周りに人の住める平地ができてくる。

そこに人が住む。
そうして集落ができる。

集落の誕生を想像する。
そういうことなんだと思う。


人のいるところの方が桜は多い。

人の手により在りしものは
人の住むところにしかあらず

桜が人とともにあることを感じる。
ここは見頃だ。

そこここに咲く桜は
何の種類なのだろうか。


行きとは違い
なだらかな道が続く。

次の町に名前が変わる。

どこまで続くのかと感心するほど
山あいの町は続く。

穏やかな町なみ。
人はあまり見かけない。

田畑と桜。
両側には山が続く。

いつのまにか空は青い。

柔らかな陽射しの中
どこを向いても桜が目に入る。


高遠はどこだろう?

そう思った頃
《高遠城址公園》の文字が見えた。

娘にはLINEでその辺りに行くと伝えていた。


あれ?見慣れた色の自転車。

対向車線を上ってきた自転車に
見覚えがあった。

夫だ。

通り過ぎながら
ブレーキをかけて路肩に停まる。

近くに車をとめているらしい。
誘導されて右側の広場に行く。

バイクを停めて降りると
ピースが飛びついてきた。

家族と合流だ。

「おつかれさま」
息子に声をかけられる。

娘はもう怒っていない。

バイクカバーをリュックから出して
車に積んでもらった。

『先に走った方が前が見えるでしょ?』

夫に言われ、先を走ることになった。

道を確認する。

カッコよく走れるかな

と思いながら先に出た。


少し走ると、色の濃い桜並木が
そこだけ見事に満開だった。

急に停まっていいものか悩んで
通り過ぎてしまった。

明日また来よう。

川沿いに桜の木が延々と続いている。
まだ、どの木も咲いていない。

《にほんいちのさくらのさと》

川べりに大きな字が見える。

ここは、まだ早いんだ。

そう思いながら
今日一日走った道を思い出す。

桜が満開だった場所
まだ咲いていない場所

季節を行ったり来たりした気分。

こうやって時を越えられるのも
バイクの醍醐味だと思う。

南に下がるということは
これからまた満開の桜が見られるんだろうか。



さっき見た
ソメイヨシノとは違う濃い桃色の桜並木を
明日もう一度見に来たいな。

そう思いながら、結局行けなかった。


でも無事に長野に着けた。よかった。





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