見出し画像

『日本沈没2020』感想 脚本の粗が目立つが…

Netflixで配信中の湯浅政明監督オリジナル作『日本沈没2020』を全話観ました。6話までの感想はこちら。ネタバレになる部分もあるので、未見の方はご注意ください。

脚本家について言及するのを忘れてたので書くと、吉高寿男さんは、元芸人で、舞台・ドラマ・バラエティ番組の構成、アニメでは「サザエさん」や「ドラゴンボール超」の単発脚本などと幅広く活動しています。

といっても、インタビューからもわかる通り、大筋は監督やプロデューサー中心に組み立てられるもので、脚本だけ着目してどうこう言うべきではありません。


カイトについて

感想に入ると、6話以降の展開もやはりご都合主義で唐突な部分があり、水陸両用車をどこで調達してきたんだとか、気球の件とかカイト周りで特に目立ちます。カイトと言えば、最終話の回想的なシーンでカイトが実はトランス男性ではないかと匂わせるカットが入り、成長した歩がカイトのことを彼女と形容します。カイトはカイトなので先入観なく見てほしいということからこういう形にしているかもしれませんが、やはり取ってつけたように感じてしまいますし、男性として生きてるのに歩に"彼女"と呼ばせたら駄目でしょう、と。

小野寺について

あと、気になるのは原作にも出てくる小野寺の扱い。なぜ不随の寝たきりになり、どうカルト施設シャンシティに流れ着いたのか全く描かれない。映画では、生き別れとなった婚約者を探しながら人助けに奔走し海外新聞にカミカゼとして紹介されていて、その過程でそうなったという設定かも知れませんが、未見の人にはかなり謎な人物でしかないですよね。

死の扱いについて

家族・友人みんなが助かる完全なハッピーエンドではないので、その部分でバランスは取っているところはあるかもしれません。不評な前半の呆気ないあっさりとした死の描き方も、後半の自己犠牲・感動的な死との対比もあり個人的には好み。

ラップシーンについて

『DEVILMAN crybaby』にも出てきたラップが、今作でも取り入れられていますが、crybabyは舞台が川崎であり、キャラ的にも必然性はありました(以下、磯部涼さんのレビュー参照)が、こちらは日本に対してのそれぞれの価値観の違いなどをポップに表現するという重要なシーンではありますが、やはり唐突感はありました。まあ、フリースタイルダンジョンや高校生ラップ選手権の人気などもあり、こういう感情の発露に違和感を覚えない層もいるとは思います。


最終話について

全然ちゃんと見ていない論外な深田萌絵氏のようなネトウヨからの反応もありつつ、ナチュラルなナショナリズム礼賛的な結末という感想もあり興味深いのですが、本来であったらオリンピックが開催されていた今年に合わせて、少し注目度の低いパラリンピックに焦点を当て盛り上げようという意図もあったでしょうし、その部分はあまり引っかかりませんでした。相対的に弟の話で国とか関係なく、ただ自分が好きなことで実力を示したいといったような話も入ってますし。

しかし、結局日本が完全に沈没するわけでなく、年月をかけて隆起して復興するといった展開は不要で、『マイティ・ソー バトルロイヤル』よろしく「アスガルドは場所ではない。 アスガルドは民のいる場所のことだ」 的締めで良かったのではと思います。

まとめ

MCUもそうですが、ご都合主義や突飛な部分はあっても気にならず楽しめ、説得力のある作品は数多く、そういった部分が気になったという声が多いというのはやはり作品の欠点であることは間違いなく、湯浅政明監督のロジックの飛躍的な感性が上手く噛み合っていなかったと感じます。

湯浅監督の次回作『犬王』の脚本は野木亜紀子さんで期待していますが、この作品も野木さんが担当していたらもっと良い作品になっていたのではと思う次第。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?