医療崩壊って何だろう?

医療崩壊とは何か、と言う話を少し書いてみます。

たとえば、ウィキペディアでは、社会的・経済的要因によって医療現場に継続的な打撃が加わって、医療現場のクオリティが下がることを医療崩壊と定義していた……

いた、と書いたのは、新しく「コロナウイルスによる医療現場の逼迫」が加わったからで、明らかに、今回のコロナ禍がこの単語を変容させた現場に私たちが居合わせている現れかなと思う訳です。

例えば、どうでしょう。
古き良き一コマ漫画、例えば新聞のコラムの挿絵みたいなやつですが、ああ言うのなら、背景にボロボロの病院施設を描き、中央に医療という漢字を3Dっぽく描いて、クラックが入って崩れそうに演出。
地面にはぺんぺん草が生えるような絵で仕上げてくるんでしょうか。

ところが、コロナ以降の医療崩壊については、こうした旧来の医療崩壊のビジョンとは若干違ってきます。

もちろん、担い手の減少、厚生労働省の政策によって激減した医療費支出による収益性の悪化、為に縮小される医療サービス、それに「床数を減らせば補助金」などという政策によって日本中の病院が入院可能数を削減する。
などと言う状況でコロナ禍が発生したことは、全く無縁とは言いがたい訳です。

ただし、コロナの問題においての医療崩壊というのは、そういう経済的な、もしくは政治的な比喩表現としての「崩壊」とは現実味が違います。

本当に医療サービスが崩壊する危機

コロナ禍による医療崩壊は、本当に医療が崩壊する危機なのです。

まず、医師や看護師と言った医療スタッフたちがコロナウイルスに感染して離脱してしまう危機。

この現象で東京でもっとも有名なのは、慶応大学病院における院内感染でしょう。

上野にある中核医療病院、永寿総合病院からの受け入れ患者に端を発した慶応大学病院の院内感染では、研修医18名の院内感染がエキセントリックに報道され「コロナの最中に飲食して集団感染するなど、ぶっ弛んどる」などという批判が公然と世間を賑わしました。

どのくらいこれが愚かだったのか。

今、日本人の多くが、意識的か無意識か知りませんが、意味もなく隣人を恐れたり、他県からの移動者にハラスメントをしたり、パチンコ店やその客ならヘイトをぶつけてもいいと本気で思ったりしているわけで、まあ大体これが日本人であり、日本のありのままです、と言いたくなるわけですが。

話を戻すと、永寿の院長は慶応出身で、その伝手を地域医療で活かしていました。
地域の中核医療現場と言うこともあり、慶応から医師を豊富に受け入れ、かつ、重症者や慢性化した患者などを慶応や他の病院に転院させて、救急患者の受け入れなどに対応出来る体制を取っていました。

慶応からは、常時約100名にも上る外勤医を受け入れていました。
そうした医師のうち、コロナ陽性が判明するのは、7名に至ります。

また、転院患者からの感染により、慶応の院内スタッフの陽性も判明いたします。
医師1名、スタッフ3名。

控えめな表現をしても、慶応大学の医学は、日本では最高峰と言って過言ではないと思います。

そうした現場での惨事は、「ぶったるんでる」から起きたといえるでしょうか?

まあ感傷論を展開しても仕方ないので話を進めますと、その後、日本各地で続々と院内感染が発生していますので、この問題は

「コロナによる院内感染は、プロが細心の注意を払ったって起きるときには起きるのだ」

という問題だと日本中の人が理解をするしかない、という結論になるかと思います。

さすがに、今に至っては医療現場も様々な警戒や工夫を取り入れ、よりコロナ感染に抵抗力のある活動に切り替わってきていますが。

慶応大学病院は、こうした事情もあり、今現在、従来なら受け入れていたような高難度の外科手術患者などの受け入れを停止していますし、従来予約されていた外科手術なども中止しています。

さらに、コロナ禍発生後の入院患者、病院関係者へのPCR検査を全量行ったそうです。

これについては、国も厚生労働省も保健所も助けてくれないため、慶応大学病院の自腹で行っています。

慶応だからこそ出来る荒技ではありますが、逆に言うと、そこらの民営の病院や貧乏公立病院では、まず無理でしょう。

ちなみに、安倍首相はPCR検査の拡充、一日2万件の検査能力などと国会で答弁したり閣議後の会見で言ったりしていますが、鳴り物入りの補正予算含め、医療への補助金は未だに予算として成立しておらず、従って、未だ実現していません。

国へ期待するのをやめた医師会による独自のPCR検査についても、さすがに言い出してすぐ稼働出来るような性質のものではないわけでして、まだ準備中という状況です。

院内感染相次ぐ 医師・患者など疑い含め1000人余 NHKまとめ
2020年4月24日 16時47分 -記事一部抜粋-
NHKは、各自治体の発表や医療機関への取材などをもとに、3日前の今月21日の時点で各地の院内感染の状況をまとめました。
それによりますと医療機関で新型コロナウイルスに感染した、あるいはその疑いがある医療従事者や患者などは、全国のおよそ60の医療機関で合わせて1086人に上りました。
医療従事者は513人で、このうち医師は109人、准看護師などを含む看護師は181人となっています。
また、患者は534人に上っています。

ひとたび現場がこのような状況に陥ると、その病院は地域医療の担い手の能力を失うばかりか、救急救命の拠点を、その地域は失うこととなります。

世界的に見ても病院数、それも先進医療に属する能力を持つ病院が林立する東京においても、とくに高度救急救命をになっていた慶応病院や都立墨東病院、日本赤十字医療センター、東京慈恵会医科大学附属病院、東京医科大学八王子医療センター、杏林大学医学部付属病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京医科歯科大学医学部附属病院、公立昭和病院、国立がん研究センター中央病院で、一部もしくは大部分の救急医療に制限、もしくは受け入れ停止という事態が発生しています。

いずれもコロナ禍が発生する前の東京都が発表していた「受け入れ可能床数」として期待されていた病院であり、これらの病院が受け入れ能力を喪失すると、東京都のコロナ重篤患者は途端に、救助が危ぶまれる状況に陥ります。

厚生労働省や東京都には、一刻も早い現場の立て直し、充分な医療器具の提供や支援、緊急かつ潤沢な予算の確保と配分を願います。遅きに失していますが、それでもなお。

ちなみに、アベノマスクの話が出た時点で安倍晋三総理大臣が約束していた、医療機関へのサージカルマスクの提供。何ヶ月経ったでしょうか?
まだ行われておりません

コロナ打撃だけではない医療崩壊

以上は、コロナ打撃によって医療崩壊の瀬戸際に立たされてしまった医療現場の話でしたが、次の問題は、

「本来コロナ陽性患者を受け入れる能力がなかった病院」

が危機に立つ状況です。

院内感染によるリスクについては言うに及びませんし、東京都は、オリンピックやりたさに途上国などに備蓄のN95マスクやPPE(Personal Protective Equipment:個人防護具)をばらまいてしまい、結果、ストックが枯渇するという惨状を今なお招いています。

この都知事が再選有力だと聞いて絶望的な気分になりますがそれはさておき、院内感染だけが医療崩壊の引き金ではありませんよというお話を。

現在、救急救命の受け入れ手である上記の病院が能力の喪失や現象を引き起こしていながら、意外にも、東京都においては救急出動が減少している恩恵もあり、現場ではまだ、目立ったトラブルは発生していないようです。

大きな理由は、活動自粛による事故の減少が挙げられます。

交通事故を筆頭に、アルコールなどの急性中毒、脳卒中や心筋梗塞といった急病などが都内で発生するリスクが低下しているようです。

ただし、これは現在の一過性の問題であり、社会システムが徐々に正常な状態に近づくにつれて、急患の発生もまた元の水準に戻ることが予想されています。

そのとき問題になるのが、ICU(Intensive Care Unit:集中治療室)の欠乏です。

通常のICUに、もしコロナ陽性患者を受け入れたとした場合、想像に難くないかと思いますが、その病院では、他のあらゆる急患を受け入れることが不可能になります。

ICUそのものが汚染区域になるからです。

さらに、その病院では、予定されていた入院患者の手術などが不可能になりますし、場合によっては、入院している高齢者や基礎疾患を持つ患者の転院を余儀なくされるでしょう。

それらは万に一つでも院内感染が起きると、死亡リスクが格段に跳ね上がる高リスク患者だからです。

現在、緊急搬送された患者は陽性か陰性か分からないという危険な状態で各病院は治療に当たっています。

最良は、救急車内での検体採取、院外での救護活動、そして検査結果が陰性と判明した場合に救命処置室・手術室もしくはICUに搬送、というシナリオですが、状態次第ではその間に命が失われる。

となれば、各病院は救急車が一台つくごとに、決断に迫られることになるわけです。

これが東京を筆頭とした大都市圏であればまだしも。

周辺に次の病院が選べる訳もない地方であればどうなるか。考えるまでもないかと思います。

コロナに関しては、他の患者とはICUを共有し得ない。

この厳然たる事実を認識しなければ、各道府県の救急医療はもはや成り立たない。

言うまでもなく、PCR検査など保健所任せにしている場合ではない。

それどころか、可能な限り早く、PCR検査能力、人工呼吸器、酸素吸入器、CTスキャンを備えたコロナ対策病院を各自治体は用意しなければ、医療崩壊が間違いなく起きるのです。

もはやここまで世界中の状況が分かっているにもかかわらず、もし医療崩壊を起こした自治体があれば、それは誰のせいでもなく、知事の責任です。

救急医療の担い手は、妊婦を受け入れられない

これほど科学、医療が発達した現代においても、出産は母子ともに生命をかけた大事業です。

出産時にかかる危険を軽減するために必要なのは、あらゆるリスクに対応出来る準備、人員、そして機材です。

それらがすべて準備出来る病院というのは、全国で見るとさほど多いわけではありません。

そして、現在社会問題となっている現象もまた、妊婦の負担になりつつあります。

例えば、産前産後のケアなどの問題で、嫁ぎ先から実家に戻って出産するケースが近年多くありましたが、行き過ぎともいえる排他主義と利己主義の結果、多くの地方自治体は、公然と「里帰り出産お断り」と言い出しています。

つまり、もうその予定で準備していた妊婦たちは、新たに現住所で医師を探さねばならない。

ところが、先ほど触れたとおりの理由で、もしコロナ陽性者を受け入れてしまった場合、その病院では出産を直前に控えた妊婦は受け入れることが出来ません

万一にもコロナに感染させてしまうと、母子ともに危険なだけでなく、コロナの治療薬はほとんど、胎児への安全性が担保されていません
場合によっては、母胎への安全性さえ疑問視される薬剤も存在します。

つまり、現在の妊婦さんたちは、とても医療のバックアップについて心細い状況になりつつあります。

これらも、各都道府県の首長が第一の責任者になります。

どうぞ身内に妊婦さんがおられる方は、充分な情報収集をなさってください。

どこでサポートが受けられるのか。どのような医療機関があるか。

そして、お住まいの自治体の対策が不十分であれば、積極的に声を上げるべきだと思います。

現状、日本政府も自治体も、守ってくれるという安心を担保するような背景など、一切ありません。

自分の命は、自分で守る。家族の命は、家族が守る。

そういう状況です。

個人医院は経営危機

最後に。

地域医療の担い手である個人医院・クリニックに、かつてない危機が迫っています。

患者数の減少です。

外出の自粛は、確かに感染リスクを抑えることに効果はあるでしょう。

しかし、高血圧、糖尿病など慢性疾患の治療、整形外科や整骨院と言ったリハビリ医療やペインクリニックなどの現場では、患者数の減少により、収益性が極端に悪化しているケースがあります。

また、眼科や歯科などは、医療現場でもとりわけ院内感染リスクの高い分野と言うこともあり、診療を控えざるを得ない状況であると聞きます。

資本力が乏しい開業間もない医院や、医師の高齢化で規模を縮小した医院なども、こうした状況の中、廃業を余儀なくされる可能性があります。

たった一つの「コロナウイルス」という波紋が、今の日本の医療に与えるインパクト

以上、たった一言の「医療崩壊」という言葉が含んでいる、あまりにも強大で広範なリスクについて記してみました。

正直、例えば医療スタッフの離職問題、医療関係者への地域ぐるみのいじめ、陽性患者やその家族への偏見など、語り尽くせないほど、今回のコロナ禍は医療現場を蝕み続けています。

特に村八分などという風習が残るような土地では、愚かにも医療スタッフの家族に心ない言葉を浴びせたり、石つぶてを投げるような真似までしていると聞きます。

医療は資格職です。その土地で生きたくないと思えば、いつだってよそに行って就職口を得られます

医療関係者を迫害するような土地は、そのうち、高質な医療が受けられなくなるのではないでしょうか?

そうでなくても、この期に及んでも逃げずくじけず働く医療関係者は、誰しも他者を救うという職務を誇りに働いています。

そうした人々の志をくじけさせるような真似は、本当にやめていただきたい。

さらに、現内閣。

首相・財務大臣・厚生労働大臣・コロナ担当大臣。
ここでの失策は、100年名前が残りますよ。

都道府県知事。
いくつかの首長はすでに生き恥をさらしているようですが、医療現場を整えられず住民を死なせることになれば、恥では済みません。

自宅やホテルに隔離・待機させた患者を孤独死させるなど、言語道断です。

「対応に問題はなかった」

などと今言っても、いずれ必ず検証されます。

勉強不足で知らなかったなら犯罪的怠慢だし、知っていて放置したなら犯罪です。

感染拡大が始まるまでに可能な限り準備をして、もし今のアドバイザーが不十分なら増やすか変えるかしてください。

自分や職員や県会議員の給料を削ったり寄付金を強要してる暇があるなら、その金で勉強してください

ある朝、起きたら世界の姿がすっかり変わっていました。 漂流しつつある世界に、何事かをのこしつつ。