広告業界の罪深さ

自分は30年以上お世話になってきた仕事だけど、やっぱり広告業界って変わってるよね。
人の気持ちがどういうことになびくか、とか、いいと思うか、ということを、大のオトナが集まって話し合って、意図的に狙う商売。広告表現や拡散に「影響力」という言葉で桁違いの大金が動いている。ヒトの気持ちを動かすことがビジネスなんだから、エゲツない。
たとえばテレビCMなんてスポット1本単価は50万円かもしれないけど、じゃあ100万円で2本お願いします、なんて言ったらバカにされて断られる。億単位のお金を用意できる企業じゃないと。

広告代理店というのは本来、スポンサー企業がそれだけのお金を払えるかどうか値踏みして取引の間に立ってあげるのが商売。「口座がないとね」なんて聞いたことある人もいるよね。放送局のこまごました面倒ごとを代行するんだから、メディア側にとって広告代理店はスペシャルなお客様。スポンサーを探してくれて、桁違いのお金を取りっぱぐれないように手配してくれるんだから。だから広告代理店で腕のいい営業は、なんでもできる。イベントの手配から、給付金のシステムまで受注できる。デカい話をばらして整理するのが仕事だし、応用もきくから、うまいやつは詐欺師にもなれる。

一般企業が仮に背伸びしても「いい企画」は太客にしか出さない。やっと頑張って1000万しか出せない一発限りの企業の出稿には、旬のタレントを出したり、視聴率の高い番組にスポットを流してくれたりしない。せいぜい、ペイドパブリシティとかいって、ロケのついでにさも偶然にその会社に立ち寄って商品やキャンペーンの紹介をおまけでしてあげるとか。次また予算を積んでくれたらもうちょっといい企画をまわす。回を重ねることでおまけが大きくなる。

でも昔はそんな彼らもわきまえてたんだよね、影響力があるということに自覚的だった。
90年代までは自主規制があって、審議を見分けにくいものや、消費者の利益につながりにくい業界はお断りされた。メディアによって多少違うけど、美容整形、サラ金、パチンコなどのギャンブル、そして健康食品やサプリがダメ。でも、今テレビで見るCMって大半がこの業界じゃない?笑っちゃうよね。最近減ったけど、パチンコ屋が上場企業になって企業広告とか出してんの、誰が認めたんだろう。政治がカジノを合法にって言ってた頃と重なるけど、広告屋の矜持はどうしたやら。政治家や大手企業役員のバカご子息比率が増大したようだから、タガがゆるんでるんだろうな。

ちょっと前に、人の容姿をネタにするのは止めますってSNSに投稿した芸人さんがいて、ものすごくバズって本人が一番ビックリしたってあったよね。いい人だ、時代の流れをよくわかってるって賞賛されてた人もいたようだけど、その人は数か月後に美容整形のCMに出たよ。ちょうど契約締結の頃だったんだろうね。契約書にそう書いてあって、思い当たるネタがきっとあって、ちょっとした罪悪感みたいなのを消すつもりでつぶやいたんでしょうな。容姿を笑いものにしてお金稼いでる人が美容整形のCMに出るの、企業側には都合悪いもんね。

世の中が表面的な善意で回ってて、その動力に広告屋の業務が加担してるところにすごく嫌悪感がある。こんな世の中になったのはつい最近のことなのに、そうとは知らずにこれからも続くと思い込んでいる人たちにすりこまれた矛盾を言葉にしていきたい。

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