九州ツーリング その11
九州へ向かう途中。
高知県四万十市。
四万十川の沈下橋が見たくて
ここに来た。
前に見た川の水、沈下橋の様子
どちらも頭の中の思い出とは違ったけれど
それでもいいや。
来たかったところに
無事に来られた。
そう思えた。
バイクに戻り、スマホを開く。
足摺岬
検索をすると、足摺岬に行き
今日泊まるホテルまで走るには
あと3時間半かかる。
今、16時だ。
1時間に一度、休憩しないともたない。
3時間半なら3回は休憩が必要。
一回に30分は休む。となると…
19:30に1時間半足す。
いくらなんでも無理だ。
いくら無謀なわたしでも
これが無理なのはわかる。
沈下橋をもう一度見る。
この選択が正しかったのかどうかなんて
誰にもわからない。
そう決めたんだから。
川面を見つめながら
自分の選択を肯定する。
このまま先に進めば
ホテルにはあと1時間で着いてしまう。
それはもったいないから…
少し遠回りをしよう。
いい道を探してみよう。
スマホにまた目を落とす。
さっき通り過ぎた県道に目を向ける。
その先を指でたどる。
県道50号線。
南下していて、少しホテルから遠ざかるけど
山道らしく、道がくねくねしている。
県道50号を下がって、突き当たったR56で
西に向かうことにした。
スマホのマップの欠点は
道の駅がクローズアップされていないこと。
休憩所を大体
道の駅にしているわたしにとって
拡大しても目立たない道の駅を
スマホ上から探すのはとても難しかった。
それが解消した。
幼馴染が地図をくれたんだ。
道の駅ならどこでも置いてるよと
渡してくれた紙の地図には
道の駅が大きくわかりやすく載っていた。
スマホから目を離し
ウエストポーチから地図を取り出す。
R56を西に進むと
宿毛市に入り、海に出る。
少し下がると海沿いに
道の駅すくもがあった。
次の行き先までの道順を頭に入れ
水筒をリュックから出す。
ここからはしばらく何もないだろう。
水分補給をして
高瀬沈下橋を後にした。
元来た道を戻り
トンネルをまたくぐる。
ほどなくして看板が見えた。
右折。県道50号に入る。
笑われるかもしれないが
いい道というのは
見た目でなんとなくわかる。
さっき迷って停まった時
「いい道だな」と思っていた。
砂の浮いていない路面。
適度な道幅。
ある程度、使われている感じ。
周りの景色の、人の手の入った感。
ここは抜け道として整備されたのかも。
同じく西に向かう2つの国道を
梯子のようにつなぐ道。
走り出してすぐ
楽しくてワクワクしてくる。
まず第一に、人がいない。
これが大事。
誰もいないところを走るのが好き。
そして、適当に道がカーブしている。
まっすぐを一直線に走るのは
北海道みたいな景色だからこそ。
バイクに乗る楽しさは
やっぱりバイクを操ること。
バイクは曲がる時に
より操る楽しさを体感することができる。
前輪に荷重をかけることによって
カーブが曲がりやすくなったり
後輪に荷重をかけることによって
前に進む力を
よりタイヤにかけることができたり。
腕の力を抜いてカーブに入ると
ハンドルが勝手に切れて
バイクがカーブを1人で走っていったり。
色んな操作をどのタイミングでするかで
バイクはより乗りやすくなったり
言うことをきかなくなったりする。
そうやってバイクと対話しながら
誰もいない山の中を
1人マフラーの排気音をあげながら走る。
山の緑。下草の青葉色。
空の青。雲の形と白のグラデーション。
いい道だな。
いい景色だな。
いい空だな。
いい風だな。
ずっといいないいなと
見えるもの感じるもの全てを
肯定しながら走る。
その時間のなんと幸せなこと。
国道に出て
また人の世界に戻るまでの間
つかのま、異世界を旅した。
国道に出た。
車が現れる。当たり前だ。笑
人の世界に戻ってきた。
しばらく
休憩所らしいところに停まっていない。
お手洗いに行きたくなっていた。
すぐに見えたコンビニで停まる。
中に入ると
なんと断水でトイレが使えない。
途方に暮れて
何も買わずに出てきてしまった。
さて、どうしよう。
この断水はここだけなのか。広範囲なのか。
広範囲なら
近くのコンビニは全部ダメだ。
一瞬悩んだが
断水はここだけ。そう決めて
次のコンビニでまた停まることにした。
次のコンビニはローソン。
ここはトイレが使えた。
よかった。
ほんとにコンビニは街のオアシスだ。
ここでも休憩せずに
すぐに国道に戻る。
R56をひたすら西に進む。
車の後ろについて
移動するために走る。
しばらく走り
R56とR321の交差点に来た。
慌てて、直進した先の
ファミマの駐車場に入る。
そのまま駐車場を通り抜けて
左折するはずだった道に戻る。
慌てて戻ったので
右から来る車がよく見えていなかった。
ぶつかりはしないが
邪魔になる形で、前を横切ってしまった。
こういう場面が危ない。
慌てると、周りが見えなくなるんだ。
落ち着いて!と自分に言い聞かせる。
周りが見えていない初心者みたいで恥ずかしい。
突き当たりを左折。
橋を渡り、また右折。
海沿いの道に出る。
淡路島の西側の道を思い出す。
なぜか懐かしさが込み上げる風景。
細胞のどこかが
この景色を覚えているような
そんな気持ちに包まれる。
西日できらめく海を見ながら
次に停まる道の駅を目指した。
道の駅に着く。
バリケード!!
また…
海沿いの道の駅が閉まっているのは
これで2回目だ。
見ると、ひと月ほどでオープンするみたい。
一瞬、途方に暮れてしまったが
気を取り直して、エンジンをかける。
元来たR321を海沿いに走る。
海の水が見えない。
海面が西日で金色に光っている。
気づけば周りもセピア色だ。
夕暮れが迫ってきているのか。
こんな四国の西の端で
1人、あてもなく走っているなんて。
なんだか可笑しくなってしまった。
そう思いながら
向こう岸の建物を左に見ながら
光きらめくまぶしい海の脇を走った。
だいぶ疲れてきた。
さっき来たばかりの道を思い出せない。
看板に書いてある通りに
左折、右折と繰り返し
さっき車の前を横切ってしまった
ファミマが見えた。
建物の脇に停める。
ようやくひと息つく。
東の空を見る。
対して、西の空。
こちらはだいぶ
夕暮れが近づいていることを
示している。
山の中に入るということは
トイレがないということなんだな。
昔、R193を
高松から室戸まで抜けたことを思い出す。
コンビニなんてなかった。
朝、高松を出て
室戸近くの国道にようやく出た時は
もう夕方だった。
19歳のわたしは
トイレも昼飯もどうしていたんだろう。
その頃、いつも
思っていた気持ちを思い出す。
バイクで走る。
それだけで充分だった。
あの時の無謀さも体力も
今はだいぶ無くなってきてるけど…
宿毛のファミマで思う。
家族を置いて1人で
神奈川から九州まで行くなんて
まだまだ充分
無謀なんじゃないのかと。
気が済むまで休憩をして
ホテルを目指す。
17時。
宇和島のホテルまであと1時間。
楽しかった県道のおかげで
沈下橋も足摺岬もどうでもよくなった。
寄り道してよかった。
いい道かな?と思う直感は当たっていた。
あとは、ホテルに向かうだけだ。
バイク乗りは
走ってさえいれば、それでいい。
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