ひと駅分の「大好き」を聞いた話
わたしはよく道をたずねられる。
どんな場所でも部屋着のような格好をしているし、急いでいないからなんとなく聞きやすいのだろう。
すこし前にも、駅で20代半ばくらいの青年に話しかけられた。いつもと様子がちがったのは、話しかけられたといっても「三鷹まで何分ですか。この電車ですか」と入力したiPhoneのメモ画面を見せてきたことだった。彼は聴覚に障がいがあるようだった。
「この電車で5分くらいです」とわたしも入力した画面を見せ、吉祥寺に行くところだったので目の前に止まっている電車に一緒に乗り込んだ。座席に並んで座り、そのまま画面を見せ合うおしゃべりを続けた。
「野球は好き?」と聞かれたので「まあ普通」と答える。彼は野球が大好きらしく、特に西武ライオンズが好きで、その中でも特に松井稼頭央が好きなのだとニコニコと画面に入力する。
「松井のすごいところはどこ?」と聞くと「松井の腕の太さがすき」と答えるので、プレイじゃないのかよ、と笑いそうになるが、ニヤニヤしつつ堪える。
その後彼がうれしそうに「西武の松井稼頭央選手は体重が85キロ」という文章を打つときにすべて予測変換で出てきたので堪えられずに吹き出し、なんでその文がスムーズに出るのよ、何に使ったんだよ、と笑ったわたしを見て、すかさず見せてきた彼のiPhoneのカメラロールがほぼ松井稼頭央だったので、たまらずに爆笑した。
笑い声がでたのはわたしだけだから、突然ひとりで笑ったみたいになって車内の乗客全員から注目されたので、「ずるいよ」と文句を入力して彼に見せたところで吉祥寺に着いたので、じゃあねと先に電車を降りた。
たったひと駅分で笑わされてちょっとくやしかったけど、何かをめちゃめちゃ好きだっていう気持ちは本当にすごいな。
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