本格的な先発転向を目指す平井選手はどのように変化したのかをデータ的に考察する

2020年シーズンオフ中、平井選手の先発転向が報じられました。そして実際に平井選手はキャンプでの調整、そしてオープン戦での活躍を経て開幕3戦目の椅子を確保することに成功しました。
ライオンズの先発投手陣は年々防御率が悪化しており(先発防御率 2018: 4.17➡ 2019: 4.64 ➡ 2020: 4.87)平井選手の先発転向には大きな期待がかかります。
しかし先発と中継ぎは大きく異なるもの、実際のところ平井選手はどのようにして先発転向に対応しようとしているのでしょうか。

本記事ではオープン戦という特殊な環境ではありますが、実際に収集したデータを基にして平井選手がどのような投手に変貌したのかを昨年のデータと比較して取り上げたいと思います。そして僭越ながらわたくしなりに平井選手の先発転向成功に必要な要素を取り上げてみたいと思います。

1. 昨年の平井選手

まずは昨年の平井選手について振り返ってみましょう。
昨年の平井選手の概要成績は以下の通りです。

41試合登板 (4試合先発)
防御率: 4.18
5勝5敗7H
投球回数: 60.1
被安打: 60
奪三振: 53
四死球: 24
被弾 :   3


2019年に登板数のパリーグ記録を打ち立てたときと比較すると、防御率はやや悪化(2019: 3.50)しましたが他の成績はほとんど変化がなく登板過多の影響は大きくは出なかったようです。
では昨年先発した時と救援登板した時ではどうだったのでしょうか?

救援時➡先発時
防御率: 3.14➡ 
6.75
被打率:
.263➡ .275 
奪三振率:
7.74➡ 8.31
四死球率:
3.35➡ 4.15
被弾率 :
0.00➡ 1.56

大変残念なことに先発登板した際は全体的に大きく成績が落ち込んでしまっていました。
ではなぜこんなにも成績が落ち込んでしまったのでしょうか?
「長く投げることを意識しすぎて球威が減った」
「球数を減らそうとして真ん中に集めすぎた」
などの原因が思い浮かびます。
実際に私のデータで確認してみると先発時は救援時と比べ(救援時➡先発時)
ストレートの平均球速 143.0 ➡141.1
対左のゾーン率   54.0% ➡ 46.5%
対右のゾーン率   56.1% ➡ 50.0%

と変化しており、先発したい際は少し出力を下げその分より際どいところを突こうとし(その分ボール球が増えてしまっ)た傾向が見て取れます。

※ゾーン率: ストライクゾーンに投げた割合のこと

しかし先発時の大きな成績悪化はこれだけが原因ではありません。
平井選手はサイドスロー気味の右投手なので対左に弱い宿命にあります。
被OPS
2017年: 右 .537 左 .798
2018年: 右 .586 左 .737
2019年: 右 .698 左 .685
2020年: 右 .582 左 .844

このように2019年を除けば極めて左を苦手にしているといっても過言ではなく、特に2020年はその傾向が顕著といえます。
ここまでくれば察しのいい方はお気づきかもしれませんが、平井選手が先発時に大きく打ち込まれた原因として「相手が左を並べてきた」ことが挙げられます。
実際に対左への投球割合は昨年全体では52.3%だったのに対し先発時では63.8%と相手がかなり意識的に左を並べてきていることがわかります。
2021年も先発ローテに入り登板を続けていけば相手は左を並べて対策してくると予想されます。

つまり平井選手の先発転向の成功は球威や制球はもちろんですが「対左に対してどれだけ対策が取れるのか」というところにかかっているといえるでしょう。

2.2021年オープン戦での平井選手

では平井選手はオープン戦において何か変化があったのでしょうか。
実際に細かいデータで見てみましょう。
まずは投球割合です。
こちらが2020年の投球割合になります。

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これを見るとストレート・スライダーのみで84%を占めるなど多くをこの2球種に依存していたことがわかります。では次が2021年のオープン戦の投球割合になります。対左と対右で傾向に差があったため2つに分けて紹介します。

画像2

対左に対してはスライダーの割合をかなり減らしその分カットボール・そして今年覚えたというチェンジアップを投げていることがわかります。

画像3

対右に対してはスライダーを減らしカットボールを増やしていることがわかります。カーブも新しく投げているようです。

全体的に配球としては
①スライダーを減らしカットボール・カーブを意識的に投げるようになった
②対左への対策としてチェンジアップを放るようになった

この2点が昨年と比べた大きな変化になります。


それでは次に各球種の出来について見てみましょう。
まずストレートの平均球速です。
昨年は141.1でしたがオープン戦では142.1と短めな投球回ではありましたが1キロアップしていました。イニング別球速でも大きな下落はなくスタミナがついたというのは間違いないでしょう。

画像5


次に最大の武器のスライダーです。
こちらは村上選手(ヤクルト)に本塁打こそ打たれましたが(2020➡2021)
空振り率 12.5%➡20.0% (⇧7.5%)
ストライク率 56.6%➡74.3% 
(⇧17.7%)
ボール球スイング率26.3%➡47.1% 
(⇧20.8%)
と各指標において大変よくなっておりキレの良さを感じさせます。投球割合を減らしているのがもったいないぐらいですね。
平井選手自身「例年にないぐらい順調」といっていますがその背景にはこういうところがあるのかもしれませんね。

次に対左に限定して投げているチェンジアップです。
こちらは残念ながら
空振り率 9.1%
ストライク率 18.2%
ボール球スイング率 10.0%

とこれといった成果はまだないようです。

続いて今年全体的に増えているカットボールです。
こちらも残念ながら(2020➡2021)
空振り率   6.3%➡0.0% (⇩6.3%)
ストライク率 74.4%➡47.4% 
(⇩27.0%)
ボール球スイング率41.2%➡  9.1% 
(⇩32.1%)
と武器になるとまではいかず、むしろ悪化しています。そのためキレがよかったから使用しているというよりも、先発転向対策として投げているがまだ調整しきれていないというというように感じます。
昨年の髙橋光成選手のようにシーズン中での進化に期待がかかるところですね。

最後にフォークですがこちらは(2020➡2021)
空振り率   9.6%➡30.0%
ストライク率 37.0%➡50.0%

ボール球スイング率31.3%➡  44.4%

と大きく改善しているようです。
実は対左が比較的良かった2019年はこのフォークのキレがよく、空振り率が18.1%もありました。2020年に左に打ち込まれたのはこの球の不調が大きかったのかもしれません。

※シュート・カーブも投げていまたが少なかったので割愛
まとめ画像

画像5


それでは最後に制球面について見ていきましょう。
こちらは対左・対右と分けてみていきます。
2020年の対左に対してはこんな感じでした。
(赤い所ほど投げている。青い所ほど投げていない。)

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一方で2021年のオープン戦では

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(2021年の方ではさらに細かくデータを取るようになったので対応があまりよくありませんがご容赦ください)

この2つのグラフを比較すると
①基本的にアウトコースへの投球が多い
②低めのストライクゾーンに投げこめず低めのボール球が多い
③ゾーン率が低下している

ことがわかります。
②、③についてはチェンジアップが制球できずボール気味になってしまっていることが原因で、11球のみとはいえ1球しかストライクゾーンに投げこめておらず、まだ実践レベルに落とし込めていないように感じます。カットボールと同じくシーズン中での調整が望まれるところです。

続いて右について同じように見てみましょう。
2020年は

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2021年のオープン戦では

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この2つのグラフを比較すると
①アウトコースに多かった配球がベルト帯に多くなった
②ゾーンぎりぎりの球よりも真ん中の甘めの球が増加した
③ゾーン率は7%以上上昇し積極性が増した
ことがわかります。
①、②に関しては今年に入って平井選手がスライダーをフロントドア(※)に活用し始めたのが要因だと思われます。実際に昨年はスライダーは対右のアウトコースに75%放っていましたが、今年は55%ほどと大きく減っており意識的に活用していると考えられます。
③に関しては先発転向に伴い、球数減少を狙ってのことと思います。対右に関しては長年得意としているところでもあるので大きな心配はいらないでしょう。

※右投手が右打者に体に当たりそうなコースからストライクゾーンにスライダー(カットボールなど)を投げストライクを取ること

そして地味ながら初球ストライク率が45.6%から57.1%と大きく上昇している点も見逃せません。初球にストライクが取れることは投手優位に投球ができることをはじめ、特に球数を減らすのに大きな効果があると考えられます。それでも10%以上増えるというのはかなり大胆な変化といえるでしょう。

3.まとめ

それではここまでについてまとめていきます。
まずは先発転向に伴って昨年と変化した点ですが以下の6点になります。
①スライダーが減りその分カットボールやカーブが増えた
②対左対策にチェンジアップを対左限定で投げ始めた
③スタミナが増え昨年に比べ平均球速が1キロ上がった
④対右相手にフロントドアのスライダーを使い始めた
⑤昨年先発時はボール球が増えていたが今年は積極的にゾーンに投げている
⑥初球ストライク率はかなり増えた

そして先発転向の成功のカギを握る対左対策ですが、現状では
①チェンジアップはまだ手についておらず効果的ではない
②フォークは2019年のキレを取り戻した

という感じで新球チェンジアップを覚えはしましたが効果的には扱えておらず、シーズン中ではフォークを主体に使用するようになるかもしれません。
どちらにしてもこれらの落ちる球が対左に対して重要になっていくことは確実で、先発転向が成功するかどうかはこの2球種にかかっているといっても過言ではないと考察します。
試合を見る際は配球の予想などを行うのも楽しいですが平井選手を見る場合は対左の時にチェンジアップ・フォークが決まっているか、空振りが取れているのかというところに注目してみるとより楽しいかもしれません。

データ参照


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