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バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その7


富士山スカイライン

今、ゲートをくぐったこの道は、そう呼ばれている。


昔は有料だったらしい。

ゲートがそんな造りをしていた。


今は無料で走れる。

24時間通っていいみたい。
(冬は通行止めになると思う)


そんな誰もいないゲートをくぐり、上り坂を走り始めた。



『上り車線、停車禁止』


上りは停まらないでください?

って、下りはいいの?
なんで、上りだけダメなの?


色々、疑問が湧く。


まぁ。停まると危ないしな。


ダメなんだってことだけが、頭にインプットされた。



この道、大好きだった。

なんでって、ほんとにくねくねしてるんだもん。


そして、くねくねがずっと続く。

こんな感じ。


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曲がるたびに、標高が上がるのがわかる。
下界から遠ざかるのを実感できるのだ。



富士山を登っている。


富士山、見えないかなぁ。


走りながら、周囲を見渡す。
山肌に沿って走ると、近すぎて見えない。


ここも車はいない。
対向車もいないので、安心して景色を堪能する。




木々の中を走り抜けながら、ふと視界が開けた。


ハッと目を奪われた。


富士山だ!
なんて間近に。なんて華やかに見えるのか。


雪をまとっていない富士山。

全体は、陽に当たって赤茶色に見える。
明るい土の色だ。


ふもとの美しさは、なんと喩えたらいいんだろう。

橙と黄色と緑の色鮮やかなスカートを身にまとっているような華やかさ。

紅葉した木々が富士山の裾を包んでいる。
目を奪われるような美しさだ。

全体にお日さまが当たって、はっきりとした色彩で輝いている。


写真を撮りたい!


切実に願った。
走りながら、「停まりたい!」と思った。


でも、停まらなかった。

さっきの看板がわたしを止めたのだ。


しばらく、悔やんだ。


車だっていないのに。
なぜ、停まらなかったのか。

あの景色を帰ってもまた見られるように、どうして写真を撮らなかったのか。


心奪われるほどの景色に高揚している自分と、写真に収められなかったとっさの正義に負けた自分とが、ないまぜになったような気分で、少し走って・・・


すぐに、気持ちを切り替えた。


帰りに、撮ろう。


下りは禁止してないから。

だから、大丈夫。


悔やむ自分を納得させ、「素晴らしかったよね。」って思う自分に相槌を打ち、今見た景色を忘れないように脳裏に焼き付けて、前を見て、バイクに意識を戻した。



前半の流すようなワインディングとは打って変わり、バイクで登山しているような、つづら折れの道。


Uターンのように、回り込んだカーブを曲がる。

スピードは出せない。
転ばないように、タイヤにトラクション(駆動力)をかける。


上りは、主にアクセルでトラクションをかける。

コーナー中もアクセルは閉じない。
少なくとも、パーシャル(少し開ける)で走る。


知っているコーナーなら、オーバースピードで入って、ブレーキをかけながらコーナーに入り、インについたらアクセルを開けて… なんてメリハリのある走り方もできるけど。

路面もコーナーの形状も覚えていない道ではできない。

だって、危ないもん。


そう思いながら走っていたら、4スト(4ストロークエンジン)の良さをまた実感した。

4ストは、エンブレ(エンジンブレーキ)で、アクセルのパーシャル状態と同じような車体姿勢と荷重の塩梅を作ってくれる。


車体が安定するなぁ。


4ストだからなのか。
このバイクだからなのか。

それはよくわからないけど。


コーナーでトラクションが抜ける感じがしない。

常に、リア側に地面とのミュー(摩擦係数のこと。一般的には路面の滑りにくさを例える)を感じる。


アクセルを開けると、より際立つ。

コーナー立ち上がりが、最高に楽しい。


これは、いいなぁ。
いつまでも走れそう。


そう思っていたら、次のコーナーの最もインに寄ったあたりで、突然、フロントタイヤが滑った。


あっ!転ぶ!


ハンドルに強く捕まってはいないので、滑った方にバイクを逃がす。

傾いたバイクごと、横にスライドしてずれる感じ。


一瞬で、地面を食っている感じが戻った。


路面とのミューが、一瞬落ちた。


なぜ?


ドキドキしながら考える。



路面のコールタールが原因だ!


ここの路面は荒れ方がひどい。
黒い線が、コーナー中にもずっとあった。

路面のひび割れを黒いもので補修している。
おそらく、コールタールだ。

コールタールでひびの表面を覆い、黒い線となってそこらじゅうに模様を描いている。

その進行方向に進む黒い線上に、フロントタイヤが乗ったのだ。



危なかったぁ。
黒い線は滑るんだ。


白線は滑るので、普段から気をつけているけど、進行方向に補修されている黒い線も気をつけないといけないんだ。

身にしみて実感する。



さて・・・
この後のコーナーが怖くなる。


路面の黒い線を避けて走る。

バイクに垂直に走る線は踏む。
ブレーキをかけずに踏む。

バイクを倒し込んでいる時に、バイクの進行方向にある黒い線は踏まない。

タイヤの接地面が全部コールタールにはならないように気をつける。


なんか一気に余裕なくなってきたなぁ。


路面を見るのに忙しく、周りをあんまり見てられない。


それでも、アクセルを開けているときは少々滑ったって転ばないので、コーナーのインについた時だけ気をつけて…

立ち上がりはワクワクと加速しておいた。
緊張ばっかりしてても、楽しくないからね。



上に上がるほど、路面のひび割れはひどくなるような気がするけれど…

有料でいいから、道路の整備してくれないかな。


そう思いながら、左カーブを曲がった。

右側の視界は文字通り何もなくて、転んで滑ったら路肩から下界に落ちそうなカーブを曲がったら…


また突然、富士山が見えた。


路肩が広い!


ここなら、停められる。


道路脇にバイクを停めた。



ヘルメットを取って、振り向く。


これは・・・


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雲の上にいるのか?


少し下って、振り向いてバイクごと富士山を見た。


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紅葉が綺麗だ。


視野を広げる。


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富士山のてっぺんがすぐ近くにある。


あぁ。いい景色だなぁ。


木立の脇で、駐車スペースでもないところなんだけど、ここにいることを幸せに感じる。


心地よい時間が流れる。



バイクが一台通り過ぎた。
次の右カーブでさらに登っていく。


そろそろ、五合目が近いのかもしれない。

そういえば、駐車場らしきものが見える。


木陰から、爽やかな風が吹く。

どこまでも青い空と沸き立つような雲。
色鮮やかな紅葉と赤茶色の富士山。


この色のコントラストの素晴らしさ。


いつまでも、ここにいたい。


雲を見おろし、空を見上げ、富士山に見惚れながら、一人、道端にたたずんでいた。



そろそろ行こう。


ヘルメットをかぶり、グローブをつけて、バイクにまたがる。

キーを回し、エンジンに火を入れて。


行くよ!


バイクをスタートさせた。

いよいよ、五合目だ!






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