バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その12
御殿場のススキ野原。
自衛隊の演習場。
ずっと来たかった場所に
ようやく来られた。
気が済むまで
辺りを見渡してから
バイクと富士山とススキで
写真を撮った。
いつでも
この景色が見られるように。
ここに来たことを思い出せるように。
もう1箇所、停まろう。
教えてもらっていた場所に向かう。
車の流れに乗りながら
ススキ野原を右に左に見ていると
いつも曲がる交差点に来た。
大野路の交差点だ。
あっ!コンビニができてる!
コンビニができてましたよって
帰ったら伝えなきゃ
と思う。
思わず
そのまま右折してしまったが
コンビニに停めたら
ゆっくりススキを見られたんじゃないのかな?
一瞬、後悔した。
曲がってしまったので
路肩を探す。
この道沿いに路肩がある
と教えてもらったから。
曲がってすぐに
路肩が広くなっていた。
後で
「ここだったんだ!」ってのは嫌だから
通り過ぎないように、慌てて停めた。
ここなのかな?
ここは、どうかな?
富士山の方を見る。
とってもいい景色。
富士山とススキがマッチしてて
惚れ惚れする。
10月だから
もう遅いかなと思ってたけど…
よかった。間に合った。
また、しばらく
富士山とススキを見つめる。
幸せな時間だった。
この後、どうしようかな。
満足いくまで景色を眺めて
ふと我に返った。
ここまで来たから。
せっかくだから、あの場所に行ってみたいな。
もう一つ、行ってみたい場所があった。
もう少しだけ。
そこに行ったら帰ろう。
右手はまだ大丈夫そうだから。
その先もよく知っている道。
きびすを返さず、先へ進むことにした。
上りを進む。
もっと路肩の広いところがあった。
ここを教えてもらったんだ。
きっと。
路肩の様子に覚えがある。
右を見ると
丘が盛り上がっていて
富士山が見えない。
今度来る時は
大野路のコンビニだな。
路肩に停まらなくてもね。
とってもいいところに
コンビニができてたんですよ。
とまた伝えたくなる。
そう伝えたいなぁと思いながら
思考を切って
目の前の道に集中した。
この上り坂は、昔から好き。
結局、高速コーナーが好きなんだ。
昔は車で通っていたから
実は、車でしか走ったことはないんだけど。
車でもバイクでも
好きな道は同じ。
きっと、共通してると思う。
路面が荒れてないこと
路肩に砂が浮いてないこと
それなりの道幅があること
カーブのRが緩いこと
右左とカーブが続くこと
道しか見てないので
周りの景色は同じじゃないかもしれない。
遠心力を感じながら走ること
この楽しさがたまらない。
だから
ある程度のスピードが必要だ。
加速することで得られる力と
遠心力で外側に引っ張られる力
この2つの力が
バイクの傾きで相殺されて
(合わさってるのかもしれないけど)
傾いているのに
車体が安定する瞬間がある。
シーソーみたいな?
傾いているのに
それ以上は傾いていかないみたいな。
その浮遊感が好き。
スピードが上がると
バイクは起きあがろうと
立ち上がってくるから
それを体全体で
車体を傾けようとする
その操作も好き。
まるで、バイクにも意思があって
自分の好きなフォームで
走りたいと思っているみたい。
カーブに入る瞬間
バイクが勝手にカーブに入っていく。
そんな瞬間がある。
バイクには意志があって
海沿いを流して走って
海を見たい時
山あいの道を自分の持てる全力で
走り抜けたい時
そんな気持ちを持って
走っている気がする。
だから、バイクの持っているポテンシャルは
発揮させてあげたい。
自分の腕のせいで
その力が出せないのは申し訳ない。
そう思うのかもしれない。
上り坂は前に車がいたので
そんなに飛ばして
走れるわけではなかったけど
バイクも気持ち良さそうだなぁ
と思いながら上っていった。
下から上がってきた道に合流する。
杉林の鬱蒼とした山道だ。
すぐに周りが開けた。
忠ちゃん牧場の前を過ぎる。
前に停まって
写真を撮ったことを思い出した。
新しい道ができている。
さっき通った道の地名が書いてある。
あそこに戻れるのかな?
そう思いながら、通り過ぎた。
信号を過ぎる。
富士サファリパークだ。
直進しながら一気に上る。
昔、4月にここから雪道になって
除雪車が入ってなくて
先に進めなくなって
こどもの国の駐車場で
遊んだことがあったなぁと思い出す。
上り切ると
クレー射撃場がある。
カーン カーン
クレーを撃っている音が
響く道をよく通り抜けていた。
今日は、音はしない。
その後、直線になる。
周りに紅葉する木が並ぶ。
たまに、緩やかなカーブがある。
こどもの国に来た。
こどもの国の端を曲がればいい。
安易にそう思っていた。
よく知っている道だから大丈夫。
そう過信していた。
こどもの国の….
この曲がり角かな?
教えてもらっていたのに
一瞬迷う。
こどもの国から遠ざかる。
下っていってしまう。
やっぱりさっきのところだ!
そう思うが
下りながらの細かいカーブが続いて
安全にUターンできない。
バイクのUターンは怖い。
事故の後遺症だ。
道路を跨いでのUターンができない。
こんなところで
事故のことを思い出すなんて。
一気に、心が暗くなってしまった。
動揺が抑えられない。
走る。
走ることに集中する。
自分の気持ちを鎮めるために。
走ると離れていってしまうのに。
自分を救える行為が
《走る》ことしかない。
そんな気持ちになって
目の前の道を走り始めた。
無心に。
ただ、走る。
ただ、走った。
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