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#コンテンツ会議

星野源『Family Song』と家族の話

星野源『Family Song』が発売になった。 発売前のMVをふと観てなにげなく聴いたとき、ふわー!と、何とも言えぬ多幸感に包まれて自分でもおどろいた。 ちょうどお盆だった。 毎年、お盆と年末年始はなんとなく家族について考える時期だ。 我が家では、物心ついたときから父も母も親戚とは縁がなかったので、わたしには会える親戚がいない。子供の頃から自宅は賃貸で、現在はわたしの借りている部屋に母も一緒に住んでいるため、実家というのも存在しない。 まあこれはこれで気が楽で、イヤ

『ボクたちはみんな大人になれなかった』で、言葉はヒーローになった。

喫茶店で、となりのテーブルにいた5歳くらいの男の子が、右手になにかしらのヒーローを持ち、活字では表現しがたい男児独特の擬音語を発しながら、空を飛ばせたり敵と戦わせたりしていた。 わたしはその隣で『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んだ。 モノクロでもセピア色でもなく、気だるくぬるい紺色の映像が頭のなかで再生される。背景にはずっと音楽が流れている。小沢健二が、ジョンレノンが、ジャミロクワイが、バネッサパラディが、テレサテンが、UAがきこえる。匂いもする。エクレアの

しいたけ占いとソールライター展

今大人気の「しいたけ占い」の2017年下半期の占いが公開された。 しいたけて。と、すこしバカにしながら今年のはじめに2017年上半期の占いを読んでおどろいた。これ、占い?わたしのこと知ってる人が書いたんじゃないの?ていうか、わたしが書いたんじゃないの???と。 まあその当たるとか当たらないとかは各自で確かめていただくとして、わたしがおどろいたのは、しいたけさん(35歳 調子がいいと平井堅似の男性だそうだ)の言葉だ。 たとえば、 2017年の下半期、あなたはただワクワク

編集、コミュニティ、おすそわけ

今年に入ってから半年間、わたしは勉強をしている。 コルクの佐渡島さんが主催している「コルクラボ」というコミュニティ運営について学ぶ場に参加していた。 編集者の佐渡島さんがコミュニティについて学ぶのは、クリエイターから作品を引き出す従来の「編集」に加えて、今後、編集者は作品を届ける先のことまで編集しないといけないという仮説のもとだった。そして、その届け先を編集、デザインすることを「コミュニティをつくる」としてすでに実践している。 わたしはこのラボで、コンテンツ論や編集につ

『冷凍都市でも死なない』わたしのひとり暮らしのこと

10歳のころから「ひとり暮らしがしたい」と思っていた。はやく自分でお金を稼いで、自分ひとりの空間で生活をしたいと願っていた。 東京出身なので「18歳で東京に出る」という目標もたてられず、高校生になって進路を決めるときは、ひとり暮らしができる方法として「早く仕事に就けること」だけで、専門学校に決めた。(北海道の大学に行く案もあったが、より早い自立を選んだ)内容は正直なんでもよかった。 しかし、19歳のとき、あと1年半で自立できるというときに父が倒れ、その後4年間の入院生活を

小沢健二の「もしも」と、浅田真央選手とあの子の決断のこと

浅田真央選手が引退を発表した昨日、時同じくして、うちのあーちん(14歳)が中学の部活を辞めた。 昨日、帰宅後にあーちんが「こういうことをしたい(絵を描く時間をつくること)から部活を辞める と自分が思ってることを話したら、部員のみんなが『あーちんが決めたことだから応援するし、これからも演奏会とか観にきてほしいし、部のみんなでディズニーとか行くときは誘うね』って言ってくれた」と、泣きながら報告してきた。わたしは「よかったね」とだけ返事をした。 思えば、これは彼女にとってはじめ

4月の憂鬱に、Google Earthとプチ哲学

4月に入り、東京はようやくあたたかくなってきた。分厚いコートを脱いですこし薄着になった肌にあたるぬるい風や、植物の気配のあるすこしほこりっぽいにおい、あたたかい日差しをあびた桜の花の生命力、新社会人たちの新品のスプリングコートの張りを見ては、すこし憂鬱な気分になる人も多いのではないかと思う。季節の変わり目のなかでも特に冬から春になるときの変化は、まるですべてが変わるようで、ついていけない人が多いのもよくわかる。 思い出すのは、娘のあーちんが小学生だったときのことだ。彼女の学

『木皿泉』に見る、わたしのすきな夫婦のかたち

木皿泉という脚本家がいる。 ドラマ『すいか』『野ぶた。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』などを手がけており、『木皿泉』とは、和泉 務さんと妻鹿 年季子さんの共同ペンネームだ。 わたしはこの脚本家のドラマがだいすきで、書いたのはいったいどんな人なんだろうと思っていた。のちに発売されたエッセイ『二度寝で番茶』でおふたりが夫婦だと知った。和泉さんは2004年に脳出血を煩い、妻鹿さんは2007年にうつ病を発症され、その年にご結婚されたというので驚いた。(当時、和泉さん5

「分人主義」は、中学生の必須科目にしたらいいと思う。

平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』を読んだ。本の感想や紹介は苦手なので、読んだときの心の動きを、アホみたいにそのままお見せしよう。 「個人」を、さらに分けて「分人」という単位で自分というものを見て、人間関係を考える。ふむ。 一人の人間は、複数の分人のネットワークであり、そこには「本当の自分」という中心はない。 コミュニケーションは他者との共同作業である。会話の内容や口調、気分など、すべては相互作用の中で決定されてゆく。 つまり、人によって態度がちがうのは

『カルテット』から見るドーナツの穴の話

今話題のドラマ『カルテット』のなかでこんな台詞がある。 音楽っていうのはドーナツの穴のようなものだ。 何かが欠けているやつが奏でるから、音楽になるんだよね。 (『カルテット』1話より) このドラマの登場人物にはそれぞれに穴がある。 真紀(松たか子)は結婚3年目にして夫が失踪してしまった。すずめ(満島ひかり)は実父を許すことができない。別府(松田龍平)は世界的指揮者の孫という音楽一族のなかで芽が出なかった。家森(高橋一生)は離婚をして子供と離れてしまった。そして4人と