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九州ツーリング その8


夢のような時間だったな。


さっきまでの余韻を楽しんでいる。

南阿波サンラインを走り切ってきた。

ここの人たちは幸せだな。
走って数分であんな絶景を見られるなんて。

わたしが家から走って
いい景色を見ようと思ったら
1時間以上走らないと見られないと思う。

いいなぁ。
こんなとこに住みたいな。

今日一番、いや
もしかしたら今回の旅一番の
お気に入りの道を見つけたかもしれない。

その嬉しさと
そこを離れていく寂しさが
ないまぜになって
何ともいえない気分で
ただ辿るように国道を走った。


R55は海沿いに入った。

車がずっと続いていて
ペースはそれほど上がらない。

道の駅を見つけていたので
そこで休むことにする。

道の駅 宍喰温泉

海の目の前

隣のホテルで温泉に入れるらしいが
先を急ぐので入らない。

建物に入り、食べ物を探すが
つまめるものはなかった。

2階に上がり、今日3つ目の阿闍梨餅。
賞味期限が今日までだからいいんだ。

この空間にわたし一人

ここはDMVという
線路でも道路でも走れる未来の乗り物を
町中で推しているみたい。

畳の休憩所まであった!

DMVの歌が流れていた。
なかなかいい歌だった。
わかりやすくて、気に入ってしまった。

誰もいない休憩所で広々と休む。

田舎はいいなぁ。

1人でのんびりできるのが何より嬉しい。



さて、そろそろ行こうか。

今日は室戸岬を目指す。

午後をかなり回っている。
今から岬を目指す人はいないようだ。

誰もいない。
おかげで一人、快適に飛ばせた。

ワインディングが海沿いに続く。

南阿波サンラインとは違い
波をかぶるのでは?と思うほど
海に近い。

海がずっと左手に見えている。
海の色が神奈川とは違う。

エメラルドグリーンと言えばいいのか。
青ではない。緑がかっている。

南の海は色も違うんだな。

車もいない。人もいない。
信号もない。

怖いのは町の人が道路を横切ること。
信号がないからだろう。

カーブの先で
人が渡っていても見えない。

曲がってすぐに
工事で車が停まっていることもあった。

気をつけて走らなきゃ。

そうは言っても
適度なカーブと見晴らしの良さに
ワクワクしてしまう。

たまに、わたしを戒めるかのように
車がゆっくり走っている。

でも、その車の人たちも
わざわざ路肩などに避けてくれる。

抜いては左手を挙げて礼を伝える。

たった一人。
静かだけど、心踊る時間が続いた。


どちらが先だったろうか。

対向車線からバイクが来た時
手を振り合うようになった。

ポッと心が温かくなる。

こんな午後もだいぶまわった頃に
岬に向かうバイクなんていない。

向こうから来るってことは
室戸岬を通り抜けてきたんだ。

室戸にバイクで向かう

同じ目的で走っていると思うだけで
仲間のような、同士のような気分になる。

不思議なもんだ。

岬に着くまで
向こうからバイクが来るたびに
思いっきり手を振った。


幼馴染に教えてもらった
水族館や洞穴を過ぎる。

もうすぐだ。

それらしい場所に来た。

前に車で来た時に
通り過ぎてしまったので
間違えないように手前で停まる。

記憶と違う。

昔は《室戸岬》と掘った石が建っていた。
その前にバイクを置いて写真を撮った。

記憶では
石の手前に駐車場があって
そこに吸い込まれるように停まったんだ。

そこで話しかけた人と
その後二日間、ともに走った。

懐かしい思い出だ。


記憶とは違うが
石のない駐車場にバイクを停めた。

同じタイミングで隣に停めた車から
年配の方が出てきて

『さっき、ここからすぐ行ったとこで
 バイク捕まっとったで』

と教えてくれた!

なんと有難い。
すぐにお礼を言った。

一緒に海岸に向かう。

『足悪いで、先行き』と言われ
会釈をして、先に行かせてもらう。

岩がゴロゴロしているところに出た。

縦縞のある岩

やっぱり記憶と違う。
こんなところじゃなかった。

場所が違うのだろうか。

せっかくなので
一番高い岩の上に腰かけて
またおやつを食べた。

今日何個目!笑
甘いものの後はしょっぱいものが食べたくなる

時間を気にせず、気が済むまで
のんびり海を見る。

この時間が大事。

ぼーっと何もせずに海を見ていると
「よし!」と思う瞬間が来る。

充電完了だ。
これでまた走れる。


そのまま進んで行ったら
有名らしい木があった。

アコウの木

近くの人が
この木のことを話している。

有名なのかな?

道路に出たらわざわざ看板で
この木のことを知らせていた。

生命力に満ち溢れた木だった。


坂本龍馬かな?

道路ギリギリにせせり立っている

大きな銅像が道路沿いにある。
やはり記憶はない。

クジラもいた。

これは昔はなかったと思う

自販機に温かい飲み物があった。
水筒に移してホッとした。


バイクにまたがって走り出す。

あっ!あの石だ!!

ひとつ目のカーブを曲がったところに
写真を撮った石があった。

その先の歩道に
慌ててバイクを停める。

歩いて戻った。

懐かしい。ここだ!

懐かしすぎる!!

あったんだ。ちゃんと。
記憶は本当だったんだ。


何年ぶりになるんだろう。

19歳の自分と
出会った気がした。


バイクは静かに待ってくれている。

ありがとう。

ここにまた来られたことを
しみじみと実感しながら
捕まらないように気をつけて
バイクを発進させた。


海は相変わらず左にあるが
西に見ながら北上する形になる。

海の色が変わった。
西日に照らされているからだろうか。

海面が光って海の色がない。

岬までの東側で見た
エメラルドグリーンが見えない。

陽が落ちてきているなぁ。

暗くなるまでに着きたいが
一気には行けない。


R55をひたすら走る。

安芸市の手前、海沿いに
大山という道の駅があり、休憩で寄ったが
まさかの更地になっていて驚いた。

ここで停まれないと辛い。

もう一度、R55に戻り
すぐに見つけたコンビニに入った。


イートインがある。

鉄分と甘いもの


コンビニは街のオアシス

たしか、そんなフレーズがあったような。

本当にそう思う。

お手洗い
温かいお茶
色んな食べ物
休むところ

全て揃っている。

19の時は
コンビニに停まった記憶がない。

コンビニがなかったのか
そもそも休憩してないのか。笑

いよいよだ。

最後の休憩を終え
コンビニを後にした。


南国の風は暖かい。

陽が落ちてきても
冷たい風が首元に来ない。

南に来たんだなと思う。

安芸市を過ぎた後
広大な浜辺を目にする。

規模が違いすぎる。

どこまで続くんだろう。

写真に撮りたい衝動に駆られる。

停まれそうなところがなく
目に焼き付けて、そのまま走りすぎた。


バイパスが右に現れた。
けっこうな車が右折していく。

早く着くかもしれない。
でも、なるべく町を見たくて旧道を走った。

途中、気になるところ
《道の駅やす》があったが
停まるとさらに遅くなるので通過する。

跳ね上げ橋が近くにあると
さっきのコンビニに置いてあった
フリーペーパーが教えてくれていた。

もう少し早かったら
停まって見に行ったんだけどな。

午前中の南阿波サンラインを思い出す。
あそこで、楽しい時間を満喫し過ぎた。

いいんだ。
あの時間が何より幸せだったんだから。

道路が1車線から2車線に変わる。
都会に入ったしるしだ。

車が一気に増える。
R55がそのままR32に名前を変える。

どこかで曲がらなければならない。

3車線はあったろうか。
広い道路を目的の交差点名を頼りに
車の流れに乗って走った。


無事に右折する。
景色は一気に変わる。

周りに田畑のある
どこまでも続く直線を走り
スマホのナビに惑わされながら
なんとか幼馴染の家に着いた。

19の時も停めてもらった家。

覚えていたのは
居間のソファだけだった。




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