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しょうもない話

私は今、彼氏をほったらかしにして、実家にクリスマスケーキを食べに向かっている。

駅のホームでは、手を繋ぎ体を寄せ合う男女、プレゼントをするだろう紙袋を持って電車を待つ誰かがいる。
そんな彼らをみて絶望したり、嫉妬したりもした。
でも一番心にあるのは虚しさだった、苛立ちだった。
どうして私は現状に満足できないのだろうか、どうして幸せな今を壊してしまうのか。
私にだってあるはずの幸せから、今逃げようとしている。
誰と付き合っても、うまくいかなくなる。
きっと誰だっていい、そう誰かが耳元で囁く。
そうして私は多くの人に会って多くの人を求める。
その手を声を、体を。

彼の腕に抱かれている時、ここが世界一幸せな場所なんだろうなと、他人事のように考えてしまう。
もう戻らないだろう恋の感情が、愛のみで続いて行く時、たちまちに色をなくしてしまう。
嫌いなわけでも、嫌なところがあるわけでもないのに、こんな私を断ってくれないかと強く期待している。
きっと私にとって恋は特別な感情で、その熱に浮かされ、好きだと体が熱くなっている時、とても幸せだと思ってしまう。
それがたとえ思い叶わなくとも、それで幸せなのだ。
でもそれが愛だけになってしまった時途、ありふれたものになってしまう。愛すべきもの、愛しいものは私にとってたくさんあって、冬の寒く静かな夜、ペットのカメと戯れる弟、一年に一度咲く実家のサボテン、小説や、今までの恋をしてきた相手との愛おしい時間や思い出たち、飲み会後のラーメン、そこに人の温もりの有無は関係なくなる。
目に見える形で変わらずにずっといてくれるもの、それが愛おしくてたまらない。

別に今の彼が特別なわけじゃなくなる。

ましてや、他にも愛しているものに比べたら今の彼はさほどの魅力がない。
不必要に話しかけてくるし、言葉は頼りなく、口論になったり、気をつかう。
面倒になってしまうと言うのが正直なところかもしれない。
でもそれらは全て私の独りよがりなものの考え方で、確かにあなたの腕の中は世界一幸せな場所であって、すごく大切にしてくれていて、そんなふうに思ってくれる人がいるということは、いなかった頃の自分からしたら喉から手が出るほど欲していた状況であることも間違いないのだ。

ただ、

ただ、つまらないのだ。
退屈している。ああ、好きだなと焦がれる瞬間に出会いたくて、私は外へと足を運ぶ。
ただの遊び人で、本当にしょうもない私。
しょうもない話。

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